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「順天堂」で世界を近くに ―

スポーツ健康科学部スポーツ科学科
青木 和浩 教授

今回はスポーツ健康科学部の青木和浩先生の授業「体つくり運動」にお邪魔し、インタビューさせていただきました。

出来たての新しいキャンパスに入学

1988年、習志野キャンパスからさくらキャンパスに移転した年に入学したさくらキャンパス1期生です。元々スポーツが好きで、高校の体育の教員になりたいと思っていましたが、医学的な知識があれば人々の健康などに結びつくかなと高校生の時から考えていたので、地元の千葉県で、「医学部がある大学」の体育学部というのが何よりも魅力で順天堂を受験しました。

小中高と実家から通っていたので、正直に言うと啓心寮での生活については「他人と一緒に暮らせるのかな」という不安の方が大きかったです。いま改めて振り返ると、両親の有難みや、人と触れ合うことの大事さや難しさなど、授業では学べないことをたくさん学ぶことができただけでなく、学部を超えた友人たちとの寮生活で自分自身が大きく成長できたと思います。入学して最初の年は勉強も頑張り、入部した陸上競技部の朝練や通常の練習に加えてグラウンドの整備や細々とした雑用もあったので、毎日が忙しくて大変でしたが、とても充実した1年でした。

啓心寮での一番の思い出

入学したその年にソウルオリンピックがあり、同じ千葉県出身で普段から仲良くさせてもらっていた当時4年生の鈴木大地さん(現スポーツ庁長官)がバサロ泳法で水泳の金メダルを取りました。啓心寮全体で「鈴木先輩を応援しよう!」と皆でテレビを見ながら応援して、先輩が金メダルを取った時は医学部の学生も一緒に涙を流して大喜びしたことを今でもとても鮮明に覚えています。身近な人がオリンピックに出場、しかも世界一の金メダルを取ったことは非常にインパクトがありました。

世界との出会い

ソウルオリンピック開催前、アメリカとイギリスが千葉県で陸上チームの事前キャンプをしました。僕はたまたま千葉県出身で家から通えるし、陸上競技もやっていたので、夏休みの約1ヵ月間、日本エアロビクスセンター(現、日本メディカルトレーニングセンター)というところで事前キャンプの手伝いをすることができました。

カール・ルイス、マイク・パウエル、フローレンス・ジョイナーなど、テレビやスポーツ雑誌に載っている有名な選手たちが目の前で練習し、コーチが指導しているところに自分が行って良いのかなと最初は戸惑ったことを覚えています。でも、英語が判らず辞書を持ち歩いていたこともあり、アメリカのコーチもジェスチャーや簡単な単語で接してくれたので、徐々に意思疎通ができるようになりました。文化の違いを感じたり、英会話や多くのことをもっと学びたいと日々感じたりしながら一生懸命キャンプに没頭した1ヶ月でした。

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1991年に世界選手権が東京で開催された時には、前回のキャンプが非常に良かったからとアメリカチームが再び千葉でキャンプをすることになり、「学生スタッフは1988年と同じメンバーで」という要望があって再び手伝わせてもらいました。アメリカのコーチは「よぅ、元気にしてたか?」と前よりもフレンドリーに接してくれて。試合のチケットをもらって国立競技場で応援したこともありました。前回のキャンプよりアメリカの選手たちの仲間に入れたというか、一緒にキャンプを成功させるために本当に頑張れたなという思いがあります。

その時感じたのは、大切なのは英会話力よりも相手を理解しようとする気持ちや「他を思いやる心」だということ。相手が懐を開いてくれるようなコミュニケーションができれば、言葉がなくても通じると思いました。でも、より深いコミュニケーションのためにはやはり語学が必要ですね。

体育の先生になるはずが大学院へ進学、陸上コーチへ

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入学した時は体育の先生になるのが夢でしたが、4年間学ぶ中で勉強がとても面白くなり、大学院で研究したいと思うようになりました。成績は良い方でしたが大学院に進学したいという気持ちが大きくなったことで、教員採用試験の勉強は疎かになってしまって。大学院進学でまた学費が必要になるので、教員になると思っている両親に申し訳なくて、なかなか言い出せなかったことを覚えています。当時は大学院に進む人はまだ少数でしたが、両親の応援もあり進学することができました。両親には本当に感謝しています。

大学院では最初は「人間がどういう風に健康から不健康になるのか」というのを階層的に考える「健康教育」を主に勉強しました。この頃、「健康教育」で僕がポイントにしていたのは特に大学生年代の健康感です。大学生の頃は多少無理しても平気ですが、この時期に健康習慣や健康に関する知識をきちんと確立しておかないと、年を取った時に影響します。中学・高校生は学校教育の現場でしっかり管理できるけれど、大学生くらいの年代にどのように健康教育をするのかとても興味があったんです。そして、この技法をコーチングの現場で生かしたいと思って、陸上部のアシスタントコーチとして学生の指導もすることになりました。大学院に通い始めると研究がとても面白く、研究と教育を両輪にする大学教員こそが自分自身のやりたい仕事だと感じ、大学の教員を目指し始めました。

指導方法の方向転換

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僕がまだ教員として駆け出しの非常勤講師の頃、忘年会で小川学長(現理事長)がスピーチされた言葉、「“最近の若者はけしからん”と言う教員ほどけしからん」、「若い者の発想を大事にしてもらいたい」それから「学生を見下したようなことはしないでもらいたい」、「学生は判らないから学びに来ている」、「教員も学生も対等で、お互いに教え合う存在」という内容に「すごいことを言う。こんな人がいるのか」と衝撃を受けました。

当時は教員が「上」から「下」の学生に向かって知識を伝えるのが普通の指導方法だったと思いますが、小川先生は真っ向から違う観点で話されていたので「そういう指導法もあるんだ」と感動しました。そして、自分の指導を振り返ると、大学院を出たとか、人よりも経験値が高いと自分自身が驕っていて、まさに「上」から「下」への指導をしていたなと反省しました。

その時から、時代のニーズに合わせた授業をしようと、自分と学生のために毎回リバイスするようになり、同じ授業はしなくなりました。授業を通して学生達から学ぶことがたくさんありますし、学生の反応から「次はこういう授業にしたほうが良いな」と考えたり、学生と同じ目線、同じ立場で触れ合えるようにと心掛けて授業をしています。これからもずっとそういう教員で在り続けたいと思っています。

順天堂の魅力

私が高校生のころはオリンピックや世界選手権は遠い出来事でしたが、順天堂に入学したらそういう大会で活躍した先生や学生が身近にいて、一緒に食事したり、学園祭で肩を組んだりと、世界が本当に近くに感じられるようになりました。例えば、僕は日本代表コーチとしてユニバーシアードなどの国際大会によく行きますが、他のクラブにも順天堂出身の人がいて、異国の地で同じJAPANのユニフォームを着て「お互いに頑張ろう!」と強い絆を感じることができます。順天堂にはスポーツを通じて世界を感じられる、非常に良い環境があると思います。

sports_Prof.Aoki_052015年ユニバーシアードにて、
選手団団長の鈴木大地氏と

2015年夏、世界陸上アメリカチームの事前キャンプと国際競技会を開催

学生時代のキャンプ補助員の経験は人生観が変わるような大きな転機だったので、学生にも是非こういう経験を多く積ませてあげたいと強く思っていたところ、2015年に世界陸上北京大会に参加するアメリカチームのさくらキャンパスでの事前キャンプ誘致に成功しました。

実は、陸上グラウンドを国際基準に合うように整備することが、アメリカが順天堂でキャンプする必須条件だったのですが、この話が出た時に小川理事長から呼ばれ、陸上競技部教員の考えをお伝えしたところ、宮野武先生のお力添えもあり、グラウンド大改修の許可をいただきました。あの時理事長にご決断いただけなかったら、こんなに素晴らしい経験を学生達に提供できなかったと思います。順天堂のスポーツにグローバル化の大きな機会を与えていただき、非常に感謝しており、その恩を我々が返していかなければいけないと強く思っています。

sports_Prof.Aoki_06事前キャンプ中にさくらキャンパス陸上競技場で行われた
国際競技会「Juntendo International」

順天堂には世界大会などの経験者が大勢いるのでキャンプでは彼らのノウハウやアドバイスをうまく反映し、英語を「公用語」にして、大会前のアスリートにとってストレスが少ない理想的な環境を提供することができました。アメリカの選手たちからも「自分のホームグラウンドにいるみたいだ」という最高の褒め言葉をもらいました。

スポーツ健康科学部と国際教養学部の学生、大学院生にボランティアで企画・運営に携わってもらい、学生主体でキャンプを運営し、成功に導くことができて本当に良かったと思います。ボランティアに参加する学生たちには、最初に「仁」の精神、「“他を思いやる心”を1つの基本として“順天堂人”として精一杯やろう」と話をしたので、私達のその想いが海外の選手達に通じたと思うと非常に嬉しいです。

sports_Prof.Aoki_07事前キャンプ期間中に行われたイベントの運営に
務める学生たち

sports_Prof.Aoki_08キャンプ担当サブリーダーAretha氏との記念撮影

この経験は学生自身の財産になったと思いますし、彼らが10年後、20年後に「あれは良い経験だった」「順天堂で良かった」と思い出してくれたら本当に嬉しいです。僕自身も教員という立場で今回のキャンプに携わり、学生達から多くの事を学びました。全体を通して非常に充実した取り組みとなりました。この経験を活かして2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも海外チームと学生の交流の場を作りたいと計画しています。

順天堂大学は2020年に向けて、今回のアメリカチームの事前キャンプを契機にさらにグローバル化していくと思います。医学部、2つの看護学部、新しい国際教養学部があってスポーツ健康科学部がある。この5学部が手を結べば最強のタッグが組めると思います。これからは順天堂全体で2020年に向けて動き始める時です。今までは僕たちが海外にスポーツをしに行っていましたが、これからは海外のアスリートが「最新で最高のスポーツ環境なら日本の順天堂だ」と、さくらキャンパスを拠点にしたいと思ってくれるように一生懸命頑張りたいと思います。

スポーツ健康科学部スポーツ科学科 青木 和浩  先生 経歴
1994年順天堂大学大学院 体育学研究科 修了、2014年スポーツ健康科学博士
2009年順天堂大学 スポーツ健康科学部 スポーツ科学科 先任准教授、2016年 同 教授

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