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2020.03.27 (FRI)

ドライアイの自覚症状の重症化と抑うつ症状は関係する

~iPhoneアプリ「ドライアイリズム®」を用いた医療ビッグデータによる臨床研究から~

順天堂大学大学院医学研究科眼科学の村上 晶 教授、猪俣 武範 准教授らの研究グループは、リサーチキット(ResearchKit)*1を用いて開発したiPhoneアプリケーション「ドライアイリズム®︎」*2によるクラウド型大規模臨床研究*3を実施した結果、ドライアイの自覚症状が重症化するほど抑うつ症状を併発することを明らかにしました。これにより、ドライアイの自覚症状を観察することで、抑うつ症状の有無を予測することができれば、抑うつ症状に対する早期の予防および効果的な介入につながる可能性があります。本研究は眼科学雑誌The Ocular Surface (2020年2月27日付) オンライン版に掲載されました。
本研究成果のポイント
  • iPhoneアプリケーション「ドライアイリズム® 」を用い、 4,454名の医療ビッグデータを検証した。
  • ドライアイの自覚症状が重症化するほど抑うつ症状を併発する傾向があり、重症の場合は正常時と比較すると3.29倍 抑うつ症状を併発しやすいことが明らかになった。
  • ドライアイの重症度を指標とすることで、抑うつ症状に対する早期の予防および効果的な介入につながる可能性がある。
眼科学 猪俣 武範 准教授からのコメント
社会におけるメンタルヘルスと生活の質(QOL)への関心は年々高まっています。とりわけ、ドライアイは現代病の1つとして今後も増加すると言われています。
今回の研究では、iPhoneアプリケーション「ドライアイリズム®️」を使うことで4,454名の医療ビッグデータを検証することができました。今回の研究成果から、ドライアイの自覚症状が重症化するほど抑うつ症状を併発する傾向が明らかになりました。なかでも、重症ドライアイは正常者と比較して3.29倍抑うつ症状を併発しやすいことが明らかになりました。
本研究結果から、ドライアイの自覚症状を指標とすることで、抑うつ症状に対する早期の予防および効果的な介入につながることが期待できます。さらに研究を進めることで、人工知能を用いた個別のドライアイやうつ病の発症予測アルゴリズムを創出したいと考えています。これにより将来のスマートフォンアプリを使った個別化医療や先制医療に資することが可能になります。

猪俣武範准教授

背景

社会におけるメンタルヘルスと生活の質(QOL)への関心は年々高まっています。とりわけ、デジタル作業の増加やストレス社会により若年層を中心にドライアイとうつ病は増加傾向にあり、QOLの低下に影響を及ぼしています。私たち研究グループの先行研究で、ドライアイの自覚症状がある人にはいくつかの生活習慣が危険因子であることが分かってきました*4。さらに、ドライアイとうつ病はホルモン、代謝、神経学的不均衡などの共通した危険因子を持つことから、多くの人に併発している可能性が考えられました。そこで、ドライアイの自覚症状を観察することで、抑うつ症状の有無を予測することができないかと考え、私たちの研究グループが開発したiPhoneアプリ「ドライアイリズム®️」で収集した医療ビッグデータを用いて、ドライアイ症状と抑うつ症状との関連を解析しました。

内容

今回の研究では、 iPhoneアプリ「ドライアイリズム®️」を対象期間にダウンロード(ダウンロード数:18,891回、収集した個別医療データ:21,394)した国内のユーザーの中から①基本情報(年齢・性別など)、②病歴(高血圧・糖尿病・血液疾患・脳疾患・心疾患・腎疾患・肝疾患・悪性腫瘍・呼吸器疾患・花粉症・精神疾患・眼手術歴など)、③生活習慣(コーヒー摂取量・コンタクトレンズ装用の有無・点眼使用の有無・モニターを見る時間・睡眠時間・喫煙・飲水量など)に加え、④ドライアイ疾患特異的問診票であるOcular Surface Disease Index (OSDI)*5、⑤自己評価式抑うつ性尺度であるSelf-rating Depression Scale (SDS)などに回答した4.454名を対象としました。
OSDIでは13点以上をドライアイ症状ありと定義、 SDSでは40点以上を抑うつ症状ありと定義し、対象者のドライアイの自覚症状と①~③などとの関連や、ドライアイの自覚症状と抑うつ症状の関連を解析した結果、4,454名の研究対象者のうち、74.0%(3,294名)にドライアイ症状を、73.4%(3,271名)に抑うつ症状を認めました。このうち、ドライアイ症状ありの中の抑うつ症状ありは78.8%(2596/3294名)でした。さらに、ドライアイの自覚症状が重症化するほど抑うつ症状も悪化傾向にあることがわかりました(図1)。また、重症のドライアイの自覚症状は正常と比較して3.29倍抑うつ症状を併発しやすいことがわかりました(図2)。

図1

図1: ドライアイの自覚症状と抑うつ症状の関連
OSDIによるドライアイの自覚症状が悪化する毎にSDSによる抑うつ症状は悪化傾向を示した。
(各症状の個体数 正常:1160名、軽度:1139名、中等度:738名、重症:1377名)

図2

図2: 抑うつ症状ありに対するドライアイ症状のオッズ比
抑うつ症状ありに対するドライアイの自覚症状のオッズ比は正常(OSDI<13)と比較して、軽度1.62倍、中等度2.39倍、重症3.29倍であった。
なお、オッズ比は、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である。オッズ比が1とは、ある疾患への罹りやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは、疾患への罹りやすさがある群でより高いことを示す。

今後の展開

本研究から、ドライアイの自覚症状の重症化と抑うつ症状に関係があることが明らかになりました。これにより、スマートフォンアプリを用いてドライアイの自覚症状をモニタリングすることで抑うつ症状の有無を提示できる可能性があるため、抑うつ症状に対する早期の予防および効果的な介入につながることが期待できます。さらに研究を進めることで、人工知能を用いた個別のドライアイやうつ病の発症予測アルゴリズムを創出したいと考えています。これにより将来のスマートフォンアプリを使った個別化医療や先制医療に資することが可能になります。
また、ドライアイリズムは、さらなるドライアイの啓発と予防のため、アンドロイド版の開発ならびにiOS版(iPhone版)のアップデートを行う予定です(4月を予定)。

用語解説

*1 リサーチキット (ResearchKit): 2015年12月にApple社からiPhone用のアプリケーション作成のためのプラットフォームとしてリリースされた医学研究のためのオープンフレームワーク。同意取得、質問・調査およびActive Tasksなどの3つのモジュールで構成されており、それらを組み合わせて使うことが可能である。
*2 ドライアイリズム®: 2016年11月に順天堂大学眼科がリサーチキットを用いて作成したiPhone用アプリケーション。まばたき測定、OSDI質問紙票からドライアイ指数の算出が可能である。ドライアイの自覚症状とライフスタイルをアプリ上で表示することができる。
*3 クラウド型大規模臨床研究:クラウドとはクラウドコンピューティングの略で、インターネットなどコンピューターネットワークを経由して、サービスを提供する方法である。クラウド型大規模臨床研究とは、実際の問診票や質問紙票を持たなくても、インターネットを通じて大規模に行う研究を指す。
*4 Inomataら、Risk Factors for Severe Dry Eye Disease: Crowdsourced Research Using DryEyeRhythm. Ophthalmology. 2019;126(5):766-8.
*5 Ocular Surface Disease Index (OSDI) : ドライアイ特異的質問紙票で12項目からなる。4段階で各項目を解答し、その結果から100点満点のOSDI総合スコアを算出することが可能である。OSDI総合スコアから
正常: 0-12点、軽症: 13-22点、中等症: 23-32点、重症: 33-100点と分類することが可能である。

原著論文

タイトル: 「Association between Dry Eye and Depressive Symptoms: Large-Scale Crowdsourced Research Using the DryEyeRhythm iPhone Application.」
タイトル(日本語訳) :ドライアイと抑うつ症状の関連: ドライアイリズムを用いたクラウド型大規模臨床研究
著者: Inomata T1, Iwagami M2, Nakamura M3, Shiang T4, Fujimoto K1, Okumura Y1, Iwata N1, Fujio K1, Hiratsuka Y1, Hori S1, Tsubota K5, Dana R6, Murakami A1
著者(日本語表記):猪俣武範1、岩上将夫2、中村正裕3、Shiang Tina4、藤本啓一1、奥村雄一1、岩田七奈美1、平塚義宗1、堀 賢1、坪田一男5、Dana Reza6、村上 晶1
著者所属:順天堂大学1、筑波大学2、東京大学3、マサチューセッツ大学4、慶應義塾大学5、ハーバード大学6
掲載誌:The Ocular Surface
掲載論文のリンク先:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1542012420300264

協賛ならびに研究助成金

本研究は、株式会社シード、ノバルティスファーマ株式会社、ロート製薬株式会社、HOYA株式会社、わかもと製薬株式会社の助成を受け実施されました。また、公益財団法人ダイオーズ記念財団2019年度助成金による研究助成を受けました。しかし、研究および解析は研究者が独立して実施しており、助成元が本研究結果に影響を及ぼすことはありません。
本研究にご協力いただいた参加者の皆様に深謝いたします。

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