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“北見といえばカーリング” ~地域おこし協力隊のミッション~
国際教養学部
物井 彩雲さん 2022年度卒業生

北見市の地域おこし協力隊として働いている物井彩雲(ものいあやも)さんは、2024年9月にカーリングの絵本『ゆきちゃんとぺえすけのまほうのカーリング』を北見市教育委員会から出版し、北見市のカーリング普及に大きく貢献しています。
また、2025年2月に開催された「日本カーリング選手権大会 横浜2025」でも、来場者限定で無料配布されるなど、カーリング業界で注目も集めており、今回は学部時代のゼミナール担当教員である岡部大祐講師を交え、その活躍についてお話を伺いました。
コロナ禍でみえた人との向き合い方
岡部大祐講師(以下、岡部) 物井さんはどのような方式で入学したのでしたっけ。
物井彩雲さん(以下、物井) 私はAO入試(現:総合型選抜)を受験して入学しました。実は、志願理由書の活動実績の記入が、他大学は高校3年間のみというのがほとんどだったんです。そんな中、順天堂大学だけ中学生からの活動実績を書くことができたので、私としては習い事を多くやっていたのでチャンスだと思いました!
岡部 習い事も40個近く経験してると言ってましたもんね。通っていた高校はどのような高校でしたか。
物井 国際コースとかではなく、一般的な学校の普通科に通っていました。
岡部 なぜ『国際教養学部』を目指そうと思ったんですか。
物井 もともと英語が好きだったので、言語を学びたかったことと、医学や看護などの専門性の高いことがやりたかったというよりは、幅広く多岐にわたって学べる学部にいきたいと思っていたのが理由です。
岡部 その中でもなぜ順天堂大学を?
物井 箱根駅伝が大好きで、箱根駅伝にかかわりが深い大学に行きたい!と思っていたこともあって…(笑)
その中でも自宅から通えて、学びたい理由と照らし合わせたところ、他の大学も見た中で順天堂大学が直感的に一番ビビッときたんです!
岡部 卒業論文も箱根駅伝について書いていたし、そういう意味では初志貫徹してますね!(笑) 学生生活で楽しかった経験はありますか。
物井 4年生の後期でフランスへ短期留学に行ったのですが、とても楽しかったですね。学生生活がコロナ禍でほとんど何もできず、思い描いていた「学生生活」とは異なっていたので、感染症の制限解除がされた中で短期留学の話を聞いた時に、フランス語を選択もしていたので行ってみたい!と思いました。

Mont Saint-Michelの前で

修了証をゲット!
岡部 本当に卒業間際でしたよね。その中で何か学んだことはありますか。
物井 もちろんフランス語の留学ですので、母語が英語圏の国ではないということもあって、アルファベットの発音が異なっているなど、「言葉が通じる」を実際に確かめられたのはおもしろかったです。
また、仲良い友達がクリスチャンでしたので、礼拝についてや協会に飾られているものの意味や歴史を教えてくれたのも、短期留学で何か学びたいと思っていたので、とても良い経験になりました。
岡部 旅行だと気の置けない仲間たちと行くので、どうしても学ぶことが薄れがちですが、留学となるとそうもいけないので、それはとてもいい経験でしたね。
物井 あとは学生生活の中でアカペラ部(保健医療学部や医学部などと活動する団体)にも所属していたので、他学部の学生と交流できたのは良かったです。他学部は基本的に国家資格というゴールがある学部であり、国際教養学部のようにゴール設定を自分で決められる環境とは異なった学部生と関わることはいい刺激でしたし、今でも年に数回忘年会などで集まったりもします。
岡部 逆に大学生活で難しかった経験はありますか。
物井 やはり、コロナ禍で学ぶことは難しかったですね。学生も教職員もどのように学生生活を進めていけば良いのか手探りの中で、様々な考えを持っている人が集まる学部だからこそ、オンラインなどの限られたコミュニケーションで関係性を築き上げることは簡単ではなかったです。
岡部 そこは難しかったですし、物井さんもたくさん悩みを抱えていましたもんね。そのような問題にどのように対処しましたか。
物井 ゼミ生との考え方の食い違いから衝突した時があったのですが、岡部先生から「その衝突から学びはなかったの」と聞かれた時に、「そんな物事の捉え方があるんだ」と気づけました。物事に対して正面から捉えるだけではなく、異なる捉え方もできるんだと思えたのはとても自分としては大きな発見でした。
岡部 あの時は「言葉にすること」をとても頑張っていましたよね。
物井 仕事をしてみてより強く「言葉にすること(言語化)」が大切だと感じました。「どうしてこのような感情になるのか」や、自分の置かれているなどを言語化してみることで、冷静にその事象を捉えて相手に伝えることができますし、それを瞬発的に的確に行うことが大切だなと気づきました。
また、「自分の内面の感情まで合理化しないでよい」と岡部先生に言われたことも印象深いです。自分は感情的になると、視野が狭くなり内面の感情を合理化していたことが多かったのですが、そうではないと気づけました。大切なのは、その感情自体を否定したりただ感じたままに表に出すのではなく、その感情を上手にアウトプットし、表現を選択していくのかが大切だと考えられるようになりましたし、今働き出してもその考えはとても役に立っています。
岡部 これは『異文化コミュニケーション』の神髄のような価値観で、それをうまく捉えて体現してもらっていますね。話しているだけでワードチョイスも含めて成長しているなと感じられて、とても嬉しいです!
物井 久しぶりですね、このフィードバックをいただける感じ!(笑)

物井彩雲さん

岡部大祐講師
目の前のご縁を大切に
岡部 現在のお仕事を簡単に説明してもらえますか。
物井 北見市のカーリング普及を目的(ミッション)とした「地域おこし協力隊(※)」で北見市役所に会計年度任用職員として勤めています。初心者からビギナークラス、観光客の方を対象のカーリング教室の開催や、大会運営補助として競技の写真撮影やSNSでの発信が主な業務内容です。あとは普及に関わることを自分で見つけてやっていくことも業務になるので、今回の絵本作成などが求められる役割となります。
※「地域おこし協力隊」とは、都心から地方へ移住し、その地域の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期はおおむね1年から3年です。

カーリング教室の開催などで普及を図る

小さなお子様から大人まで楽しく参加している
岡部 期限内にある程度の成果が求められるのでシビアに感じますが、どのような経緯で現在のお仕事に就かれたのですか。
物井 学生時代からカーリングが好きで、現在働いている北見市には足を運んでいました。そのため少しですが北見市の市民の方や北見市を拠点としているカーリング選手とのつながりがありました。新卒時は一般企業に勤めていたのですが、家庭の事情もあり一度離職しました。その際、それを知った北見のカーリング関係者の方が、「地域おこし協力隊に応募してみない?」と声をかけてくださり、現在チャレンジしているところです。
また、夏の終わりくらいから北見のプロカーリングチームのSNS広報も任せてもらえることになりました。(協力隊は申請すれば副業も可能)。色々なつながりもあって絵本も作成したり、想像していなかったことがどんどん起こっているので、目の前のご縁を大切にして仕事をしていきたいと思っています。
その根幹として、小中学生の時に聞いた元大阪府知事の橋下徹さんの言葉で「大阪府知事を目指してなったわけではなく、一つずつ積み上げてきたらこのような職に今就けた」と言っていたのが自分としてはとても印象的でした。また、学部生時代に道谷里英先任准教授にも「直結しなくても、なんとなくこっちにいったらつながるかも!と思った方に行くことでつながることもあるんだよ。」という言葉も大切にしており、場当たり的になっていないかなという心配もありますが、まずは目の前にある仕事やご縁を大切にしていった上で、つながっていくことを大切にしているので、あまり焦らずに仕事ができていると思います。
岡部 実は国連職員も同じように、短い期間で難しいミッションをこなしているので、とても似ているところがありますね。自由度の高い仕事ではあるが、ご縁も大切にしながらしっかりと結果をだしているから、色々なお話もあるのだと思います。
カーリングはペンギンになれる魔法
岡部 色々なつながりがある中で、今回はどのような経緯で出版をされたのですか。
物井 協力隊のミッションとしては教室開催がメインではありますが、それ以外にも何かできる時間があったので普及につながる活動をやろうとは思っていました。私の先輩でトレーナー資格を持っている隊員の方は、競技者へのトレーニング講座などでのアプローチをしており、自分では何ができるのかを考えたのです。
北見市常呂町(カーリングが最も盛んな地域)では、小学1年生からカーリングの授業がありますが、その他の地区は小学4年生からでないと授業がなく、カーリングをより早く知るきっかけがあればいいなと感じました。未就学児でも、キャスターがついた石を投げるフロアカーリングの体験しかなく、実際のカーリングに触れるには保護者がリンクに連れていくしかありませんでした。そのため、カーリングへの入り口を日常に増やしたいという思いと、小さな時に読んだお気に入りの絵本を自分がよく覚えていたこともあり、絵本の作成をしてみようと思いました。
フロアカーリング
岡部 物井さんは子どもが好きだった印象だったけど、それも少しは影響がありましたか。
物井 それもありますね。母が小さい時から色々な経験をさせてくれたのですが、その頃感じた想いが活きていると思います。
また、町の特徴として第一声にスポーツが出てくることなんてほとんどないからこそ、北見市で育つ子どもたちに『北見=カーリング』というアイデンティティーをもってもらいたいですし、そのためにはカーリングが日常の中にあってほしいとも思いました。これは食べ物や景観でもないので本当に難しいのですが、私の出身である笠間市は陶芸の街で、他の方からそれについて言われると嬉しく感じるので、そのような印象付けと似ています。
あとは、私はピアノを習っていたのですが、今は続けていなくても「ピアノが描いてあるグッズみるとつい手に取ってしまう」、そのような感覚で、カーリングに触れた時に、「昔絵本で読んだ」と言ってもらえるようになれば嬉しいと思います。
岡部 絵本は小さい子は繰り返し読むもんね。
物井 カーリングではなくても、ペンギンが好きでもいいんですよ!

絵本について語る物井さん

作成秘話を熱心に聞く岡部先生
岡部 簡単に絵本の内容の紹介をしてもらえますか。
物井 北見市にすんでいる女の子と仲良しのペンギンがいて、ある日ペンギンのように滑る遊びをするも、女の子は上手に滑れないんです。そこにカーリングのストーンのキャラクターがでてきて魔法をかけるとうまく滑れて、旅をするというファンタジー作品になってます。
岡部 こだわったポイントはどんなところがありますか。
物井 丸い形のキャラクターにこだわりました。作成にあたり絵本について色々と調べていくと、長年愛されているキャラクター(アンパンマン、ドラえもんなど)は丸が多かったんです。
また、子どもがどこに自己投影をするかも考えました。私も昔から絵本を読むと自己投影をしていたので、主人公の女の子やペンギン、自分は第二の主人公としてなど、様々な選択肢が生まれるように設定にも気を配りながら、カーリングの用語を楽しく覚えてもらえるように表現しました。
岡部 「やっぷ!」とかいいたくなるもんね!あとは言葉を知ってるとつながりも増えそうですしね。あとは絵本はあまり多く言葉を詰め込められないこともありますが、難しかったところはありますか。
物井 ひらがなで書くことによる文字数の増加も大変ではありましたが、その中でも役所から、カーリング普及活動の一環としての出版になるので、カーリングのルール説明も表現しなければいけないという思いもありました。作成にあたって、いろいろな絵本を読んでみたのですが、野球やサッカーが題材のものでも、競技の説明が意外と入っていない絵本も多く、なんとなく描かれていれば伝わるんだと気づきました。大人が読んでいると物足りない部分もあるのですが、あくまでもメインターゲットは子どもでもあるので、言葉づかいのチョイスやバランスをとることが難しかったですね。
また、最後のページの「カーリングはペンギンになれる魔法」という言葉が最初に思いついたので、どのようにそこに着地させるか、構想を練るのがやや苦労しました。
ただ、元々学童保育でアルバイトしていた時の経験も役に立って、小学6年生でもゲーム機がなかったりすると絵本を案外読むんです。年齢が低く理解が難しい読者の方は、ワードだけでも楽しんでもらえたら嬉しいです。また、年齢が少し高い子でも恥ずかしがらず楽しめる言葉選びを心がけました。
岡部 仕事上のミッションと自分の想いを絵本というコミュニケーションのジャンルに表現するのはとても難しそうし、オーディエンスを広くとったのもチャレンジでしたね。でも他の絵本をしっかり調べているのはさすがですね!
物井 あとは卒論の時も少し調べた経験が活きたのですが、子供がとらえやすい色(三原色)にすることですね。優しい色を使うことで、読み手が世界に入り込みやすくなるようにもしました。あと、絵本は背景を書かないページがあるものも多かったのも調べてわかったことでした。
「のりしろを作る存在」になる
岡部 ほかに作成にあたって学部の学びが活きたことはありましたか。
物井 色についてや、絵本は成長過程にどのように必要かなどを調べ、論理的にまとめることで、様々な角度から質問があっても、説明ができるようにしました。このようなことは国際教養学部での経験、主に卒業論文を完成させたことが活きましたし、これは絵本だけではなくて、プレゼン資料を作るにしても、他人を説得するプロセスにも活かせるので、それを学べて体現できたと思います。
岡部 想いだけで書くよりもしっかり根拠づけたのは大切ですね。出版前と後で何か変化はありましたか。
物井 自分の想像以上の反響があり驚いた反面、しっかり形に残せたんだなという実感がわきましたし、これを第一歩としてとらえることができました。職場内で他の職員さんとも、『絵本を作った人』という認知もされて親密にもなったと思いますし、仕事をしていく上でも、どのような考えで自分が仕事をやっているかが、突発的ではなく、周りに明確に伝わるようになったとも実感しています。
また、最初はなんとなく出版して配布していたのですが、とある保育園に直接持って行った際、保育士さんから「カーリングの絵本探していたんです!子どもたちにカーリングを伝えたいけど難しくて探していたので感謝しています!!」と言われました。市場調査をしていたわけでもなかったのですが、これは一番嬉しかったですね。
岡部 それは心温まるエピソードですね!現場にもニーズがあったことを分かった瞬間ですね。
物井 他にも、病院経営者やカーリングスポンサー関係者の方が見つけてほめていただいたのは、自分の自信になりました。何か形に残れば見てくれてる人がいるんだなとも感じられました。
以前、国際教養学部の卒業生ってどんな存在になれるんだろうということを白山芳久准教授と話した時に、「のりしろを作る存在」ということを言われてしっくりきたんです。今でもこの考えは私の活動の主軸にしており、今回もカーリングに携わっていく中で、カーリングを伝えたいと思いその方法を模索してる方が多くいることを強く感じたので、「のりしろになれるかも!」と思ってチャレンジできました。
岡部 この絵本が大きく発展する可能性もありますし、スペキュレーションが世界を変える部分もあるかもしれませんね。それと同時に、大きなスケールで考えつつ、身近な環境も大切にするのが国際教養の学びでもありますよね。

久しぶりの会話に談笑する物井さん

大きく成長した姿に終始笑顔の岡部先生
巨人の肩の上に立つ
岡部 この成果物をもとに、今後どのようなことをやっていきたいですか。
物井 実は、英語と日本語で電子書籍化が令和7年の2月にされました。これは北見市の図書館の電子分室でどなたでも閲覧可能です。英語版をつくる過程で、翻訳も国際教養学部の翻訳学で学んでいたので、自分自身でも携わることができました。
あとはマンネリ化しないように塗り絵のテンプレートを作成したりもしていて、グッズ化や続編などの展開も視野に入れて活動したいと思っています。
岡部 北海道は海外の方も多いですしね。
物井 あとは海外のカーリング選手にもみていただきたいので、英語だけではなく韓国語などでも展開ができればいいなと思っていますし、希望者からでもいいので、もっともっと北見市内の子どもたちに広く配布をしたいとも思っています。
岡部 どんな人に国際教養学部を勧めたいですか。
物井 なんとなく関心はあるものはあるけど定まり切らない人や、将来像の輪郭がぼんやりとしていて不安という人に勧めたいです。入学後に何を追求していくかを探すこともできますし、しっかり選びながら4年間学んでいきたい人にはオススメだと思います。
岡部 不安という言葉だとネガティブに聞こえがちですが、不安だからこそちゃんと選びたい!という想いもそこには隠されていますからね。今の現役の学生に伝えたいことはありますか。
物井 とにかくいろいろな経験をしてほしいと思います。友達と話すにしても留学するにしても、たくさん思考してほしいです。その経験や思考が安心してできる期間が大学生であり、国際教養学部でもあると思います。
岡部 国際教養学部で学んでよかったと思う一番の理由はなんですか。
物井 自分の価値観として「出会いを大切にする」がモットーなので、先生方や他の学生との出会いを大切にしてきた結果、学びを得たというのは大きかったです。順天堂大学国際教養学部に入ったからそうなったというより、順天堂大学国際教養学部に入った理由をそのような意味合いに変えようと行動をしていました。
岡部 今後、このような人間になりたい!という考えはありますか。
物井 自分のロールモデルとしている方が吉田知那美選手(ロコソラーレ所属)なのですが、いつか自分も誰かのロールモデルになれるような人間になりたいです。また、一番大切にしているのが、卒業論文を書く前に岡部先生にいただいた『巨人の肩の上に立つ』という言葉があります。自分が今見ている景色を楽しみ、でも傲慢にならずに、先人たちが大きくしてきた巨人をちょっとでも大きくできるようにこれからも努力していきたいなと思います。
【関連リンク】
・NHK北海道 NEWS WEB 記事 【カーリングのまち 北見のいま】地域おこし協力隊の女性(2025.3.3)
・北見経済新聞記事 北見市地域おこし協力隊、カーリング普及へ絵本配布(2024.11.10)