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高齢者の皮膚では天然保湿因子産生酵素の活性が亢進していることを発見  ―皮膚老化による乾燥のメカニズムの一端が明らかにー

順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センターの髙森建二 特任教授、鶴町宗大 大学院生、鎌田弥生 准教授らと、花王株式会社の共同研究グループは、高齢者の皮膚で天然保湿因子(NMF)(*1)の産生に関わるブレオマイシン水解酵素(BH)(*2)の活性が亢進しており、NMFアミノ酸量が増加していることを発見しました。BHはフィラグリン(*3)というタンパク質の最終分解に関わり、NMFの主要な成分である遊離アミノ酸の産生に重要な役割を果たしています。本研究では、健常な高齢者と若年者を対象として、角層抽出液中のBH活性とNMFアミノ酸量を解析した結果、若年者と比べて高齢者ではBH活性とNMFアミノ酸の量が増加していることを明らかにしました。本成果は高齢者の皮膚老化による乾燥のメカニズムの一端を明らかにするものであり、高齢者向けのスキンケア製品の開発などにも役立つ可能性があります。

本研究成果のポイント

  • 若年者と比較して高齢者の角層中ではBH活性が亢進していることを発見
  • 高齢者の角層中のNMFアミノ酸量は若年者よりも増加していることを発見
  • 高齢者はNMFアミノ酸量が若年者より多いにも関わらず、角層水分量は低下していることを発見

背景

皮膚の最外層を構成する表皮にはバリア機能が備わっており、外来異物の侵入や身体の内側からの水分蒸発を防いでいます。表皮外層に形成される角層バリアを担う因子の1つにNMFがあります。NMFの大部分は遊離アミノ酸(*4)とその誘導体から構成されており、それらはフィラグリンの分解によって生成され、角層の水分量や皮膚表面pHを一定に保つために重要な役割を果たします。これまで、高齢者の皮膚ではフィラグリンの産生低下によるNMF量の減少が生じており、それにより角層水分量が低下し、乾燥肌になると考えられてきましたが、最近では高齢者のNMF量は若年者より多いという報告もありました。そこで、研究グループは健常な若年者と高齢者の角層抽出液を用いて、NMFアミノ酸産生の鍵となるBHの酵素活性及び発現パターンと、NMFアミノ酸産生量に着眼し、皮膚の自然老化におけるNMFアミノ酸の産生動態を解明することを目的に研究を実施しました。

内容

本研究では、健康な若年者(20-39歳)と高齢者(60歳以上)を対象として、紫外線の影響のない腰部の表皮角層をテープストリッピング法(*5)により採取して角層タンパク質を抽出し(以下、角層抽出液)、解析に用いました。BHは様々な種類のアミノ酸に対するアミノペプチダーゼ活性(*6)を示しますが、特にシトルリンというアミノ酸を遊離させる活性が高いため、シトルリンアミノペプチダーゼ活性を基準にBHの酵素活性を評価しました。その結果、若年者と比べて高齢者のBH活性は有意に増加しており、BHの発現も高齢者の方が増加傾向を示しました。また、NMFアミノ酸の定量を行った結果、高齢者では角層中の総アミノ酸量、一部のアミノ酸量(グリシン、セリン、アスパラギン酸、シトルリン)、アミノ酸誘導体であるピロリドンカルボン酸、トランスウロカニン酸が若年者よりも有意に増加していました。角層バリア機能を評価するため、角層サンプルを採取前に腰部皮膚の角層水分量、経表皮水分蒸散量(TEWL)(*7)、皮膚表面pHを測定した結果、高齢者では角層水分量が若年者よりも低く、バリア機能の指標であるTEWLも低い状態でした。また、角層表面pHは若年者と比べて高齢者で上昇していました。以上の結果から、高齢者ではBH活性が高くNMFアミノ酸が大量に産生されているにも関わらず、角層水分量とTEWLは低く、乾燥肌状態であることが確認できました。高齢者の皮膚においては、乾燥肌を補うため、代償的にBHの活性と発現が増加している可能性が考えられます。

 

鎌田先生1

図1:若年者と高齢者の角層におけるBH活性とNMFアミノ酸量の比較 
フィラグリンの最終分解に関与しNMFアミノ酸産生の鍵となるBHの酵素活性と、フィラグリンの分解産物である遊離アミノ酸量は若年者よりも高齢者で増加していた。

鎌田先生2

図2:若年者と高齢者の皮膚の比較  
高齢者の皮膚では若年者と比べて、BH活性が亢進しており、NMFアミノ酸が多量に産生されているが、様々な要因により角層水分量が低下し、TEWLも低下した状態にある。

今後の展開

今回、研究グループは、若年者と比べて高齢者ではNMFアミノ酸産生に必須の酵素であるBH活性が亢進し、角層中のNMFアミノ酸量が増加しているにも関わらず、角層水分量は低く乾燥肌状態にあることを明らかにしました。今後はBHが作用する前のフィラグリンの断片化に寄与するカルパインⅠやカスパーゼ-14などの酵素にも注目し、高齢者におけるフィラグリン分解経路全体の状態を把握することを目指していきます。また、保湿剤などを用いたスキンケアの有無が、BH活性や発現、NMFアミノ酸量、皮膚バリア機能に及ぼす影響を明らかにし、高齢者向けの新たなスキンケア製品の開発に役立つことを目指していきます。 

用語解説

*1 天然保湿因子(NMF):水分を捉えて離しにくい性質を持つ分子。約半数はアミノ酸から成る。
*2 ブレオマイシン水解酵素(BH):フィラグリンの最終分解に関与するプロテアーゼ。
*3 フィラグリン:表皮の顆粒層~角層に存在し、NMFアミノ酸の原料となるタンパク質。
*4 遊離アミノ酸:タンパク質やペプチドを作らず、遊離している単一のアミノ酸のこと。
*5 テープストリッピング法:皮膚にテープを貼って剥がしとることで角層を採取する方法。
*6 アミノペプチダーゼ:アミノ酸が連結したペプチドからアミノ酸を外す酵素。
*7 経表皮水分蒸散量(TEWL):皮膚表面からの水分蒸発量のこと。皮膚バリア機能の指標となる。

原著論文

本研究はJournal of Dermatological Science誌のオンライン版に2023年3月5日付で公開されました。
タイトル: Increased production of natural moisturizing factors and bleomycin hydrolase activity in elderly human skin
タイトル(日本語訳):高齢者の皮膚では天然保湿因子とブレオマイシン水解酵素活性が亢進している
著者: Munehiro Tsurumachi 1)2), Yayoi Kamata 1), Mitsutoshi Tominaga 1), Junko Ishikawa 3), Tomoki Hideshima 4), Eri Shimizu 4), Takahide Kaneko 2), Yasushi Suga 2),Kenji Takamori 1)2)
著者(日本語表記): 鶴町宗大1)2), 鎌田弥生1), 冨永光俊 1), 石川准子3), 秀島朋樹4), 清水映里4), 金子高英2), 須賀 康2), 髙森建二1) 2)
著者所属:1) 順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センター、2) 順天堂大学医学部附属浦安病院皮膚科、3) 花王株式会社 生物科学研究所、4) 花王株式会社 解析科学研究所 
DOI: 10.1016/j.jdermsci.2023.03.001

本研究は一般財団法人リディアオリリー記念ピアス皮膚科学振興財団 指定課題研究助成(2021年度)及び公募課題研究助成(2022年度)などの支援を受け、実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。