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言葉が通じない状況で医療機関を受診するとは、どんなことなのか? 順天堂大学が授業で「手話の病院」を初実施

ろう者が抱える困難を医学生が体験

順天堂大学医学部(学部長:服部信孝)は、2022年6月21日、医学教育研究室の基礎ゼミナールにおけるシミュレーション教育の一環として、ろう者の方々が医療者役、医学生が患者役に扮して病院を受診するロールプレイ授業「手話の病院」を初めて実施しました。その様子を動画で公開しましたので、お知らせします。
「手話の病院」とは?
「手話の病院」は、ろう者の方々が医療者(医師、看護師、薬剤師、医療事務職員)役、医学生が患者役に扮して“手話言語”がコミュニケーション手段となっている病院を受診するという設定で実施される、ロールプレイを用いたシミュレーション教育のひとつです。
言葉が通じない状況で医療機関を受診するというのはどのようなことなのか、体験を通して学ぶことを目的としています。米国・ロチェスター大学医学部で1998年に始まりましたが、国内医学部での実施例はこれまで確認できておらず、本学においても今回が初めての実施となります。

実施概要

実施日時:2022年6月21日(火)13:00~17:00
  • 医学教育研究室の基礎ゼミナールを受講する医学部の学生(3年生)6名を対象に実施しました。
  • 医師、看護師、薬剤師、医療事務職員、手話通訳者役として、筑波技術大学(学長:石原保志)障害者高等教育
    研究支援センターの大杉豊教授、小林洋子講師や同大学情報アクセシビリティ専攻の大学院生、薬剤師でNPO法人インフォメーションギャップバスター(IGB)理事の吉田将明氏はじめ、ろう者や手話話者の協力を得ました。
  • 基盤研究(B)医療における「やさしい日本語」の有効性検証と通訳者と協働できる教育プログラム開発(22H03322)の助成により実施・記録しました。

授業のポイント

【1】手話コミュニケーションに挑戦し、“言語の障壁”を体験

医学生が患者役とその付き添い役の2人1組となって、ろう者の方が医療者に扮する病院外来(受付・診察室・薬局)を受診しました。学生は、事前に五十音と基本的な手話を学んだうえで参加しましたが、待合室では手話で呼び出されたのに気づかなかったり、医師にうまく症状が伝えられずにもどかしさを感じる場面、処方薬の説明が十分に理解できず不安な表情を浮かべる場面も見られました。ろう者の方が普段、患者として医療機関で遭遇する困難を、逆の立場で体験する機会となりました。

手話の病院

手話を使って医師とのやり取りを試みる学生(右)

【2】手話通訳者の必要性を感じる

「手話の病院」では、医師、看護師、薬剤師、医療事務職員の役すべてをろう者の方に担当いただきましたが、言葉が通じにくい状況下では、通訳者の存在によってコミュニケーションがどのように変化するか、情報量や接しやすさに違いが生じるか体験できるよう、手話通訳者の方にも協力いただきました。
薬剤師による処方薬の説明では、はじめは手話と筆談が用いられましたが、十分な意思疎通が難しかったことから最後に手話通訳者が間に入りました。互いに情報を適切に授受できると、薬剤師側にも患者側にも安堵の表情が見られました。

手話の病院

手話通訳者(右から2番目)が入って行われた処方薬の説明

【3】将来、医師としてできることは何かを考える

「手話の病院」でのロールプレイ終了後に、患者役の学生と医療者役が集まり、振り返りを実施しました。受付・診察室・薬局それぞれの場面において、医療者側、また、患者側として気がついたことや感じたことについて意見交換をしました。言葉が通じない状況で受診することの不安や困難を認識した学生たちは、将来、自分たちがどのような医師であるべきか、改めて見つめ直していました。

手話の病院

参加者全員で実施した振り返りの様子
<動画について>
医学教育研究室の基礎ゼミナールでは、健康格差の原因となっている社会的要因を体験を通して学んでいます。そのなかで、声をあげにくい方たちの代弁者となる「アドボケイト」としての役割を果たすために、学んだことを動画にする課題を課しています。今回公開した動画は、今年度のゼミ生が作成した動画の一部です。研究室が取り組む教育研究(22H03322)の一環として、情報保障のために字幕を加え手話通訳の追加を外部に依頼しました。

動画URL:https://youtu.be/Fxst42WefYk

「手話の病院」に参加した学生の感想

体験する前は、伝えられるか不安でしたが、ジェスチャーと指文字でなんとか頑張りたいと思っていました。その一方で、時間がないのに面倒臭いと思われてしまったらどうしよう、伝えることを諦めてしまうかもしれない、と心配していました。体験を終えてみて、自分の手話が伝わった時は嬉しかったです。しかし、覚えた手話を使って伝えることに必死で、相手の言っていることが分からないもどかしさを感じました。つい分かったふりをしたくなりましたが、ろう者の方には、理解していないということが表情でバレてしまいました。これから少しでも手話を覚え、診察の際は直接向き合う時間を大切にし、ろう者の方に、この病院に来てよかったと思ってもらえるような医師になりたいと思います。

武田裕子教授コメント

私たちの教室では、5年ほど前から「やさしい日本語」に取り組んでいます。そのなかで、ろう者や手話通訳者にも「やさしい日本語」が伝わりやすいと聞きました。それまで、手話言語が日本語とは異なる文構造や文法を持ち、独自の言語であるとは知りませんでした。あらためてろう者に医療機関受診で遭遇する困難を教えていただき、想像もできていなかったことに愕然としました。医学教育でどう取り組むか思案していたところ、筑波技術大学の大杉豊教授にロチェスター大学の“Deaf Strong Hospital”について教えていただきました。学生が感想で述べているように、効果的な学びとなり「ろう文化」の一端にも触れることができました。ご協力くださったろう者の皆様に心より感謝申し上げます。
現在、大杉教授らとの共同研究を進めています(科研22H03322:医療における「やさしい日本語」の有効性検証と通訳者と協働できる教育プログラム開発)。地域の聴覚障害当事者団体のご協力を得て、医学・医療者教育に紹介・導入できるよう取組んでまいります。

武田裕子教授

武田裕子教授
<関連記事のご紹介>
誰一人取り残さない医療のために。ろう者と医療機関の壁を取り除く順天堂の取り組み(順天堂大学特設サイト「GOOD HEALTH JOURNAL」)

URL:https://goodhealth.juntendo.ac.jp/social/000285.html