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2023.02.13 (MON)

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アフリカ、アメリカ、アジアの低・中所得国を中心とした世界70か国における思春期世代の孤独感と関連要因の検討

-いじめ対策は世界共通の孤独感の予防策になりうる-

順天堂大学医学部小児科学講座 清水俊明教授、公衆衛生学講座 野田(池田)愛准教授らの研究グループは、国立国際医療研究センターや英国ユニバーシティカレッジロンドンの研究者らと共同で、WHOによる思春期世代 248,017人の調査データを用いて、アフリカ地域、アメリカ地域、アジア地域の低・中所得国を中心とした世界70か国における孤独感の頻度、ならびにその関連要因(性別、いじめられた経験、親友の有無)について国際比較を行いました。世界的には思春期世代の約12%が孤独感を感じており、特にアフリカや東地中海地域で高い結果となりました。関連要因のうち、いじめられた経験はほぼ全ての国で孤独感と関連したことから、思春期世代の孤独感の対策には、いじめ対策が世界共通の対策として有効である可能性が示唆されました。
本論文はJournal of Adolescent Health誌のオンライン版に2023年2月10日付で公開されました。
本研究成果のポイント
  • WHOが公開している大規模データを用いて低・中所得国を中心とした世界70か国における思春期世代の孤独感の頻度とその関連要因を検討した。
  • 低・中所得国においても思春期世代の孤独感は高く、特にアフリカや東地中海地域で高かった。
  • いじめられた経験と孤独感の関連はほぼ全ての国で見られ、思春期世代の孤独感対策としていじめ対策は各国において有効である可能性が示唆された。

背景

思春期世代の孤独感は、飲酒/喫煙/薬物乱用、精神疾患、さらに同年代における主要な死因である自殺との関連が報告されるなど、様々に心身の健康へ影響を及ぼすことから、近年注目されています。しかしながら、これまでの研究は欧米を中心とした高所得国で行われ、アフリカやアジアの低・中所得国における知見は十分ではありませんでした。本研究ではアフリカ、アメリカ、アジアの低・中所得国を中心とする世界70か国の思春期世代における孤独感の頻度とその関連要因(性別/いじめられた経験の有無/親友の有無)の国際比較をしました。

内容

本研究ではWHOが公開している大規模データGlobal School-based Student Health Survey*1(思春期世代13-17歳 248,017人)を使用しました。過去12か月に孤独を感じたことが「しばしばある」「常にある」と回答した場合を「孤独」と定義し、その頻度を国毎に算出しました(図1)。また、関連要因(性別、いじめられた経験、親友の有無)との関連を国毎に算出しました。さらにメタアナリシスを用いてWHO地域別の孤独感の頻度、ならびにその関連要因との関連を算出しました。対象者248,017人のうち、11.7% (95% CI:10.6–12.7)が孤独感を感じていました。孤独感の頻度は特にアフリカ地域(13.1%)や東地中海地域(14.7%)で高値でした(図1)。

図1

図1. 低・中所得国を中心とした世界70か国における思春期世代の孤独感の頻度
過去12か月に孤独と感じたことが「しばしばある」「常にある」と回答した場合を孤独と定義した。色が濃くなるほど孤独感が高いことを示している。
全体としては、女子(vs 男子 有病オッズ比=1.4 95%信頼区間:1.3–1.4)、いじめられた経験あり(有病オッズ比=2.2, 95%信頼区間:2.1–2.3)、親友がいない(有病オッズ比=1.8, 95%信頼区間:1.7–1.9)生徒において孤独感が高く、特にいじめられた経験と孤独感の関連はほぼ全ての参加国で認められました(図2)。

図2

図2. 孤独感といじめられた経験の関連
今後の展開

低中所得国でも思春期世代の多くが孤独感を感じていました。孤独感の関連要因には国毎に相違があり各国の背景にあわせた介入策を講じる必要があります。一方でいじめられた経験と孤独感の関連は一貫しており、いじめ対策は各国において有効であると考えられました。

用語解説

*1 Global School-based Student Health Survey: WHOが中心となって世界70ヵ国以上で実施した、思春期世代の学生(13-17歳) を対象にした自記式アンケート

原著論文

本研究はJournal of Adolescent Health誌のオンライン版に2023年2月10日付で公開されました。
タイトル:Adolescent Loneliness in 70 Countries across Africa, America and Asia: A Comparison of Prevalence and Correlates
タイトル(日本語訳):低・中所得国を中心とした世界70か国における思春期世代の孤独感の頻度と関連要因の検討
著者:Kenta Igami 1), Mariko Hosozawa 1)2), Ai Ikeda 3), David Bann 4), Toshiaki Shimizu 1), Hiroyasu Iso 2)
著者(日本語表記):井神健太1), 細澤麻里子1)2), 池田愛3), デイビッド バン4), 清水俊明1),
磯博康2)
著者所属:1)順天堂大学医学部小児科学講座、2)国立国際医療研究センター国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センター、3)順天堂大学医学部公衆衛生学講座・国際教養学部、4)University College London
責任著者:細澤麻里子
DOI: 10.1016/j.jadohealth.2022.12.029

本研究はJSPS科研費21K10487(研究代表者:細澤麻里子)の支援で行われました。本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。
研究者のコメント
スマートフォン、SNSの広がりにより思春期世代の孤独感が注目されています。さらに近年ではCOVID-19の影響で思春期世代の孤独感が増大したという研究報告が多数あります。高所得国のみならず低・中所得国においても同様の傾向が見られる可能性があり、さらなる孤独感の研究が進むことを期待しています。(井神 健太)