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2023.08.31 (THU)

  • 保健医療学部

【保健医療学部リレーコラムvol.6】神経難病の方への理学療法の可能性

リレーコラム第6回は、理学療法学科の春山幸志郎が担当いたします。今回のコラムでは理学療法士という仕事について私の体験を交えながら紹介します。

私の所属する理学療法学科では、リハビリテーション医療の1つを担う「理学療法士(Physical Therapist)」というプロフェッショナルを養成しています。今回は、理学療法士が関わる可能性のある疾患として、難病というものに焦点を当ててお話をさせていただきます。

神経や筋肉の病気の中には、徐々に病状が進行していく疾患でかつ、医学的に有効な治療法がまだ確立していない疾患があります。これらは一般に、神経難病と言われています。私はこのような神経難病の理学療法を専門にしています。やりがいは非常にありますが、とても難しい分野だと感じています。逆に難しいからこそ、やりがいがあるのかもしれません。しかし、担当する患者さんからは、「私の疾患のことをわかってくれる理学療法士がいない」、「この病気の理学療法に詳しくないと言われてしまった」、「私がインターネットや本で調べた知識よりも理学療法の担当者が病気のことを知らないんです」などの訴えを聞くことがありました。確かに、教科書にはあまり詳しく書かれていなかったり、希少疾患だからこそ経験の少ない理学療法士が多かったりすることもわかります。とはいえ、このようなことを患者さんの口から聞くたびに、神経難病に自信をもって対応できる理学療法士が少ないことをとても残念に思います。詳しく解明されていない分野だからこそ、新しい発見や可能性が埋もれているとも信じています。私自身は現在教育職についていますが、これも何かの縁だと思って、教育で神経難病とその理学療法を広めていければと考えています。まだ社会に出ていない学生にとっては、神経難病やその理学療法の勉強はピンとこないかもしれません。担当する機会も少ない希少疾患であればなおさら、他人事に感じるかもしれません。それでも、将来多くの難病の患者さんに自信をもって対応できる理学療法士が一人でも増えるように、教育者としても学生に伝えられることを伝え続けていければと思っています。

さて話は変わりますが、大学教員は教育や診療と並行して、研究活動も行なっています。研究においても、神経難病の理学療法に貢献できるよう模索している最中です。この機会にそのうちの一つを紹介します。神経難病の中でも疾患によっては呼吸筋が弱ることで息を十分に吸えないという呼吸困難が生じます。例として筋ジストロフィーという病気では、その対応として患者さん自身が呼吸筋を使用せずに、のど周りの筋肉だけで息を吸うカエル呼吸(正式名称は舌咽頭呼吸といいます)というテクニックがあります。教科書や病気のガイドラインでも触れられているこの呼吸法ですが、実はどのようなメカニズムで呼吸をしているか、どのように練習すれば習得できるか、など世界的に見ても研究が少なく、まだ詳しくわかっていない呼吸技術です。現在は、このカエル呼吸のメカニズムと習得法を解明できるよう研究を進めています。掲載した図はすでに公表済みの研究で使用したメカニズムの作業仮説です。知的好奇心だけでもよいので、ぜひこの分野にも興味をもってもらえると嬉しく思います。

リレーコラム図