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2021.11.19 (FRI)

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高齢社会における地域に根差したコミュニティ活動の有効性を検証

~国際基準で評価された「日本モデル」を世界に向けて発信~

概要

順天堂大学健康総合科学先端研究機構のミョーニエンアング特任准教授、国際教養学部(グローバルヘルスサービス領域)の湯浅資之教授らの研究グループは、日本国内における高齢者コミュニティの調査を行い、世界保健機関(WHO)が研究課題として定める「コミュニティベースのソーシャルイノベーション(CBSI*1)」として報告しました。CBSIはこれまでに世界の高中所得国14か国で報告されていますが、日本での調査報告はこれまであまりなされていませんでした。今回の研究では高齢者のコミュニティ活動の運営方法や参加者への効果を定量的・定性的に分析したことで、日本のCBSIが、WHOが定める「健康的な高齢化*2」に貢献し、高齢者の生活の質の保持に寄与していることを示す構造モデルを提示しました。この報告は、今後諸外国において各国の社会政策の策定に役立てられることが期待されます。本成果はThe Gerontologist誌のオンライン版で先行公開されました。

調査の背景

日本の人口における高齢者(65歳以上)の割合は全体の28.7%を占め、世界で最も高くなっています(総務省統計局、2020年9月15日時点)。世界各国で高齢化が進む中、超高齢社会である日本において、高齢者に配慮した環境や安全で活気のある生活を支えるための社会的資源がどのように整備されているのかは、各国からも注目されています。日本には以前より各地域に高齢者が参加できるコミュニティ活動が多数存在しています。研究グループはこれらのコミュニティをCBSIとして位置づけ、介護予防運動などのグループ活動(CBSI1)と、読書や合唱、編み物などの趣味を行う社会・文化的活動(CBSI2)に分類し、それらの運営形態と高齢者を取り巻く環境およびCBSIと生活の質との関わりについて分析しました。

調査の概要

調査期間: 2018年11月~2021年1月

調査方法:
  1. アンケート:日本各地のコミュニティに参加する243名(年齢中央値74歳)
  2. インタビュー:コミュニティメンバー4~5名で構成される10のフォーカスグループ
  3. インタビュー:東京および山形でアンケートに回答した26名(65~87歳)

※インタビューはボランティアのグループ運動インストラクターや一次医療提供者などが実施した
※アンケートの回答はWHOが推奨する高齢者にやさしい20の環境項目にしたがって数値を解析した
※インタビューはWHOが定めるCBSIの資料を使用して解析した

介護予防体操

CBSI1に分類される介護予防体操の様子

絆サロン

CBSI2に分類される「絆サロン」
調査によって明らかになった日本のCBSIの特徴
  1. 日本のCBSIは公共のスペースという環境において参加者の自発的な参加や運営により維持されており、トレーナーなど指導的な立場をする人材をボランティアなどのコミュニティリソースでまかなっている。
  2. CBSI 1(運動グループ)は、健康増進と社会参加のための集団行動の良い例で、孤独感を減らし、高齢の地域住民の間の社会的つながりを維持する機会を提供している。
  3. CBSI 2(社会・文化的活動)は趣味に基づいて価値観を共有する場として機能し、高齢者の自主性を高め、自分の興味に基づいた生活を楽しむ助けとなっている。
以上の内容をもとに、日本国内で高齢者の生活の質が担保される構造モデルを作成しました。日本のCBSIは、社会的なつながりの多様性の一つとして位置づけられると共に、高齢者の社会的・身体的能力の向上に寄与し、「健康的な高齢化」を支えています。そして、高齢者の生活の質が保たれることにも貢献しています。

図1

図:高齢者の生活の質への道筋を示す構造モデル

今後の展開

今回の調査では、日本のCBSIが地域に住む高齢者にとって社会的・心理的・身体的な豊かさや生活の質の保持にどのように役立てられているのかを示すことができました。今後この報告内容がアジア及び世界各国の社会政策の策定に適用されることが期待されます。
一方、2020年より始まった新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、日本国内の多くの地域でコミュニティ活動が無制限、または断続的な活動停止を余儀なくされています。今後は高齢者の健康増進や生活の質の保持のためにもデジタル技術の活用が高齢者コミュニティにおいてもますます必要になることから、研究グループでは「デジタルインクルーシブで健康的な高齢者コミュニティ」についての研究を進めています。

用語解説

*1 CBSI(Community based social innovation:高齢者のための地域レベルの社会的イノベーション): WHOの定義では、高齢者が自分自身や仲間をケアする際の自己効力感を高め、ウェルビーイングを維持し、社会とのつながりや社会的包摂につながる地域レベルの取り組み。
*2 健康的な高齢化:WHOが定めた概念で、高齢者の価値観に応じて機能的能力が維持されることを意味する。

原著論文

本研究はThe Gerontologist誌のオンライン版で(2021年8月12日付)先行公開されました。
タイトル:Age-friendly environment and community-based social innovation in Japan: A mixed-method study
タイトル(日本語訳):日本における高齢者に優しい環境と地域に根ざした社会的イノベーション:混合研究
著者:Myo Nyein Aung1*, Yuka Koyanagi2 Satomi Ueno3 Sariyamon Tiraphat4 Motoyuki Yuasa5
著者所属:1. 順天堂大学健康総合科学先端研究機構・国際教養学部 2.東京有明医療大学保健医療学部柔道整復学科 3. 4.聖泉女学院大学看護学部看護学科4.ASEAN Institute for Health Development, Mahidol University, Nakhon Pathom, Thailand 5.順天堂大学大学院医学研究科・国際教養学部
DOI: https://doi.org/10.1093/geront/gnab121

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