学生生活・キャリア Juntendo Scope

  • スポーツ健康科学部
  • スポーツ健康科学研究科
  • 在学生
  • 教職員

スポーツを通じた共生社会の実現へ スペシャルオリンピックス日本との連携


順天堂大学は2023年から、知的障害のある人たちにスポーツの場を提供するスペシャルオリンピックス日本(SON)と包括的な連携協定を結び、スポーツ医学と特別支援教育の知見を併せ持つ順天堂大学ならではの、多角的な連携・協力を続けています。すべての人がともにスポーツを楽しむインクルーシブな社会に向けて、順天堂大学の教員や学生はSONにどのように関わり、どんなことを学んでいるのでしょうか。SONとの連携に尽力する染谷由希准教授、SON事務局の和田武久さん、インターンシップなどに参加した大学院生の宮下央汰さん(博士前期課程2年)、直平優奈さん(博士前期課程1年)にお話を聞きました。

メディカルチームの派遣が契機に

スペシャルオリンピックス(SO)は、知的障害がある人たちに、日常的なスポーツプログラムとその成果発表の場としての競技会を提供する、国際的なスポーツ組織です。順天堂大学は2023年、SO夏季世界大会日本選手団へのメディカルチーム派遣をきっかけに、スペシャルオリンピックス日本(SON)と連携協定を締結しました。国内外の大会にてスポーツ外傷などへの対応を行うほか、SONの健康推進事業「ヘルシー・アスリート・プログラム(HAP)」や、その一部門である基礎的な健康診断「メドフェスト」などにも参加し、アスリートが安心してスポーツに取り組める環境づくりをサポートしています。

メディカルチームには、日頃から日本代表やプロチームをサポートするスポーツ医学研究室の教員らが中心となって参加しています。医師、看護師、理学療法士、アスレティックトレーナー(AT)という多職種が1つの大学から参加できることも順大ならではの強みです。

 

また、スポーツ疫学や予防医学を専門とする染谷先生が中心となり、まだ研究データの少ないSOアスリートのスポーツ外傷について調査研究を進め、ウォーミングアッププログラムの提供や実践を行うなど、予防活動にも参画しています。

 

「SOの大会やHAP、メドフェストでは学生もボランティアとして参加する機会を頂いていますので、スポーツ現場でのメディカルサポートなど実際の現場を近くで見て学べる貴重な場にもなっていると思います。」(染谷先生)

  

インタビューカット_染谷先生6

染谷由希准教授(スポーツ健康科学部)

 

さらに、スポーツ医学や特別支援教育を学ぶ学生が、SONでのインターンシップやボランティアに参加しています。より多くの学生の関心を集めるため、学内で講演会やユニファイドスポーツ®の体験会、SONのアスリートと一緒にユニファイドスポーツ®をプレーして交流する「UNIFIED CAMPUS CUP」を開催しています。学内でのこうした取り組みをきっかけに、学生がSON・千葉のスポーツプログラムに参加するなど、活動の輪が学内にも広がっています。

 

IMG_8479_トリミング

UNIFIED CAMPUS CUPの様子

スペシャルオリンピックス特集記事_トリミング

フロアボールの様子

 

※注釈
ユニファイドスポーツ®…知的障害のある人(アスリート)と知的障害のない人(パートナー)がチームメイトとなり、一緒にスポーツをするSO独自の取り組み。

学生の視野を広げるSOへの参加

アスリートと学生が交流し、ともにスポーツを楽しむことで、アスリート側が新たな経験や気づきを得るだけでなく、学生側が障害やSOへの学びと理解を深め、活動の幅を広げて成長することもできます。実際、ユニファイドスポーツのパートナーとして、学生がSONの都道府県組織SON・千葉のスポーツプログラムにも参加しています。

  

「参加した学生の様子を見ていると、SOのアスリートと一緒にスポーツを楽しみ、障害のある人に対する心理的なハードルを下げ、社会的インクルージョンの意識を高めていると感じます。参加後には達成感や充実感が得られ、ポジティブな反応がとても多いですね。アスリートと同世代で、スポーツ医学、特別支援教育、コーチングなどの基礎的な知識を備えたスポーツ健康科学部の学生は、パートナーだけでなく指導者、スタッフとして一人で複数の役割を担える、とても心強い存在だと思います。」(染谷先生)

  

スポーツ医学研究室に所属する直平さんは、学部4年生だった昨年10月、SONのイベント「SO Girls Festival」に学生スタッフとして参加しました。アスレティックトレーナーを目指して学んできた直平さんにとって、障害がある人と関わるボランティアはこのイベントが初めてでした。準備期間中は学内で新規参加者を募り、当日はスポーツ体験会の司会進行も担当しました。

 

「募集活動では、SOに対して参加のハードルが高いと感じている学生が多く、ゼロから1を作る大変さと面白さを経験することができました。当日は、関わったアスリートが本当に表情豊かにスポーツを楽しんでいる姿を見て、私自身も幸せな気持ちになりましたね」(直平さん)

 

インタビューカット_直平さん3

直平優奈さん(大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程1年)

 

さらに、それまでのトレーナーの活動とは異なるコミュニティに飛び込んだことで刺激を受け、自分の将来に対する視野が広がったといいます。

  

「新しいコミュニティの人と関わり、新しい考え方に触れることができました。そこで学んだのは、『教科書通りにやれば良い結果が出るわけではない』ということ、そして相手に向き合い、寄り添い、その人に合った最適解を考えて届けることの大切さです。実はその頃、トレーナーとして自分がどんな風に選手に関わりたいのかが分からなくなり、将来について悩んでいたのですが、既存のトレーナーの在り方にとらわれず、私だからこそできる方法で選手を支える仕事をしたいと思えるようになりました」(直平さん)

 

一方、特別支援教育学を専攻する大学院生の宮下さんは2年前、障害がある人と障害がない人が“ともに”スポーツを楽しむSOの理念に共感し、SON事務局でインターンシップを始めました。これまでに、順大生に対するスポーツプログラムの案内や募集、事務局での業務に携わり、現在は国内最大規模のSOの大会「ナショナルゲームズ」の準備でも活躍しています。

長期的にSOに携わる中で、宮下さんが特に課題を感じていたのが、指導者の高年齢化でした。

  

「順大の学生のように一緒にプレーしながら教えられるコーチが増えれば、アスリートにも新しい気づきがあると思います。そこで今、SOの指導者に焦点を当てた研究に取り組み、活動実態、活動満足度、負担度などを調査しているところです。この研究が土台になり、若手の指導者を増やす新しい方策につながればと考えています」(宮下さん)

 

インタビューカット_宮下さん1

宮下央汰さん(大学院スポーツ健康科学研究科博士前期課程2年)

 

学部を卒業後は保健体育の教員になるつもりだった宮下さんですが、インターンシップを通じてSOや特別支援教育への理解をさらに深めたいと考えるようになり、大学院に進学。「SOとの出会いで、人生が変わりましたね」と笑います。積み重ねた経験や知識を生かして、大学院修了後は特別支援学校の教員となり、障害がある子どもが運動に積極的になれる関わりを実践し、知的障害がある子どもたちとSOをつなぐ存在になることを目指しています。

ともに楽しみ、学ぶことで生まれるもの

今年の6月と9月には、国内最大規模のSOの競技大会「2026年第9回スペシャルオリンピックス日本夏季ナショナルゲーム・東京」が開催されます。ナショナルゲームは、SOのアスリートたちが日頃のトレーニングの成果を発表する4年に1度の大舞台です。その会場にも、順大のメディカルチームと学生ボランティアが派遣されます。

4年目を迎える順大との連携について、SON事務局で外部連携を担当する和田さんは、「期待以上」と手応えを感じています。

 

f15bc822-ba42-4890-8811-037a193f0ba0_トリミング済 
175f6be6-24cf-4be2-9458-eb3022bb5be0_トリミング済

  

 

「メディカルや医療安全面の強化、さらに特別支援学校でのユニファイドスポーツ®の普及・定着に向けた知見など、多面的なサポートをいただいています。また、SOは“ともに楽しみ、ともに学ぶ”機会の創出に重きを置いているため、関わってくれた学生さんとアスリートの双方に学びがあるWin-Winな関係を築けているのではないかと思います。事務局の私たちも、学生さんたちの“外からの視点”が新たな気付きになり、とても助かっているんです」(和田さん)

 

さらに今後は、SONの都道府県組織SON・千葉のプログラムでの、学生とアスリートの交流にも期待を寄せています。

 

「ぜひたくさんの学生さんに、さまざまなスポーツで関わっていただき、障害があってもなくても、一緒にスポーツができることを実感してほしいですね。順大の先生方、学生さんの力と、私たち職員の力を合わせて、さらにSOを前進させ、共生社会の実現を加速させることができたらと思っています」(和田さん)

 

日本の知的障害がある人のうち、SONのプログラムに参加しているアスリートは、まだ少ないと言われています。SONのプログラムに参加するアスリートの拡大にも、メディカルの側面から貢献できることがあるのではないか、と染谷先生は考えています。

  

「知的障害を含め、一般的に障害がある人は肥満の割合が高いことが知られています。一方で、SOの現場では、極端に痩せたアスリートを目にすることもあります。肥満はさまざまな病気のリスクを高めますが、痩せ過ぎは体力不足や転倒の危険性が増すため、どちらも注意が必要で、その改善に役立つのがスポーツです。スポーツ医学の専門家である私たちから『こんな対策をすれば安全にスポーツが実施できます』『けがをしないための予防プログラムがあります』といった情報を提供することが、知的障害がある方やご家族の安心につながり、より多くの方がスポーツをしてみようという気持ちになる。そういう形でもSONの活動を応援できると思っています。」(染谷先生)

  

障害がある人のスポーツを「サポート」するだけでなく、仲間として「ともに」楽しむ。そこから得られる気付きや経験は、社会の中で多様な人をつなぐ力になります。SOと順大の連携は、知的障害がある人の社会活動や運動の機会を広げ、スポーツを通じてインクルーシブな社会の実現に貢献しています。

  スペシャルオリンピックス特集記事_サムネイル2