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2021.12.13 (MON)

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新型コロナウイルス抗原検出試薬の性能評価を実施

~ 全自動で大規模な検体のスクリーニングを可能に ~

概要

順天堂大学大学院医学研究科臨床病態検査医学の田部陽子 教授、藍智彦 非常勤講師、齋藤香里 研究員らの研究グループは、シスメックス株式会社との共同研究で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原検出試薬「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬(※)」の性能評価を行い、鼻咽頭ぬぐい液中のSARS-CoV-2ウイルスを高い感度で検出することを確認しました。本成果は「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」が、臨床診断に有用なレベルでSARS-CoV-2 抗原を正確に検出できることを示しました。 HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬を用いた検査法は、全自動で、短時間に多くの検体を処理できることから、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する大規模な検体のスクリーニングに役立つものと期待されます。本研究結果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されました。
本研究成果のポイント
  • SARS-CoV-2抗原検出試薬「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」が鼻咽頭ぬぐい液に含まれる SARS-CoV-2抗原を正確かつ迅速に検出することを確認した。
  • 本検査法は、感染性のある新型コロナウイルスのスクリーニング検査に適しており、臨床診断に有用であることが実証された。
  • COVID-19 の再拡大に備え、大規模な検体のスクリーニングを可能にすることが期待される。

背景

新型コロナウイルス感染防止対策として、正確で簡便かつ迅速な検査の重要性は明らかです。現状はリアルタイムPCR法を用いた検査が最も感度が高く正確とされていますが、検査方法が煩雑であり、コストが高いこと、感染性がないウイルスの断片でも検出してしまうこと等が課題です。そこで、新型コロナウイルス感染症の補助診断に用いる検査法として、シスメックス社によりSARS-CoV-2抗原検出検査試薬「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」が開発されました。この試薬を用いた抗原検査は、全自動測定装置を用いることで、鼻咽頭ぬぐい液中の新型コロナウイルスを短時間で、簡便かつ簡易な核酸検出検査であるLAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法やTMA(Transcription Mediated Amplification)法に近い感度で検出することができます。この自動抗原検出システムは、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)を使用して新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が持つタンパク質を特異的に検出し、1時間あたり最大200検体を処理できるため、大規模なスクリーニング検査に適しています。本研究では、新型コロナウイルス感染者の迅速かつ大規模なスクリーニングを可能にする可能性を持つSARS-CoV-2抗原検出検査試薬「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」の臨床での有用性を検証するための性能評価を行いました。

内容

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原検出試薬「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」は、SARS-CoV-2ウイルスが持つヌクレオカプシド(N)タンパク質(*1)(抗原)(図1、図2)を検出します。本研究では、この抗原検出試薬が、患者の鼻咽頭ぬぐい液中のSARS-CoV-2ウイルスをどの程度正確に検出できるかを評価しました。
まず、この試薬が正確にSARS-CoV-2ウイルスのNタンパク質を検出することをウエスタンブロット分析(*2)により確認しました。次に、全自動免疫測定装置を用いた自動化学発光検出システムでNタンパク質を検出する際の陽性と陰性を区別するための境界値(カットオフ値)(*3)を決定しました。

図1

図1 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ヌクレオカプシド(N)タンパク質
本抗原検査では、鼻咽頭ぬぐい液中の新型コロナウイルスが持つヌクレオカプシド蛋白を検出する。

図2

図2 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原の検出方法
1.SARS-CoV-2抗原に対する標識抗体(R1)を検体中の抗原と反応させる。
2.標識抗体(R1)に結合する磁性粒子(R2)を添加、反応させた後、タンパク質の分離と洗浄を行う。
3.SARS-CoV-2 抗原に対する抗体(R3)を添加し、磁気分離と洗浄を行う。
4.緩衝液(R4)を加え、化学発光基質(R5)を反応させた後、抗原に結合した標識の発光強度を測定する。
臨床性能試験は、新型コロナウイルス感染症PCR検査が陽性となった46人の患者さんとPCR検査陰性であった69人から得られた115検体の鼻咽頭ぬぐい液を用いて実施しました。「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」は、一般的な風邪やインフルエンザを引き起こす他のヒトコロナウイルス(*4)では陽性を示すことなく、高い特異度があることがわかりました。また、SARS-CoV-2ウイルスに感染していない69人はいずれも陰性の結果となりました。さらに「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」は、PCR検査でSARS-CoV-2ウイルスのRNA遺伝子のコピー数が100以上を含む検体(鼻咽頭ぬぐい液)では95.4%が陽性を示し、コピー数が99未満の検体では16.6%が陽性となりました。これらの陽性検体のカットオフインデックス値(*5)は、PCRのコピー数と良好な相関を示しました(図3)。重要な点として、ウイルス量が少ない(コピー数が50未満)検体の81.8%が陰性と診断されました。ウイルス量が非常に少ない場合には、感染力がほとんどないことから、この結果は「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」が、PCR検査と比較して臨床で有用に活用できることを示しています。

図3

図3 HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬によるウイルス蛋白測定値と、RT-PCR法によるウイルスRNA測定値の相関
陽性検体のカットオフインデックス値は、PCRのコピー数と良好な相関を示した。
本研究によって、迅速で大量検体の測定が可能な「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」を用いた抗原検査は、感染性のある新型コロナウイルスのスクリーニング検査に適しており、臨床診断に役立つ可能性を示しました。

今後の展開

本研究では、全自動免疫測定装置を用いた抗原検査が多数の検体を十分な精度で迅速に測定できることを示し、臨床診断に用いるスクリーニング検査として有用であることを確認しました。 「HISCLTM SARS-CoV-2 Ag 試薬」は既に国内で定量試薬として製造販売承認を受け、その特性を活かして新型コロナウイルスのスクリーニングに使用されています。本研究は日本でのみ実施されたことから、今後、海外でも検証を行うなど、さらに広い範囲で検証を進めていくことが望まれます。また、新型コロナウイルスには多くの変異株が出現しているため、各種の変異株でも正確な測定が行えることを検証していく必要があります。また、いずれの検査においても、ウイルス量が少ない例では検出限界以下(陰性)となることや、同一被検者でも経時的に排出ウイルス量が変化するため、適切なタイミングで採取採取を行う必要があります。各検査法が持つ特徴(感度、特異度、迅速性等)を理解し、検査の効率性と精度を高める適切な運用が必要です。

用語解説

*1 ヌクレオカプシドタンパク質:コロナウイルスを構成するタンパク質の1つ。新型コロナウイルスの構造タンパク質として、スパイクタンパク質、エンベロープタンパク質、膜タンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質がある。
*2 ウエスタンブロット分析:抗原抗体反応を利用して特定のタンパク質を検出する方法。
*3 カットオフ値:検査の陽性・陰性を識別する数値。
*4 ヒトコロナウイルス:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)以外のヒトに感染するコロナウイルスとしては、風邪の原因ウイルスととなる4種類( HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)と、動物から感染した重症肺炎ウイルス2種類(SARS-CoV、MARS-CoV)が知られている。
*5 カットオフインデックス (COI): カットオフ値の発光強度を1.0とした時の検体の発光強度の値で、検出した抗原量を示す。
※ HISCLはシスメックス株式会社の登録商標です。

原著論文

本研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版(2021年12月1日付)で発表されました。
論文タイトル: Performance and usefulness of a novel automated immunoassay HISCL SARS-CoV-2 Antigen assay kit for the diagnosis of COVID-19
日本語訳: 新型コロナウイルス感染症診断のための新規抗原検出試薬キットの性能と有用性
著者: : Kaori Saito, Tomohiko Ai, Akinori Kawai, Jun Matsui, Yoshiyuki Fukushima, Norihiro Kikukawa, Takuya Kyoutou, Masayoshi Chonan, Takeaki Kawakami, Yoshie Hosaka, Shigeki Misawa, Haruhi Takagi, Yasushi Matsushita, Makoto Hiki, Atsushi Okuzawa, Satoshi Hori, Toshio Naito, Takashi Miida, Kazuhisa Takahashi, Yoko Tabe
著者(日本語表記):齋藤香里1, 藍智彦1, 河合昭典2, 松井淳2,福島義之2,菊川紀弘2,京藤拓也2, 長南正佳3, 川上剛明3, 保坂好恵3, 三澤 成毅3, 髙木陽4,松下靖5,比企誠6,奥澤淳司7,8,堀賢9,内藤 俊夫8,10, 三井田 孝1,髙橋 和久4,8,田部 陽子1,8,
所属:1)順天堂大学大学院医学研究科臨床病態検査医学, 2)シスメックス株式会社, 3)順天堂医院臨床検査部, 4) 順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学, 5)順天堂大学大学院医学研究科膠原病内科学, 6)順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学, 7)順天堂大学革新的医療技術開発研究センター, 8)順天堂大学大学院医学研究科バイオリソースバンク活用研究支援講座, 9)順天堂大学大学院医学研究科感染制御科学, 10)順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-02636-x