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2021.02.10 (WED)

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AI自動分析システムにより血液がんの高精度鑑別に成功

~血液を用いた早期AIスクリーニング検査・診断支援技術の実現へ~

順天堂大学大学院医学研究科次世代血液検査医学講座の木村考伸 大学院生、田部陽子 教授らとシスメックス株式会社の共同研究グループは、人工知能(AI)における深層学習技術(*1)を用い、複数の血液検査結果を総合的に判断することで、血液疾患鑑別が可能な「統合型AI分析システム」を構築しました。本研究ではこのAIシステムを用いて血液がんであるフィラデルフィア染色体陰性(Ph-)骨髄増殖性腫瘍(*2)患者の病型分類に対する網羅的解析を行い、高精度な自動鑑別が可能であることを実証しました。今回の成果は今後、骨髄増殖性腫瘍の鑑別にあたりAI自動分析技術による末梢血を用いた迅速で簡便なスクリーニング検査・診断支援への応用につながると期待されます。
本研究結果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版(2021年2月9日付)で公開されました。
本研究成果のポイント
  • 血液疾患鑑別が可能な「統合型AI分析システム」を構築
  • 血液がんであるフィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍の高精度な自動鑑別が可能
  • AI自動分析による末梢血を用いた簡便で迅速なスクリーニング検査・診断支援の実用化に前進

背景

近年、CTやMRI等を用いた医療画像領域を中心にAI深層学習技術を用いた画像診断支援が活発に議論され、一部は既に臨床応用が検討されています。血液疾患の診断においては、血球数算定検査や顕微鏡による血液細胞形態検査、細胞表面抗原検査、さらに遺伝子検査など、複数の検査情報に基づいた総合的な判断が必要ですが、これらの検査に携わる熟練した検査技師や医師が不足していることから、AI深層学習技術を用いた血液疾患の診断支援のニーズが高まってきました。特に、血液がんのフィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍は血液細胞形態での判別が難しく病型分類が困難でした。そこで本研究では、血液細胞形態のAI自動分析と血液基本検査である血球数算定の測定結果を組合せた「統合型AI分析システム」による早期スクリーニング検査・診断支援システムの構築を目指しました。

内容

本研究では、血液疾患、感染症や健常人を含む3,261症例の末梢血液標本から収集した計695,030個の大規模な血液細胞のデジタル画像データベースを用いて、まず、深層学習技術によるAI画像解析システムの構築を行いました。さらに基本的検査である血球数算定情報(150項目)を組み込むことで「統合型AI分析システム」の構築を行いました。
次に、本システムを用いて骨髄増殖性腫瘍の病型である真性多血症(*3)、本態性血小板血症(*4)、骨髄線維症(*5)に対する血液検査情報の網羅的な分析を行いました。まず、AI深層学習を用いて血液細胞の形態異常などの画像特徴量(17種類の細胞分類、97種類の形態異常)を抽出しました。抽出された特徴量に血球数算定の値を統合し、統計的計算により病型鑑別に最も効果的と判定された174の特徴量を選び出しました。その後、これらの特徴量を用いてAI技術の1つである勾配ブースティング法(*6)による解析を実施しました。
そして、骨髄増殖性腫瘍の病型鑑別に対して本システムによる鑑別診断能を検証した結果(真性多血症:34症例学習/9症例検証、本態性血小板血症:167症例学習/53症例検証、骨髄線維症69症例学習/12症例検証)、極めて高精度な診断能力(真性多血症:感度100.0%・特異度95.4%、本態性血小板血症:感度90.6%・特異度95.2%、骨髄線維症:感度100.0%・特異度90.3%)を有することを実証しました。
以上の結果から、本研究で構築した「統合型AI分析システム」(図)が血液がんである骨髄増殖性腫瘍の早期スクリーニング検査・診断支援に有用であることを示しました。

図1

図 本研究で構築した「統合型AI分析システム」による疾患予測結果
本AIシステムにおける血液検査結果の抽出から疾患鑑別に至るまでのフロー。各血液検査項目を統合した後、各項目が疾患予測に及ぼすインパクト度数(SHAP値(*7))をAI計算し、統計的有意差検定等を行うことにより測定項目を選定する。最終的に真性多血症、本態性血小板血症、骨髄線維症の三病型の鑑別を尤度確率として提示する。疾患に対する予測確率を3次元上にプロットした図(右)では、頂点位置が各疾患における100%確率を示す。頂点の間に位置するプロットはAIに多少「迷い」が生じている状態を示している。この分析システムを用いることで、骨髄増殖性腫瘍の病型分類を高精度で鑑別できるようになった。

今後の展開

今後、本研究成果の臨床実用化を進めると共に、さらに多種類の検査データを組み入れることによって汎用性のあるAI自動分析システムの構築を進めたいと考えています。さらに、白血病などの血液疾患の確定診断に不可欠である骨髄検査の自動化を次のターゲットとして、骨髄中の細胞の自動識別に挑戦し、確定診断に踏み込んだAIシステムの構築を目指します。
研究グループは、世界の臨床検査・診断支援技術をさらにリードする研究に取り組んでいきます。

用語解説

*1 深層学習技術: 何段もの深い層を持つニューラルネットワークで構成される人工知能技術。深層畳み込みニューラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Network; Deep CNNs) などが、人間の視覚をモデルに考案され、画像認識の分野で優れた性能を発揮している。
*2 骨髄増殖性腫瘍 : 骨髄中の造血幹細胞の腫瘍化による発症する疾患であり、顆粒球系、赤芽球、巨核球などの骨髄系細胞の著明な増加を特徴とする。
*3 真性多血症 : 骨髄増殖性腫瘍の一病型であり、骨髄での赤血球産生が過剰亢進する疾患。JAK2遺伝子変異などにより赤血球の増殖が進行する。白血球数、血小板数の増加もしばしば認める。
*4 本態性血小板血症 : 骨髄増殖性腫瘍の一病型であり、血小板の著明な増加を特徴とし血栓や出血傾向を呈する疾患。JAK2、CALR、MPLなどの遺伝子変異が原因と考えられている。
*5 骨髄線維症 : 骨髄増殖性腫瘍の一病型であり、造血幹細胞の異常により骨髄の線維化が進行する。骨髄血液産生能が低下し、貧血症状や出血傾向、易感染性が認められる。
*6 勾配ブースティング法 : 主に数値項目に対し高精度での予測・判別を実現する機械学習アルゴリズム。
*7 SHAP値 : SHapeley Additive exPlanationの略称で、機械学習が予測を与えた際に、予測のために用いた各特徴量の結果への寄与度(影響度)を示唆するアルゴリズム。主に予測した結果を解釈する場合に用いられる。

原著論文

本研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版(2021年2月9日付)で公開されました。
論文タイトル: Automated diagnostic support system with deep learning algorithms for distinction of Philadelphia chromosome-negative myeloproliferative neoplasms using peripheral blood specimen.
日本語訳: 深層学習を用いたフィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍の鑑別診断支援
著者: Konobu Kimura, Tomohiko Ai, Yuki Horiuchi, Akihiko Matsuzaki, Kumiko Nishibe, Setsuko Marutani, Kaori Saito, Kimiko Kaniyu, Ikki Takehara, Kinya Uchihashi, Akimichi Ohsaka, Yoko Tabe
著者(日本語表記): 木村考伸1 、藍智彦2、堀内裕紀2、松崎昭彦1、西部久美子1、丸谷節子1、齋藤香里1,2、蟹由公子1、竹原一起3、 内橋欣也3、 大坂顯通1、田部陽子1,2
所属: 1) 順天堂大学大学院医学研究科次世代血液検査医学講座 、2) 順天堂大学大学院医学研究科臨床病態検査医学、 3) シスメックス株式会社
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-82826-9
関連特許: 1件申請中
本研究は、シスメックス株式会社との共同研究として行われました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。

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