学生生活・キャリア Juntendo Scope

  • 医学部
  • 教職員

新たな治療法の発見を目指して ―

医学部膠原病内科学
天野 浩文 准教授

今回は医学部膠原病内科学の天野浩文先生にインタビューしました。

順天堂の医学部へ

父が開業医でしたので幼い頃から医療の現場に接していたのが大きかったと思います。私にとっては自然な形で医師を志し、順天堂大学に入学しました。

啓心寮に入る前は「どういう人と同室になるのかな、やっていけるのかな」と不安がありましたが、実際に入寮したら非常に良い仲間たちと出会い、とても楽しくあっという間の1年でした。入学したのは習志野キャンパス最後の方の年で、啓心寮は木造建築2階建ての古い建物でした。その古さのお陰でより一層親睦を深められた気がしますし、本当に良い思い出になっていますね。今はもう習志野キャンパスは無くなってしまいましたが、近くを通ると楽しかった当時のことを思い出します。

igakubu_Dr.Amano_02

部活動と海外の病院実習

igakubu_Dr.Amano_03ローマ、フォロ・ロマーノにて

大学でしかできないことの1つだろうと思って、学生時代はヨット部に入りました。4m70cmのヨットに2人で乗り、レースにも出ました。海の上でヨットを走らせる爽快感はたまりませんでした。

他には交換留学をするグループに入り、ドイツの病院でドイツ人医学生と一緒に実習させてもらった事もとても良い経験になりました。6年生の時には医学教育振興財団の「英国大学医学部における臨床実習のための短期留学生」に選ばれ、イギリスの大学病院で実習したことも今の仕事に活かされていると思います。

イギリスの実習では診断学の充実が一番印象的でした。当時は現在のようにOSCE(オスキー)のような診断学の実習がそれほど充実していなかったという背景があります。当時の日本では医師免許を取得して研修医になり、現場で教授や上の先生方の診察に陪席しながら診断方法を学ぶというやり方でした。また日本では当時から比較的簡単にCTや超音波といった画像検査を診断に利用しましたが、イギリスではそういう機器に頼る前に、まず患者さんと会話し、問診しながら診察し、ある程度診断を絞ってから必要な検査をするという方法を取っていて、診断学の教育が優れていました。医師が患者さんの前で、できる範囲で症状にアプローチをしていくというこの方法が医療の根本のように感じられて、印象的でした。その時イギリスの実習で受けた教育や診断の方法なども今に繋がっていると思います。

膠原病内科を選んだきっかけ

患者さんは長く病気を患うと精神的に不安になり、そういった精神的不安がさらなる病気を生み出したり悪化させたりする場合もあります。そのような慢性的な疾患や内科的な分野に学生時代から興味を持っていました。そのため研修医になると、内科の研修を選択しました。内科のいろいろな科で研修し、特定の臓器の疾患・治療を専門にするのも面白いと思いましたが、やはり全身を診て、「この患者さんはどこが一番の問題なのか」と考えながら治療する膠原病内科に一番興味が湧きました。そして非常に親身になって私を指導してくださった上司もいたので、ぜひ一緒に仕事をしたいと思い膠原病内科を選びました。

膠原病内科とは

膠原病内科は「臓器別ではない」のが大きな特徴です。脳・心臓・肝臓など特定の臓器だけではなく、全身に炎症を起こしうる病気、全身性疾患を対象としていて、どちらかというと総合診療的なイメージに近いと思います。

対象となる病気はまだ原因が解明されていない、治療法も確立していない難病が多く、若い患者さんから高齢な患者さんまで大勢いらっしゃいます。多くは慢性疾患で、ステロイドや免疫抑制薬などを使いながら病気が悪化しないように、日常生活に差し障りがないようにコントロールしていく必要があり、なかなか完治とはいかない病気です。

igakubu_Dr.Amano_04

私は外来で全身性エリテマトーデス(SLE)専門外来の他、関節リウマチ、膠原病全般を診療しています。関節リウマチは関節が痛くなって腫れて変形するというイメージがあると思いますが、膠原病は漠然としていてイメージしづらい病気だと思います。また、SLEは若い20代、30代の女性に発症することが多い病気で、蝶形紅斑という顔が赤くなる特徴がありますが、他にも腎臓や神経など全身に様々な症状も見られます。しかし免疫が関与していることや、ステロイドがよく効くというアレルギー疾患に共通した特徴もあるので、アレルギー性鼻炎や皮膚炎などと類似したアレルギー性疾患の1つとも言えるでしょう。

膠原病は整形外科や皮膚科の先生から患者さんをご紹介いただくことが多い疾患です。インフルエンザ等で高熱が出て関節が痛むことがありますが、それに似たような症状が数週間以上続く場合や、特徴的な症状がある場合は膠原病を疑い血液検査をします。血液検査で抗核抗体やリウマチ反応など、正常ではあまり出ない自己抗体が陽性になると、膠原病内科にご紹介いただくことが多いです。どこの病院でも病名か判らず、長い間痛みに耐えて精神的にも不安を抱えた患者さんも、病名が解って薬の効果が出てくると、とても喜んで笑顔になられるので、そんな時は良かったなと思います。

学生との関わり、病院での仕事

外来医長、病棟医長を経て、今は外来診療と教育活動が中心になっています。そして病棟実習の始まる4年生から5・6年生の各学年の少人数グループの学生指導と、海外からの留学生の教育担当もしています。

大学病院は教育施設でもあるので、病棟実習では毎週、回診中などに膠原病に特徴的な皮疹や関節炎などの症状がある患者さんにお願いして、学生に症状を見せていただいたり、触診をさせていただいたりしながら指導しています。病棟には病状もさまざまな患者さんがいらっしゃいますが、学生への教育にご快諾いたにだいた方にご協力をお願いしています。

外来診察は週に2日担当させていただいています。外来に来られる患者さんは比較的体調は良く、通院が可能な方々ですが、多くの患者さんを診察しなければならないので、学生が陪席しても時間をかけて丁寧に学生に指導するわけにはいかないという難しさがあります。

時々、大学から離れて学生たちと食事会をして、将来的な夢など色々な話をする機会を持っています。そんな時の雑談は私にとっても刺激になるし、非常に楽しいです。今の学生たちは、皆自分なりの夢を持っているという印象があります。国際的な視野も持っており、具体的な夢に向かって積極的に努力している学生が増えている印象で、自分の意思を明確に持っているのが非常に良いところだと思っています。

大学での研究

病棟・外来での仕事の他に、研究にも携わっています。基礎研究だけでなく、新しい治療薬の治験責任医師として臨床研究に携わったり、同じ病名の方のデータを集めて、統計解析を行ったりしています。

膠原病はまだ原因不明で、治療法も確立されていないので新しい治療法が求められています。順天堂だけでなく、日本、また世界中の研究者が画期的な治療法・治療薬を見つけようと日々努力していますが、なかなか難しいのが現状です。関節リウマチに関しては、新しい良い治療法ができていますが、その他の膠原病についてはまだまだこれから、という段階です。そういう新しい治療法を見つける研究を続けていきたいと思っています。難しい病気ですが、それだけ研究においてもやりがいを感じています。

新しいことを発見したいと願う人がより多く集まることで、今はまだ判らない部分が今後少しずつ解明されていくかもしれません。その醍醐味を、若い人たちに実際に一緒に体験してほしいと思っています。

igakubu_Dr.Amano_052015年欧州リウマチ学会(ローマ)にて

実際に患者さんを診察し、治療し、学生を指導しながら研究もするという、いろいろな角度からこの病気にアプローチできるのは大学病院ならではです。診察を通して患者さんから多くのことを学ばせていただくだけでなく、研究を通して新たな発見をすることができる。そしてそれを若い学生に伝えていくことができるのが大学病院の良さだと思います。毎日多忙ですが、それぞれが何らかの形で実ってくれば、忙しくても充実し、やりがいに繋がると思います。

医学部膠原病内科学 天野 浩文  先生 経歴
1992年順天堂大学医学部卒業
日本医科大学、スイス・ジュネーブ大学を経て、2004年順天堂大学医学部膠原病内科 助手(現:助教)、2015年より大学院膠原病・リウマチ内科学 准教授