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2019.01.23 (WED)

世界初!iPhoneアプリ「ドライアイリズム®」を用いてドライアイ重症化危険因子を明らかに

~ リサーチキットアプリを用いたクラウド型大規模臨床研究 ~

順天堂大学大学院医学研究科眼科学の村上 晶 教授、猪俣 武範 助教らの研究グループは、ドライアイの重症化危険因子を明らかにする目的で、リサーチキット(ResearchKit)*1を用いたiPhoneアプリケーション「ドライアイリズム®︎」*2を開発・運用し、クラウド型大規模臨床研究*3を実施しました。その結果、ドライアイの自覚症状の重症化には、性別(女性)、膠原病、花粉症、うつ病、現在のコンタクトレンズの装用、長時間のモニター作業(VDT時間*4)、喫煙が危険因子であることが明らかになりました。この成果はドライアイの重症化の抑制と今後のドライアイの予防や治療に役立つと考えられます。本研究は科学雑誌Ophthalmology (2018年12月11日, オンライン版)に掲載されました。
眼科学 猪俣 武範 助教からのコメント

ドライアイは最も多い眼科疾患であり、視機能障害による生活の質の低下や集中力の低下による仕事の生産性の低下を引き起こします。本研究からiPhoneアプリ「ドライアイリズム®️」によるリアルワールドデータを用いたクラウド型臨床研究により、ドライアイの自覚症状を悪化させる危険因子を明らかにしました。特に、現在のコンタクトレンズの装用、長時間のモニター作業、喫煙については生活習慣を改善することによりドライアイの重症化を予防できる可能性が明らかになりました。今後も我々は革新的なITデバイスを開発、運用しビックデータを取得することで、新たなバイオマーカーや危険因子を発見し、先制医療や個別化医療の促進を目指したいと考えております。
本研究成果のポイント
  • iPhoneアプリケーション「ドライアイリズム®︎」によるクラウド型大規模臨床研究を実施
  • 18,225ダウンロードのうち、5,265名のユーザーデータを検証
  • ドライアイの重症化は、性別(女性)、膠原病、花粉症、うつ病、現在のコンタクトレンズの装用、長時間のモニター作業、喫煙が危険因子である

背景

ドライアイは本邦で2,200万人以上が罹患するとされる最も罹患者数が多い眼疾患です。ドライアイに罹患すると、眼不快感、眼掻痒感などの眼症状のみならず、視力の低下、感染症などを起こすことが知られています。さらに、ドライアイによる集中力や効率性の低下から、勉学や業務の生産性が下がることや、眼症状から生活の質が低下することが明らかになっています。このことから、ドライアイの自覚症状の重症化危険因子を明らかにし、ドライアイの重症化を防ぐことが大切です。
近年、Internet of Medical Things (IoMT)の普及により、センサリングによる新しい医療ビックデータの取得が可能となりました。特に、多様な機能を有するスマートフォンを介して新しい医療ビックデータの取得が可能となり、このデータは多くの臨床研究に用いられるようになりました。私たちの研究グループは、ドライアイ重症化の危険因子を明らかにすることを目的にアップル社のオープンソースフレームワークであるリサーチキットを利用したiPhone用アプリケーション「ドライアイリズム®️」を2016年11月2日に本邦にてリリースしました。

内容

本研究では、ドライアイリズム®️をアップル社のApp Storeから2016年11月から2017年11月の間にダウンロードしたユーザーを対象に、ドライアイの自覚症状の悪化と参加者の基本情報、病歴、生活習慣などとの関連を解析し、ドライアイ重症化の危険因子を導出しました。ドライアイの自覚症状の評価には、ドライアイ疾患特異的問診票であるOcular Surface Disease Index (OSDI)*5を使用し、OSDIのスコアが33点以上を重症ドライアイと定義しました。
ドライアイリズム®️は上記の対象期間に18,225件ダウンロードされ、そのうち基本情報、病歴、生活習慣、OSDIに回答した5,265名を本研究の対象としました (図1)。ドライアイリズム®️では、年齢、性別などの基本情報と、高血圧、糖尿病、血液疾患、脳疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、悪性腫瘍、呼吸器疾患、精神疾患、眼手術歴などの病歴、コーヒー摂取量、コンタクトレンズ装用の有無、モニターを見る時間、睡眠時間、喫煙、飲水量などの生活習慣との関連を調査しました。これらの調査項目のうちドライアイの自覚症状の重症化(OSDI33点以上)に関連する危険因子について多変量解析を行いました。
その結果、ドライアイの重症化危険因子として、「性別(女性)、膠原病、花粉症、うつ病、現在のコンタクトレンズの装用、長時間のモニター作業、喫煙」が明らかになりました。

今後の展開

本研究から、ドライアイの重症化危険因子が明らかになりました。これらのうち、現在のコンタクトレンズの装用、長時間のモニター作業、喫煙については、生活習慣を管理・改善することにより、ドライアイの重症化を予防できる可能性があります。本研究は実社会における、スマートフォンアプリケーションで収集した医療ビッグデータを用いた革新性のあるクラウド型大規模臨床研究であり、今後このようなテクノロジーと医療研究の統合は既存の臨床研究を補完していくものと考えられます。ITデバイスにより個別のビックデータを取得することで、新たに疾患特異的なバイオマーカーを発見し、先制医療や個別化医療の促進が期待されます。

図1

図1: ドライアイリズム®︎ダウンロードから研究対象絞り込みのプロセス
2016年11月から2017年11月までの期間内に18,225ダウンロードがあり、アプリケーション上にて研究参加の同意を取得した。そのうち10,961名が基本情報、病歴に生活習慣に回答し、5,265名がOSDIを含む全ての質問に解答し、本研究の解析対象とした。

図2

図2: 本研究で明らかになったドライアイ重症化の危険因子
喫煙習慣ありは1.53倍、花粉症ありは1.18倍、 VDT時間が1時間増える毎に1.02倍、コンタクトレンズ非装用者と比較してコンタクトレンズの現在の装用者は1.24倍、うつ病ありは1.68倍、膠原病ありは2.81倍、男性と比較して女性は1.85倍、ドライアイの自覚症状が重症化することが明らかになった。
なお、オッズ比は、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である。オッズ比が1とは、ある疾患への罹りやすさが両群で同じということであり、1より大きいとは、疾患への罹りやすさがある群でより高いことを示す。本研究ではオッズ比が1より大きい場合、ドライアイの自覚症状が重症化しやすいと考えられる。

用語解説

*1 リサーチキット (ResearchKit): 2015年12月にアップル社からiPhone用のアプリケーション作成のためのプラットフォームとしてリリースされたオープンフレームワーク。同意取得、質問・調査およびActive Tasksなどの3つのモジュールで構成されており、それらを組み合わせて使うことが可能である。
*2 ドライアイリズム®: 2016年11月に順天堂大学眼科よりリリースされたリサーチキットを用いて作成されたiPhone用アプリケーションである。まばたき測定、OSDI質問紙票からドライアイ指数の算出が可能である。
ドライアイの自覚症状とライフスタイルをアプリ上で表示することが可能である。
*3 クラウド型大規模臨床研究:クラウドとはクラウドコンピューティングの略で、インターネットなどコンピューターネットワークを経由して、サービスを提供する方法である。クラウド型大規模臨床研究とは、実際の問診票や質問紙票を持たなくても、インターネットを通じて大規模に行う研究を指す。
*4 VDT時間: VDTとはVisual Display Terminalsに略で、VDT時間はパソコンやスマートフォンなどのディスプレイを使用する時間。
*5 Ocular Surface Disease Index (OSDI) : ドライアイ特異的質問紙票で12項目からなる。4段階で各項目を解答し、その結果から100点満点のOSDI総合スコアを算出することが可能である。OSDI総合スコアから正常: 0-12点、軽症: 13-22点、中等症: 23-32点、重症: 33-100点と分類することが可能である。

原著論文

タイトル:「Risk Factors for Severe Dry Eye Disease: Crowdsourced Research Using DryEyeRhythm」
タイトル(日本語訳): ドライアイ重症化のリスク因子の同定:ドライアイリズムを用いたクラウド型大規模臨床研究
著者: Inomta T1, Nakamura M2, Iwagami M3, Shiang T4, Yoshimura Y1, Fujimoto K1, Okumura Y1, Eguchi A1, Iwata N1, Miura M1, Hori S1, Hiratsuka Y1, Uchino M5, Tsubota K5, Dana R6, Murakami A1
著者(日本語表記): 猪俣武範1、中村正裕2、岩上将夫3、Shiang Tina4、吉村祐輔1 、藤本啓一1 、奥村雄一1 、江口敦子1 、岩田七奈美1 、三浦真里亞1 、堀 賢1 、平塚義宗1 、内野美樹5 、坪田一男5 、Dana Reza6、村上 晶1
著者所属: 順天堂大学1 、東京大学2、筑波大学3、マサチューセッツ大学4、慶應義塾大学5、ハーバード大学6
掲載誌: Ophthalmology
掲載論文のリンク先: https://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(18)33109-9/fulltext
DOI: 10.1016/j.ophtha.2018.12.013
本研究は、株式会社シード、日本アルコン株式会社、ロート製薬株式会社、HOYA株式会社、わかもと製薬株式会社の助成を受け実施されました。しかし、研究および解析は研究者が独立して実施しており、助成元が本研究結果に影響を及ぼすことはありません。
本研究にご協力いただいた参加者の皆様に深謝いたします。