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2021.11.02 (TUE)

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東京2020を経て、スポーツと医療にますます貢献する順天堂大学保健医療学部

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020)には、順天堂大学保健医療学部理学療法学科から池田浩教授・相澤純也先任准教授・宮森隆行講師・中村絵美助教の4名が医療サポートスタッフとして参加しました。大会からひと月余り経過した10月13日、代田浩之保健医療学部長のもと大会を振り返り、スポーツと医療の今後の展望を語り合いました。

座談会

選手村や競技会場に分かれて、海外選手の医療や理学療法を担当

代田 順天堂大学は東京2020に13名の選手が出場するとともに、私たち学部のメンバーをはじめ、医療系3学部から200名以上のスタッフが参加し、さまざまな場面で大会をサポートしました。今回は私たちの活動を振り返り、今後のこの学部と教員の社会貢献について検討したいと思い、座談会を設定しました。

代田学部長

――まずは東京2020に先生方がどのような役割で参加されたのか、教えていただけますか?

池田 前提として、オリンピックの医療サポートは「選手村」と「競技会場」の2つに大きく分かれています。さらに「競技会場」は「選手用」と「観客用」に分かれていて、それぞれに医療統括者がおり、その下に実働部隊である医師・看護師・理学療法士などのメンバーが配置されています。私はサッカー日本代表のチームドクターとして2014年W杯ブラジル大会、2018年同ロシア大会に帯同して、大規模な国際大会を経験していますし、また日本サッカー協会の医学委員長も務めていることから、札幌から横浜まで6会場あったサッカー競技全体の選手用統括責任者を務めました。
相澤 私と宮森先生は東京・晴海の選手村の中にある診療所で、理学療法士コアスタッフを務めました。選手村全体で理学療法士は100名強。うちコアスタッフは全国で10数名といったところです。コアスタッフの役割は診療所内にある理学療法室に待機し、次から次へと訪れる海外の選手・スタッフの皆さんを受け付け、希望する理学療法の内容をヒアリングし、その分野が得意な理学療法士へとつなげること。大会前には参加を希望する全国の理学療法士の面談を数年前から担当していました。

相澤先任准教授

宮森 私は相澤先生がお話になった内容に加えて、選手村総合診療所理学療法サービス部門の利用手順のマニュアル作成行いました。海外と日本では医療サービスの事情が異なります。例えば、海外ではダイレクトアクセスといって理学療法士が開業することができますが、日本では患者さんに医師の診断を受けていただいてからの診療となります。選手村総合診療所を訪れる海外の選手・スタッフは自国と同じ医療サービスが受けられると考えて来院しますが、日本には日本の医療システムがあります。そのため理学療法サービス部門の方針と手順(Policy and Procedure)を作成して現場のスタッフ間で共有するとともに、これらの書類をIOC国際オリンピック委員会へ提出しています。

中村 私は実働部隊として、晴海の選手村以外に「分村」と呼ばれる場所でも理学療法をさせていただきました。例えば、大磯にあったセーリング競技単独の選手村では医療スタッフの人数も限られていたため、先ほど相澤先生や宮森先生がおっしゃった受付や問診も、理学療法と共に担当しました。

――女性の理学療法士も多く参加されていたのですか?

相澤 選手村の診療室は午前7時から午後11時まで。午前・午後交代で各十数名の理学療法士が待機しており、うち女性は3分の1に満たないぐらいでした。ムスリムの女性選手の対応は女性理学療法士にしかできませんので、そもそも女性がいないと立ち行かないですね。私たち男性は手が余っていても何もできない状態でした。

宮森 今回は女性理学療法士の不足を痛感しましたよね。

代田 日本での女性理学療法士の割合はどれくらいですか?

宮森 日本全体ではおそらく6割強ぐらいが男性ですが、海外では理学療法士の約7割を女性が占めている国もあります。

池田 女性スタッフの現場ニーズは確実に増えていますよ。サッカーの大会でも、「女性チームが参加する場合はドクターとトレーナーのうち必ず1名を女性にしなくてはいけない」と定められていることがあります。今や理学療法学科の学生の半分以上は女性ですしね。
中村 女子学生の中にもスポーツに関わりたい人はたくさんいるのですが、実際に理学療法士になると、「出産などのライフイベントと現場の活動の兼ね合いが難しい」と皆さんおっしゃいます。そこをどうクリアしていくかが課題ですね。

中村助教

相澤 職場の理解と周囲のサポートがあれば、女性も活躍していただけますよね。選手村のコアスタッフにも女性理学療法士がいらして、お子さんが体調を崩して休まれたこともありましたが、もちろんオールOKですよ。多様性が求められる時代ですので、女性の活躍の場はもっともっと広がると思います。

オリンピック・パラリンピックに携わる喜び・やりがいとは

――東京2020では、どんなときにやりがいや楽しさを感じましたか?

宮森 まず、全国から集結された素晴らしい理学療法士と一緒に仕事ができたことです。初日に顔合わせを行ったあとは診療カルテの入力方法から研修を始めるのですが、皆さんとても優秀で経験豊富なので1時間ぐらいですぐに覚えてしまいます。また、いざ理学療法サービスが始まると、初めての対象者、しかも海外の方にも関わらず既に2~3回評価したことがあるような理学療法を展開されていて驚きました。
海外の方は、技術レベルを含めた日本の理学療法のことをほとんど理解していなかったので、最初は「どんなことができるの?」と半信半疑で来院されるのですが、帰る頃には症状も軽快して笑顔になっておられたのがうれしかったですね(笑)。

相澤 最初は選手ではなく、団長やスタッフが様子を見に来られていました。そして「こんなスタッフがいて、こんな理学療法ができる。統率も取れている」と判断し、選手を預けに来る。1人預けて結果がよければ、どんどん連れて来る(笑)。そんな流れが出来たとき、「信頼していただけているんだな」と、うれしく思いました。
宮森 理学療法サービスを受けた選手がその様子をSNSに動画で流すと、同じ国の選手が次から次へとやって来ます(笑)。よい評価をいただけていたのだと思います。大会後、World Physical Therapy世界理学療法連盟のHPにも「素晴らしかった」と発信していただけました。

宮森講師

相澤 他にオリンピック・パラリンピックの喜びといえば、なんといっても実際に関わった選手がメダルを獲ることですね。世界のトップアスリートが日々来院するので、メダルも毎日のように獲られますし(笑)。
パラリンピックでは低身長症のアスリートが来て、「肩にテープを巻いてほしい」と。言われるように巻いたら、翌日砲丸投げで金メダルを獲得していました。「友好の印に」と頂いたお守りのようなキーホルダーは、今も大切にしています。あれはスポーツの理学療法をしていないと経験できない喜びでした。

中村 私が多く対応させていただいたのは、参加人数が少ない国の選手でした。今まで聞いたことがない国から来日した選手と理学療法をしながら話してみると、「僕が活躍することで、祖国の子どもたちが夢を持てるんだ」と。国を背負って来ていることを実感しました。今までオリンピック・パラリンピックでは日本人選手を主に応援していましたが、海外の選手をこんなに熱く応援したのは初めてです。

池田 私たちサッカー競技の医務室はけが人が出た時にのみ、対応するシステムでしたが、けが人が少なかったことは本当によかったです。また、選手村でも競技場でも感染者を出さないこと、濃厚接触者を作らないことが大切でしたが、大会期間中を通じてクラスターが発生しなかったのは、医療従事者はもちろんですが、大会ボランティアの方々が本当に頑張ってくださっていたからだと思います。日本だからできたのかもしれない。そういう意味でも歴史に残る大会でしたね。


代田 オリンピックとパラリンピックの違いは感じましたか?

相澤 パラリンピックは欠損や機能不全、脳機能障害などを持つ選手が出場しますので、選手のサポートにも時間がかかります。オリンピックの選手には「そこの赤いベッドで待っていて」と言葉だけで伝えられますが、パラリンピックの選手はそもそもベッドが見えないことも少なくありません。安全確保のためのマンパワーが必要だと感じました。

宮森 確かに、パラリンピックの選手には、マンパワーや診療時間も含めて、かなり介入しないといけませんね。

代田 パラアスリートは今後増えてくるでしょうから、そういう意味でも今回は貴重な機会でしたね。

自国開催の大会でこれまでにない経験を蓄積。
今後もさらなるスポーツ支援を!

――今回の経験を活かし、これからのウィズコロナ時代のスポーツ現場にどのように取り組んでいこうとお考えですか?

池田 これだけの大規模な大会でクラスターが出ていないのですから、今後ワクチン接種が進めば有観客の競技大会を開催できるのではないでしょうか。国内でも実証実験が始まっていますし、感染対策を徹底させることで、選手が観客の前でプレーできるようにしてあげたいですね。

池田教授

中村 アスリート自身も残念がっていました。せっかく来日したのに、どこにも出かけられないですし。

相澤 お客さんを入れて…それに尽きますね。私は日本スケート連盟のスピードスケート強化スタッフを務めているのですが、スポーツは経済活動の一面もあり、COVID-19のせいで普段のトレーニングや社会活動ができていないアスリートが増えています。スポーツでは、スポンサーがいて、観客がいて、選手がいる。これらのバランスが重要なのです。

代田 もうすぐそこに冬季オリンピック北京2022が迫っていますしね。

宮森 選手には観客の前でプレーさせてあげたいですね。スポーツには人の感情を揺さぶる何かがある。自国開催の大会が終わって、今後もスポーツをサポートしたい、貢献したいという気持ちがさらに強くなりました。

代田 順天堂にとって、オリンピック・パラリンピックは大きなミッションです。そういう意味で、自国開催の大会を経験できたことは大きい。先生方お一人おひとりの経験としても、保健医療学部全体の経験としても、COVID-19対策も含めてスポーツ支援ができたことは大きかったですね。引き続き、本学部はスポーツをサポートしていきたいと考えています。

座談会

<プロフィール>
代田 浩之
順天堂大学 保健医療学部 学部長
1979年、順天堂大学医学部卒業。虎ノ門病院内科に入職。1985年、米国Cleveland Clinic, Department of Cardiology短期留学。順天堂大学循環器内科専攻生。1987年、同助手。1993年、米国Mayo Clinic, Division of Cardiovascular Diseases留学。1995年、順天堂大学循環器内科講師。2000年~2019年、同教授。2014年~2016年、順天堂大学医学部附属順天堂医院院長併任。2016年~2019年、順天堂大学大学院医学研究科長・医学部長併任。2019年より現職。


池田 浩
順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科 教授
1987年、順天堂大学医学部卒業。1998年、米国Hospital for Special Surgery留学。1999年、順天堂大学医学部整形外科講師。2006年〜2019年、同助教授。2019年より現職。サッカー歴では1989年、日本リーグ・古河電工サッカー部チームドクター。1993年、Jリーグ・ジェフユナイテッド市原チームドクター。2010年~2020年サッカー日本代表チームドクター。2014年より日本サッカー協会・医学委員長を務め、現在に至る。

相澤 純也
順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科 先任准教授
1999年、東京医科歯科大学医学部附属病院理学療法部理学療法士。2012年、同院スポーツ医学診療センター アスレティックリハビリテーション部門部門長。2018年、同センター理学療法技師長。2020年より現職。日本スポーツ理学療法学会 理事長。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)。日本スケート連盟スピードスケート強化スタッフ(医学部門)。

宮森 隆行
順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科 講師
2002年、国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科卒業。2018年、順天堂大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。大学卒業後、順天堂大学医学部附属伊豆長岡病院(現:静岡病院)に理学療法士として入職。ニュージーランド・オタゴ大学大学院の留学後、順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科講師などを経て、2020年4月から現職。全日本大学サッカー連盟医学委員会トレーナー部会 会長。日本CPサッカー協会女子日本代表理学療法士。

中村 絵美
順天堂大学 保健医療学部 理学療法学科 助教
2003年、順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科卒業。2005年、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了。2008年、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻卒業。財団法人同友会藤沢湘南台病院リハビリテーション科入職。2011年、横浜市体育協会(現横浜市スポーツ協会)スポーツ医科学センターリハビリテーション科。2016年、新潟医療福祉大学医療技術学部(現リハビリテーション学部)理学療法学科助教。2019年、同大学院医療福祉学研究科医療福祉学専攻博士後期課程修了。博士(保健学)。2020年より現職。