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2023.08.19 (SAT)
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人工知能を駆使し、新しいたんぱく質品質管理の仕組みを解明 ―発達・てんかん性脳症発症機構の解明にも繋がる成果―
◎本研究成果のポイント
- 人工知能プログラムにより高精度なUFM1 連結酵素複合体の構造予測に成功した。
- UFM1 連結酵素の三者複合体形成がRPL26へのUFM1連結に必要であった。
- UFM1 連結酵素複合体とUFM1が連結されたRPL26との結合がER-RQCに必要であった。
背景
内容
今回、研究グループは人工知能プログラムAlphaFold Multimerを用いてUFM1 連結酵素複合体の構造予測を行いました。その結果、UFM1 連結酵素であるUFL1と小胞体に局在するUFBP1とが安定に複合体を形成すること、その複合体にCDK5RAP3が結合すると小胞体上で翻訳が停止したリボソーム*6のRPL26にUFM1が連結されることが明らかになりました(図1)。さらに、このUFM1 連結酵素複合体は、UFBP1に含まれるUFM1結合モチーフを介してUFM1が連結されたRPL26に結合すること、このUFIMを介した結合が小胞体における合成途中のたんぱく質分解に必要であることが明らかになりました(図2)。
今後の展開
用語解説
*1 人工知能プログラムAlphaFold Multimer:2020年11月30日にDeepMind社が発表した人工知能プログラムAlphaFold2は、わずかな時間でアミノ酸配列からその立体構造を極めて高い精度で予測できることを示し、生命科学全般の研究に大きな影響を与えました。2022年3月にはたんぱく質−たんぱく質複合体を予測するために構築されたAlphaFold Multimer(バージョン2.2.0)が公開され、複数のアミノ酸配列を入力するだけで複数のたんぱく質からなる複合体の予測構造を出力させることができることが示されました。
*2 UFM1 連結酵素:UFL1(UFM1-ligating enzyme 1)と呼ばれ、UFM1のシステムにおいて基質選択性を担保します。
*3 小胞体における合成途中のたんぱく質品質管理機構(ER-RQC):翻訳伸長反応の正確かつ厳密な制御は、正確な遺伝子発現にきわめて重要です。たんぱく質の合成途上での翻訳停止は遺伝子産物の機能に重大な欠損を示すため、翻訳停止した合成途中のたんぱく質は複数の品質管理機構によって認識され排除されます。翻訳伸長の反応が途中で停止した場合、合成途上のポリペプチド鎖はユビキチン化とプロテアソームによる迅速な分解を受けますが、それをribosome-associated quality control(RQC)と呼びます。膜たんぱく質や分泌たんぱく質は小胞体(ER)上でのリボソームで翻訳され、小胞体内腔に運ばれる必要があります。膜たんぱく質や分泌たんぱく質のRQCはER-RQCと呼ばれます。
*4 UFM1システムの異常による発達•てんかん性脳症:UFM1、UBA5、UFC1をコードする遺伝子変異により引き起こされる遺伝性小児てんかん性脳症。病態発症機序は不明であり、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患。
*5 UFM1システム:UFM1をUFM1活性化酵素、UFM1結合酵素、そしてUFM1 連結酵素を介して細胞内たんぱく質に共有結合するシステム。UFM1 連結酵素が共有結合される細胞内たんぱく質を決定します。ER-phagyと呼ばれるオートファジーによる選択的な小胞体分解やER-RQCを制御すると考えられています。
*6 リボソーム:リボソームタンパク質とリボソームRNA(rRNA)から構成される巨大な複合体であり、mRNAにコードされている遺伝暗号(コドン)に従ってアミノ酸同士を結合させ、たんぱく質を合成する装置。
原著論文
本研究はJSPS科研費(JP22K06931, JP21H04163, JP19H05281, JP21H05277, JP22H00401, JP19H05707, JP19H05706, JP21H004771)、革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST(JP20gm1110010, JP22gm1410004)、戦略的創造研究推進事業JST-CREST(JPMJCR20E3)、武田科学振興財団などの支援を受け実施されました。本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。