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2022.05.27 (FRI)

  • 順天堂大学について

ウクライナ避難民に係るモルドバ調査団への本学教員の派遣について

 順天堂大学は、JICAによるウクライナ避難民及び周辺国支援のための緊急人道支援・保健医療分野協力ニーズ調査団の第二次調査団として、本学医学部附属練馬病院の大場次郎准教授が参加しました。本学は、国際協力機構(JICA)と保健医療分野の連携協定を締結しており、調査団への協力は本協定に基づくものです。

調査団参加の経緯

 国際協力機構(JICA)は、ウクライナ避難民及び周辺国支援のため、緊急人道支援・保健医療分野協力ニーズ調査団をウクライナの隣国モルドバに派遣することを決定し、医療関係者及びJICA職員等で構成する第一次調査団が3月19日、第二次調査団が4月5日に日本を出発し、モルドバに支援に入りました。第二次調査団に本学医学部付属練馬病院の大場次郎准教授が参団しました。
 第二次調査団が支援に入る時期まで、モルドバには約38.8万名がウクライナから入国し、多くがルーマニアなどのモルドバ国外に移動しましたが、そのうち9.6万名が引き続きモルドバに滞在していました。ウクライナ南部と国境を接し、九州ほどの国土に264万人が暮らすモルドバは、避難民が流入するウクライナ周辺国の中でも経済基盤が脆弱で、ひとり当たりのGDPは日本の9分の1です。そのモルドバにとって、医療サービスのひっ迫が懸念されました。
 第一次調査団は、避難所や病院訪問などを中心に精力的な調査活動を行い、その結果、高度医療を必要とする慢性疾患を抱えた避難民流入によるモルドバの医療体制への負荷増大、医療機材の老朽化やメンテナンスを行う人材不足、ウクライナから多くを調達していた医薬品をはじめとする医療資機材不足等の課題が特定されました。さらに第二次調査団では、これらの課題に対する現地のニーズを具体化すべく、緊急性を要する医療機材の選定や優先順位付けを行い、支援策を迅速に策定することができました。また、調査団はモルドバ保健省及びWHOによって設置されたEMTCC(緊急医療チーム調整所:Emergency Medical Team Coordination Cell)に参加し、各国緊急医療チームの活動調整、WHOの承認を得ている災害医療情報の標準化手法のMDS (Minimum Data Set) の活用による患者情報のデータ分析、情勢悪化に備えた緊急医療チームの配置計画の策定等への支援を継続して実施しました。MDSの導入支援により患者データが数値化・可視化され、避難民の求めている医療ニーズや傾向などを明らかにし、現地の支援調整に貢献することができました。調査団により具体化された支援策については、JICAおよびパートナー機関が早期に実施するとともに、避難民を受け入れているモルドバを含むウクライナ周辺国に対し、引き続き最大限の協力を行っていく予定となっています。
 本学は、JICAと保健医療分野の連携協定を締結しており、調査団への協力は本協定に基づくものです。本学とJICAはこれまで、①タイ国政府と協力して皮膚・アレルギー学・形成外科学の分野におけるアジア太平洋諸国、中近東、アフリカ諸国からの専門医育成教育を約40年以上続け、更に②高齢化対策や非感染性疾患対策に関するJICA海外協力隊派遣、及び③ボリビアにおける保健セクターの事業などで協力してきました。今後も保健医療分野における連携が加速することが期待されます。
大場次郎准教授コメント
 「これまで、2013年フィリピン台風被害、2015年バヌアツサイクロン被害、2015年ネパール地震被害に対する国際支援の経験があります。国内災害支援に関しても多くの経験があり、主に自然災害に対する緊急医療支援に多く携わってきました。一人でも多くの被災者の方々の笑顔を見ることができればとの思いで、活動を続けてきました。
 今回の活動が、今までの活動と圧倒的に異なる点は、人が起こしている人為的災害であるということです。自然災害では、時間の経過と共に、木々が芽吹き、まちが明るくなり、子供たちの笑顔が見られるようになり、徐々に町が復興に向かっていること、明るい未来に進んでいることを肌で感じる瞬間が多々あります。
 しかし、ウクライナを含む周辺国の人々が心配している事は侵攻によるさらなる被害拡大です。人為的災害の悲しさ、先行きが戦況に左右される不安定さを強く感じました。日本国内に居てできることは、関心を持ち続け、決して風化させないことが大切です。
 一方で、原因が人為的災害であっても自然災害であっても、避難してきた方々に必要となる緊急医療は変わりません。地震や豪雨など災害医療に向き合い乗り越えてきた日本の技術や健康危機管理の知見は、世界でも際立つと感じました。早く侵攻が終結することを切望しております。」

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日本を出発する調査団員(大場医師は左から二番目)

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災害医療チームを効果的に配置できる場所を確認する大場医師(左)
写真提供: JICA