プレスリリース大学・大学院">

JUNTENDO News&Events ニュース&イベント

2019.04.17 (WED)

乾癬などの炎症性皮膚疾患が悪化するメカニズムを解明

~免疫細胞が産生するIL-26は自己免疫疾患の新しい治療標的になり得る~

順天堂大学大学院医学研究科 免疫病・がん先端治療学講座の伊藤匠 博士研究員、波多野良 特任助教、森本幾夫 特任教授、大沼圭 准教授らの研究グループは、免疫細胞が産生する炎症関連因子IL-26*1が乾癬*2の炎症を悪化させるメカニズムを解明しました。本研究では、乾癬の炎症病態で増加する免疫細胞によって産生されるIL-26が皮膚の角化細胞や血管細胞の活性化を誘導し、病変部の血管形成や好中球を過剰に集積させることで炎症が悪化することを明らかにしました。これらの作用はIL-26が皮膚炎症の悪化を促進させる重要な炎症関連因子であることを示しており、この成果は、乾癬をはじめとした自己免疫疾患*3による皮膚炎症の治療法開発につながると期待されます。本研究結果は米国研究皮膚科学会と欧州研究皮膚科学会発行の学術誌「Journal of Investigative Dermatology」2019年4月号に掲載されました。
研究グループからのコメント

乾癬は、全世界では1億人以上もの患者さんがおり、人目を引く外見と完治しづらい慢性的な痒みに悩まされています。本研究により、IL-26が乾癬に代表される免疫T細胞依存的な皮膚炎症疾患において皮膚炎症の悪化を促進させる重要な因子であることを明らかにしました。現在、当研究室ではIL-26を標的とした治療用抗体、診断用抗体の開発も進めており、乾癬をはじめとした様々な難治性の免疫疾患や慢性炎症を制御する治療法の開発を目指したいと考えています。
本研究成果のポイント

・ヒトIL-26産生マウスでは乾癬様皮膚炎症が著しく悪化する
・IL-26は血管増殖因子FGFを皮膚細胞と血管細胞に産生させる
・IL-26はFGFの産生を誘導し、かつ直接血管細胞を活性化させることで皮膚病変部位に過剰な血管形成と炎症細胞集積を促進して病態を増悪化させる

背景

乾癬は皮膚が赤く盛り上がり、剥がれ落ちる症状を繰り返す原因不明の慢性炎症性皮膚疾患の一つであり、本邦では約43万人、米国で約750万人、全世界では1億人以上もの患者さんが人目を引く外見と完治しづらい慢性的な痒みに悩まされています。最近になり、免疫細胞が産生する炎症関連因子の中に乾癬と強く関わっているものが明らかとなったことで、抗IL-17抗体や抗TNF-α抗体などの新たな治療薬が登場してきています。しかしながら、治療が長期に及び、免疫を抑えることで懸念される感染症等の副作用や、医療費の高額化により、一生涯にわたって十分な治療が受けられないという新たな問題が発生しており、さらなる新しい治療薬の開発が求められています。研究グループは、これまで免疫細胞が産生する炎症関連因子のひとつ、IL-26が皮膚の炎症に関与することを明らかにしてきました。本来、IL-26は生体防御の役割を担う因子の一つとして考えられていますが、様々な炎症性疾患で過剰な発現が報告されています。しかし、IL-26は炎症関連因子の中でも発見が新しいため、その働きの多くが解明されていません。このことを踏まえて、免疫細胞が密接に関わる乾癬などの皮膚炎症疾患において、IL-26がどのような働きをしているのか明らかにすることで、IL-26をターゲットとした慢性炎症性皮膚疾患に対する新たな治療法が開発できるのではないかと考え、今回、モデルマウスを用いて調べました。

内容

本研究では、免疫細胞からヒトのIL-26が産生される遺伝子改変マウスを用いました。まず、このマウスの皮膚に薬剤を塗って炎症を誘導した乾癬モデルを作製し、IL-26を産生しない野生型マウスと病態の差を比較しました。すると、野生型マウスの皮膚と比較して、IL-26産生マウスの皮膚は非常に強い炎症を起こしており、特に病変部の血管形成が増強されていることを見出しました(図1)。さらに、このIL-26産生マウスの皮膚病変部では好中球やT細胞などの血球細胞が非常に多く集まっていることがわかりました。IL-26産生マウスの皮膚病変部の遺伝子発現を解析したところ、血管増殖因子であるFGFや好中球を集積させる因子の発現が高まっていることがわかりました。実際に、乾癬モデルマウスだけではなく、乾癬患者の皮膚でもIL-26やFGFの産生が高まっていました。そこで、血管細胞にIL-26を作用させてみると血管増殖因子FGFを産生することがわかりました。さらに皮膚の角化細胞にIL-26を作用させてもFGFを産生することがわかりました。
 

図1

図1:IL-26による炎症促進と血管形成作用 (マウス皮膚)
除毛して薬剤を塗った乾癬モデルマウスの背中の皮膚を観察すると、野生型マウス(左写真)と比較してIL-26産生マウス(右写真)の皮膚炎症の悪化(右上)と皮下の血管形成(右下)の促進が顕著に見られる。
これらの結果から、乾癬では免疫細胞から産生されたIL-26が、血管細胞に自らFGFを産生させて細胞を活性化することに加えて、角化細胞に産生させたFGFが血管細胞をさらに活性化し、強力な血管形成を促進していることが明らかになりました。また、IL-26は血球細胞を集積させることで、炎症関連因子を蔓延させている可能性を明らかにしました。さらに、 IL-26産生マウスを用いて接触型過敏症モデルでも病態を再現したところ、乾癬モデルと同様に過剰な血管形成に伴う炎症を顕著に促進させることもわかりました。つまり、IL-26は免疫細胞が病態悪化に関与する様々な皮膚炎症疾患で重要な役割を担っていると考えられます。

今後の展開

本研究により、免疫細胞によって産生されるIL-26は、病変部で血球細胞の集積を促すだけでなく、FGFの産生を誘導することにより過剰な血管形成を促進させ、乾癬の皮膚炎症を悪化させる因子であることが明らかになりました(図2)。この結果は、乾癬などの慢性的な炎症性皮膚疾患に対してIL-26をターゲットとした新しい治療法の開発につながるだけでなく、癌などの異常な血管形成を引き起こす疾患や様々な自己免疫疾患に対する治療の発展に貢献すると考えられます。今後は、IL-26が関与する疾患の病態メカニズムの解明をさらに進めることで新たな治療法開発を目指していきます。

図 2

図2:免疫細胞が産生したIL-26は好中球の集積や血管新生を促進して乾癬症状を悪化させる
免疫細胞が産生したIL-26は皮膚の角化細胞を活性化してFGFなどの血管成長因子の産生を誘導する(①)。また、IL-26によって血管細胞はFGFを産生し、そのFGFが自らを活性化させる(②)。IL-26はこれらのFGF産生により、過剰な血管形成を誘導するばかりか、好中球などの血球細胞を炎症部位に集積させて炎症の悪化を促進させる(③, ④)。 

血管成長因子:FGF1, FGF2, FGF7
好中球集積因子:CXCL-1, CXCL-2

用語解説

*1 IL-26 (インターロイキン-26):炎症を誘導する物質の一つと考えられており、数種のヒトの細胞や組織から産生されることが確認されているが、主に免疫細胞から産生される。
*2 乾癬 (かんせん):皮膚の赤み、盛り上がり、フケのような鱗屑(りんせつ)が付着しはがれるなどの皮膚症状が慢性的にみられ、関節炎なども引き起こす。主な原因はまだわかっていない。
*3 自己免疫疾患: 異物の侵入を防いだり、除去する免疫細胞が自分の正常な組織や細胞を攻撃してしまう疾患で、乾癬、関節リウマチ、膠原病、潰瘍性大腸炎、クローン病など様々な疾患がこの枠組みに入る。

原著論文

本論文は米国研究皮膚科学会と欧州研究皮膚科学会発行の学術雑誌Journal of Investigative Dermatology (https://www.jidonline.org/) の2019年4月139号に掲載されました。

論文タイトル:Biological Effects of IL-26 on T Cell–Mediated Skin Inflammation, Including Psoriasis
タイトル日本語訳:乾癬に代表されるT細胞依存的な皮膚炎症疾患におけるIL-26の生物学的機能について
著者:Takumi Itoh, Ryo Hatano, Eriko Komiya, Haruna Otsuka, Yuka Narita, Thomas M. Aune, Nam H. Dang, Shuji Matsuoka, Hisashi Naito, Mitsutoshi Tominaga, Kenji Takamori, Chikao Morimoto, Kei Ohnuma
著者(日本語表記): 伊藤匠1、波多野良2、古宮栄利子2,3、大塚春奈2、成田結花2、 Thomas M. Aune4、 Nam H. Dang5、松岡周二6、内藤久士1、冨永光俊3、高森建二3、森本幾夫2、大沼圭2
所属:1順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科、2順天堂大学大学院医学研究科免疫病・がん先端治療学講座、3順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所、4Department of Medicine, Vanderbilt University School of Medicine, Vanderbilt University Medical Center、5Division of Hematology/Oncology, University of Florida、6順天堂大学大学院医学研究科免疫診断学講座
DOI: 10.1016/j.jid.2018.09.037
本研究は厚生労働省科研費(労災疾病臨床研究事業費補助金: 課題番号180101-01)、JSPS科研費基盤研究(B) (課題番号JP16H05345(森本), JP15H04879(大沼), JP18H02782(大沼))、JSPS科研費基盤研究(C) (課題番号JP17K10008(波多野))、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(課題番号S1311011)、日本産業科学研究所助成金、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科学内共同研究、日本血液学会研究助成金などの支援を受け実施されました。
また、本研究に協力頂きました患者さんのご厚意に深謝いたします。