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2018.01.26 (FRI)

「無知の知」を生み出す脳の仕組みを解明!

~ 前頭葉の先端部が過去に経験していない出来事への確信度の評価を司る ~

順天堂大学大学院医学研究科の宮本健太郎(老人性疾患病態・治療研究センター研究員)、長田貴宏(生理学第一講座助教)、宮下保司(老人性疾患病態・治療研究センター特任教授)らによる順天堂大学・東京大学の共同研究グループは、前頭極*1と呼ばれる最も進化的に新しい大脳皮質前頭葉領域が、自分自身の“無知”に対する自己評価を司ることを、世界で初めて発見しました。前頭極の働きを実験的に不活性化すると、過去に経験していない事象に対する確信度──“無知”の確からしさに関する自己評価──の判断に障害が起こることから、前頭極は“無知”の自己意識を生み出す働きを担うことが示唆されました。この成果は、自身の思考プロセスに対して思考を加えるメタ認知*2処理を行う際に働く大脳メカニズムを解明し、脳機能の科学的根拠に基づいた効果的な教育法や、認知機能障害のリハビリテーション法の開発に貢献すると期待されます。本研究成果は米国Neuron誌にて1月25日(日本時間1月26日)に発表されました。
本研究成果のポイント
  • 「無知の知」を自覚するヒトに顕著な能力の神経基盤が、霊長類(マカクサル)の大脳に進化的な起源を持つことを示した。
  • 進化的に最も新しい大脳領域である前頭極の働きは、未知の出来事に対する確信度判断に貢献するが、既知の出来事に対する確信度判断には寄与しないことがわかった。
  • 前頭極の神経活動を不活化すると、未知の出来事を「未知」だと判別する能力自体は保たれる反面、その確信度を正しく評価する能力が失われることから、前頭極は“無知”に関する自己意識を生み出す働きを担うことが示唆された。
*1 前頭極 (Frontopolar cortex)
前頭葉の一番前方の部分(先端部)にあたる皮質で、ブロードマンの細胞構築学的分類に従うと10野に相当する進化的に新しい脳領域です。ヒトでよく発達し、マカクサルにも相同部位は存在しますが、その役割や機能については今日までにほとんど解明されていませんでした。

*2 メタ認知
自分自身の認知活動(主に思考や知覚など)を内省的に捉え認知する能力はメタ認知と呼ばれます。メタ認知能力によって、われわれは、自分自身が何をどの程度理解しているのかを主観的に評価・認識します。メタ認知能力に基づいて、ヒトは、より効果的な学習を実現していると考えられ、近年、教育分野でも重要な能力のひとつとして注目されています。