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2023.09.06 (WED)

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ヒト全ゲノム解析の超高速パソコンシステムの完成 ~ヒト全ゲノム超高速解析のパソコン化によるゲノム解析の個人使用化~

京・富岳やゲノム研究を開発推進した元国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研という)の研究チームで構成される「先端加速システムズ(株)・(株)ダナフォーム・順天堂大学の共同研究グループ」は、ヒト全ゲノム解析を、10分以下(最短記録7分39秒)で終了する汎用パソコンやCPUサーバー用のソフトウエアシステム(AAS-G1)を開発した。ゲノムシーケンサーから排出されるヒト全ゲノムの30倍の配列をヒト全ゲノム標準配列にアラインメントし、変異の位置を特定する一次解析は、従来は最高速のものでも、高価な専用計算機や大型スパコン(FPGAやGPU搭載)等の特殊なハードウエアを使って15分~30分で行われていた。これらの従来システムは、通常、共用で使われてきたが、今回のソフト開発により、個々の解析者が個人使用の安価な汎用パソコン(CPU搭載)を用いて、日常的に10分を切る超高速解析が実現されることになる。

  

ゲノム共同2

ヒトゲノムシーケンスデータは、その個体の遺伝的背景から疾病発症の予測、ガンの薬剤応答性などの医療応用に幅広く使われている。従来は、ゲノム情報を引き出す手法として、遺伝子の変異箇所のみの塩基を決定するタイピングや、特定の遺伝子領域のみを増幅したり、濃縮したりして塩基配列を決定するパネルシーケンスなどが使われてきた。近年、ヒト全ゲノム解析は、全ゲノムシーケンスのデータ産出コストが年々安価になっているうえ、ゲノムの各部分のタイピングやパネルシーケンスよりもはるかに多くの情報量を含むため、全ゲノムシーケンスがタイピングやパネルシーケンスに置き換わり、主流を占めるであろうという予想がなされていた。
しかし、シーケンスコストが下がる一方、出てくる大量の断片化されたシーケンスをつなぎ合わせ、変異場所を見つけるという一次解析に、膨大な計算機資源を要することが、全ゲノムシーケンスが、従来法に一気に置き換わらない一つの要因であった。従来、この膨大な計算を行うため、特殊なハードウエア(FPGA、GPUなど)が用いられていたが、これらの設備が高価であること、共用施設として利用される等、一般普及におのずと限界があった。
 

京・富岳やゲノム研究を開発推進した元理研の研究チームで構成される「先端加速システムズ(株)・(株)ダナフォーム・順天堂大学の共同研究グループ」が完成したソフトウエアシステム(AAS-G1)により、高速計算機で従来15分から30分かかっていたヒト全ゲノムの一次解析を、個々のユーザーが個人使用のパーソナルコンピューターやCPUサーバーで10分以内に(最短時間が7分39秒)実行される事が可能となった。これにより、近い未来にはシーケンシング法の高速化とともに、全ゲノムの情報解析の高速化と低コスト化のための安価で大量の計算機資源の供給が可能となった。ヒトゲノムの迅速な診断が必要な、「新生児の全ゲノム診断」や、「1泊人間ドック」などの医療応用におけるヒト全ゲノム解析の高速化のみならず、全世界のゲノムプロジェクトにおけるシーケンスデータの解析を、安価に高速に行える計算機資源が提供されるようになり、ゲノムプロジェクト全体の底上げに大きく貢献することが期待される。

●AAS-G1 の開発グループについて

京・富岳やゲノム研究を開発推進した元理研の研究チームで構成される先端加速システムズ(株)(姫野龍太郎代表取締役)・(株)ダナフォーム(林崎良英代表取締役)・順天堂大学(新井一学長)の共同研究グループ研究チームのメンバー(牧野淳一郎)により、AAS-G1 は開発された。本システムを、順天堂大学大学院医学研究科 難病の診断と治療研究センター(岡﨑康司センター長)が導入し、その臨床応用を推進している。

 

1. 牧野淳一郎

計算機科学の権威。1985 年東京大学卒業後、1990 年博士号取得。その後東京大学助教授を経て、国立天文台教授、東京工業大学教授を経て、2012 年から2022 年理研計算科学研究機構エクサスケールコンピューティング開発プロジェクト 副プロジェクトリーダーを経て、現神戸大学教授、先端加速システムズ(株)を創設し、取締役に兼務就任。高速計算機開発分野のノーベル賞と呼ばれているGordon Bell 賞を7 回受賞。特に、高速計算機の演算素子NM Core1とNM Core2を開発し、単位エネルギー当たりの演算速度を競うGreen500 で2021 年と2022 年世界1 位(Gold Medal)を獲得。Nature をはじめとするトップジャーナルに188 報発表。

 

2. 姫野龍太郎

大型計算機システムの第一人者。1977 年京都大学卒業後、1979 年日産自動車中央研究所入社、自動車の流体力学を計算機シミュレーション研究でシニアリサーチャー、1998 年東京大学教授、埼玉大学助教授、2004 年理研情報基盤センター長として大型計算機センターの企画設立運営を行う。2006 年理研次世代スーパーコンピュータ開発実施本部グループディレクターとして、京・富岳やゲノム研究を開発推進、2020 年先端加速システムズ(株)代表取締役に就任、2022 年より順天堂大学健康データサイエンス学部特任教授、現在に至る。2005 年文部科学大臣賞、2006 年高速計算機開発分野のノーベル賞と呼ばれているGordon Bell 賞を受賞。自動車、ボール(野球)などの流体力学シミュレーション領域等で、74 報発表

 

3. 林﨑良英

トランスクリプトミクス(RNA)などのオミックス科学の第一人者、1982年大阪大学医学部卒、医師、医学博士、1998年理研ゲノム科学総合研究センタープロジェクトディレクター、2008年理研オミックス基盤研究領域長、2013年理研予防医療プログラム長、2012年より順天堂大学客員教授兼務を経て、2021年(株)ダナフォーム代表取締役、現在に至る。国際FANTOMプロジェクトを創始し、国際標準オミックスデータベース作成で世界をリード。これを用いて、ノーベル賞受賞者山中伸弥博士のiPS細胞が開発される。スウェーデン王立カロリンスカ研究所客員教授、クイーンズランド大学名誉教授。2004年文部科学大臣賞、2007年紫綬褒章、2012年カロリンスカ研究所、名誉博士号、2013年国際ヒトゲノムコンソーシアム、Chen賞、2019年欧州生物学機構(EMBO)Associate Member等。Nature Science等の国際誌に575報発表

 

4. 岡﨑康司

オミックス医学、ゲノム医学の第一人者。ミトコンドリア疾患等、多数のヒト疾患に焦点をあて、オミックス医学を推進している。1986年岡山大学医学部卒、循環器病専門医、臨床遺伝専門医。1995年大阪大学医学部大学院博士課程修了、医学博士、1999年理研ゲノム科学総合研究センター、チームリーダー、2003年埼玉医科大学ゲノム医学研究センターゲノム科学部門部門長教授、2008年同センター所長、2017年順天堂大学大学院医学研究科 難治性疾患診断・治療学教授、難病の診断と治療研究センター センター長、教授。2018年から理研 生命医科学研究センター 応用ゲノム解析技術研究チーム チームリーダー兼任。2001年 人間力大賞グランプリ、経済産業大臣奨励賞。Natureを含む国際誌に321報発表。