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2018.11.05 (MON)

オメガ3脂肪酸のアレルギー性結膜炎への改善効果を発見

~亜麻仁油が花粉症患者を救う?~

順天堂大学大学院医学研究科 生化学・細胞機能制御学の横溝岳彦教授と、眼科学の平形寿彬、松田 彰准教授らの研究グループは、魚油や亜麻仁油に豊富に含まれるDHAやEPA、α-リノレン酸といったオメガ3脂肪酸(*1)の食事摂取がアレルギー性結膜炎(花粉症)を改善させるメカニズムの解明に成功しました。オメガ3脂肪酸摂取は、アレルギー症状を引き起こす多種の炎症性脂質メディエーター(*2)を結膜中から著しく減少させることにより、花粉によるアレルギー性結膜炎の症状を軽快させました。この研究結果は、罹患率の非常に高いアレルギー性結膜炎の新規予防・治療法の開発につながる成果です。本研究は、米科学雑誌The FASEB Journalオンライン版(2018年11月1日)に発表されました。
研究者からのコメント
これまでにも、オメガ3脂肪酸の摂取がアレルギー性疾患の改善に寄与することが経験的には知られていましたが、その詳細な分子機序は必ずしも明らかではありませんでした。今回の我々の研究は、1)オメガ3脂肪酸の摂取がアレルギー性結膜炎を改善することを、マウスを用いた厳密な実験で確認したこと、2)緻密な脂質解析により、摂取したオメガ3脂肪酸が炎症性の脂質メディエーターの産生抑制を介してアレルギー性結膜炎を改善することが明らかとなったこと、の2点が重要だと思っています。オメガ3脂肪酸摂取はヒトにおいても極めて安全な介入法なので、今後はヒト花粉症患者さんに対してもオメガ3脂肪酸の摂取が有効な治療法になるかどうかを検証していきたいと思います。

平形寿彬さん

筆頭著者の平形寿彬さん
(順天堂大学大学院医学研究科眼科学所属)
本研究成果のポイント
  • 花粉症の結膜中には多様な症状を引き起こす多種の脂質メディエーターが存在する
  • オメガ3脂肪酸を豊富に含む亜麻仁油の摂取は炎症性脂質メディエーターを減らし、アレルギー性結膜炎を改善する
  • アレルギー性結膜炎(花粉症)の新規予防・治療法につながる研究成果

背景

アレルギー性結膜炎は花粉症患者に生じる眼の疾患で、世界的に患者数は増加傾向にあります。症状としては眼の充血、まぶたの腫れ、“めやに”が出現します。さらに、眼のかゆみによって生活の質が著しく低下します。
オメガ3脂肪酸はヒトの体内で作ることができないため食事から摂取する必要がある必須脂肪酸で、亜麻仁油(アマニ油)や魚油に多く含まれます。しかし、近年の食の欧米化によりオメガ3脂肪酸の摂取量は低下しています。こうした背景の中、オメガ3脂肪酸の持つ抗炎症作用が注目され、喘息などのアレルギー疾患への効果が報告されていますが、詳しいメカニズムは分かっていませんでした。また、アレルギー性結膜炎に対するオメガ3脂肪酸の効果はこれまで検証されたことはありませんでした。
研究グループは、オメガ3脂肪酸の持つ抗炎症作用がアレルギー性結膜炎にも有用ではないかと考えました。また、研究グループが開発してきた高感度脂質解析技術を利用して、オメガ3脂肪酸の抗炎症メカニズムが解明できるのではないかと考えました。そこで本研究では、オメガ3脂肪酸を豊富に含む亜麻仁油を混ぜた餌をマウスに与え、アレルギー性結膜炎が改善するか検証しました。

内容

まず、欧米の花粉症の原因としてもっとも多いブタクサ花粉を用いてアレルギー性結膜炎マウスモデルを作成しました。オメガ3脂肪酸の食事効果を検証するために、マウスにはオメガ3脂肪酸を豊富に含んだ亜麻仁油を4%含有する餌を2か月間与えました。オメガ3脂肪酸を摂取させたマウスでは通常食(亜麻仁油を含まない)を摂取したマウスと比較し、花粉によるアレルギー性結膜炎の症状が改善することを確認しました(図1A)。
次に、オメガ3脂肪酸のアレルギー性結膜炎に対するメカニズムを検証するために、質量分析計を用いて結膜中の脂質メディエーターの網羅的な解析を行いました。通常食摂取マウスではプロスタグランジン類やトロンボキサン、ロイコトリエンB4などのアレルギー炎症を引き起こす様々な炎症性脂質メディエーターが結膜中に検出されました。一方、オメガ3脂肪酸を摂取したマウスの結膜中ではこれらの炎症性脂質メディエーター量が著しく減少し、オメガ3脂肪酸であるEPAの量が大きく増加していました(図1B) 。

図1A

図1: オメガ3脂肪酸食によるアレルギー性結膜炎の改善
(A)オメガ3脂肪酸食により、花粉によるアレルギー性結膜炎症状は軽快した。
黒矢印:眼瞼腫脹、橙矢印:めやに、青矢印:流涙

図1B

(B)オメガ3脂肪酸を摂取したマウスでは、結膜中の炎症性脂質メディエーター(プロスタグランジンD2やロイコトリエンB4など)の量が著しく減少し、一方で、オメガ3脂肪酸であるEPAが大きく増加した。
以上の結果から、1)アレルギー性結膜炎では様々な炎症性脂質メディエーターにより症状が引き起こされていること、2)オメガ3脂肪酸の摂取がアレルギー性結膜炎の改善に有効であること、が明らかとなりました。

今後の展開

本研究は、これまで行われていなかったアレルギー性結膜炎の結膜中の脂質メディエーターの網羅的な解析を実施した点で意義があります。さらに、オメガ3脂肪酸の摂取により結膜中の炎症性脂質メディエーターが減少することも(図2)世界で初めての報告となります。アレルギー性結膜炎(花粉症)は世界中で患者数が多い疾患です。本研究グループが発見したオメガ3脂肪酸の経口摂取は安全性が高く、簡便に実践できるため、アレルギー性結膜炎の予防・改善や新規治療法として臨床応用されることが期待されます。

図2

図2: 本研究により明らかになったオメガ3脂肪酸によるアレルギー性結膜炎抑制のメカニズム
オメガ3脂肪酸は結膜中での炎症性脂質メディエーターの産生を抑制することにより、それに繋がる⑤〜⑦の経路をブロックし、アレルギー性結膜炎の症状を抑える。

用語解説

*1 オメガ3脂肪酸
脂肪酸分子鎖を構成するカルボキシル基側の反対側の炭素分子をオメガ位と呼ぶ。オメガ位から数えて3番目の炭素結合部に二重結合を持つ脂肪酸をオメガ3脂肪酸と総称する。抗炎症作用で注目されているものは主に、二重結合を複数個有する多価不飽和脂肪酸であり、生体内で産生することのできない必須脂肪酸である。体表的なものに、αリノレン酸(ALA, C18:3)、エイコサペンタエン酸(EPA, C20:5)、ドコサヘキサエン酸(DHA, C22:6)がある。魚油や亜麻仁油、えごま油などに豊富に含まれる一方、肉類には少ない。

*2 炎症性脂質メディエーター
生体内で産生され、産生細胞の近傍で生理活性を発揮する脂質を脂質メディエーターと総称する。さらに、炎症を引き起こすものは炎症性脂質メディエーターと呼ばれ、主に細胞膜に存在するアラキドン酸(ARA, C20:4)という脂肪酸から細胞内の酵素反応によって産生される。体表的なものにプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどがある。アレルギー炎症と密接に関わるロイコトリエンB4の受容体BLT1は横溝岳彦教授によって発見された分子である。

原著論文

本研究は、Federation of American Societies for Experimental Biology (FASEB)The FASEB journal(www.fasebj.org)オンライン版に2018年11月1日付で公開されました。
英文タイトル: Dietary omega-3 fatty acids alter the lipid mediator profile and alleviate allergic conjunctivitis without modulating Th2 immune responses
日本語訳: オメガ3脂肪酸食は脂質メディエーター組成を変化させることによりアレルギー性結膜炎を改善する
著者: Toshiaki Hirakata (1, 2), Hyeon-Cheol Lee (1), Mai Ohba (1), Kazuko Saeki (1), Toshiaki Okuno (1), Akira Murakami (2), Akira Matsuda (2), Takehiko Yokomizo (1)
著者(日本語表記):平形寿彬 (1, 2), 李 賢喆(1), 大塲麻生(1), 佐伯和子 (1), 奥野利明 (1),村上 晶 (2), 松田 彰 (2), 横溝岳彦 (1)
所属 (1)順天堂大学生化学第一講座、(2)順天堂大学眼科学講座
FASEB j. (2018) doi: 10.1096/fj.201801805R
公開サイト:https://www.fasebj.org/doi/abs/10.1096/fj.201801805R

本研究は、文部科学省JSPS科研費(新学術領域研究JP22116001, JP22116002, JP15H05897, JP15H05904、基盤研究JP15H04708, JP18H02627, JP18K16246)、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、および武田科学振興財団の支援を受け実施されました。