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2023.10.30 (MON)

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ドライアイと花粉症の併発による症状と、併発するリスク因子を解明 ―花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ®」を用いたビッグデータ解析―

順天堂大学大学院医学研究科眼科学の猪俣武範 准教授らの研究グループは、2018年2月より公開している花粉症研究用スマートフォンアプリケーション「アレルサーチ® 」*1を用いて収集した包括的な花粉症関連健康ビッグデータを解析し、ドライアイと花粉症の併発による症状と、ドライアイと花粉症が併発するリスク因子を解明しました。本研究から、花粉症患者の約半数にドライアイは併存し、ドライアイ症状の重症化は花粉症症状の重症化ならびに生活の質(Quality of Life : QOL)の低下と関連があることを示しました。花粉症は眼科以外の診療科で初診することが多い疾患であり、花粉症に対する全身的なアレルギー治療のみならず、アレルギー性結膜炎やドライアイに対する眼局所の治療を含んだ相補的な診療科連携の必要性を示しました。

本研究成果のポイント

  • 11,284人を対象にスマートフォンアプリケーションを用いたデジタルコホート研究を実施
  • 花粉症患者の約半数がドライアイ症状を併存し、ドライアイ症状の重症化は花粉症症状の重症化やQOLの低下に関連があることを認めた
  • ドライアイと花粉症の併存に関連する因子を解明した
■背景

ドライアイと花粉症は多くの人が罹患する免疫アレルギー性疾患であり、QOLや労働生産性を低下させます。なかでも、ドライアイとスギ花粉症はともに乾燥した春季に重複して発症します。このドライアイと花粉症によるアレルギー性結膜炎はともに眼表面において炎症を惹起し、互いに病態を悪化させます。またコンタクトレンズの装用中断の原因としてドライアイと花粉症はその大部分を占めています。ドライアイと花粉症はその掻痒感、充血、乾燥感などの多くの症状でオーバーラップを認めることが指摘されています。しかし、ドライアイや花粉症の症状は個々人によって多様性と不均一性を持ちます。そのため、これらの多様な症状を層別化*2し、個々人に適した予防や診療によるドライアイと花粉症に対する双方向的な治療が必要です。
そこで、本研究では花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ®︎」で収集した花粉症関連大規模ビッグデータを解析し、ドライアイと花粉症の併存やその症状の関連と、ドライアイと花粉症の併存するリスク因子を解明しました。さらに、個々人に適したドライアイと花粉症に対する予防や診療方法の確立を目指し、ドライアイと花粉症における個々人における多様な症状の層別化を行いました。

■内容

今回の研究では、花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ® (図1A)」を対象期間中(2018年2月1日〜2020年5月1日)にダウンロードし、オンラインで同意を得た方 (11,284名)を対象としました。アレルサーチでは、年齢、性別などの基本情報、病歴、生活習慣、住居環境、花粉症の症状、ドライアイの症状、花粉症と関連したQOLについて収集しました。花粉症の症状は鼻症状スコア(図1B)、非鼻症状スコア(図1C)で評価しました。花粉症は研究参加者が「花粉症あり」と回答した場合に花粉症と定義しました。ドライアイは、日本語版Ocular Surface Disease Index*3 (図1D)を用いて評価しました。花粉症と関連したQOLは、アレルギー性結膜疾患QOL調査票(図1E, Japanese Allergic Conjunctival Disease Standard Quality of Life Questionnaire, JACQLQ*4)を用いて評価しました。ドライアイ症状と花粉症症状の関連を多変量線形回帰分析にて解析しました。花粉症患者におけるドライアイの併発と関連した因子は多変量ロジスティック回帰分析で解明しました。また、次元削減アルゴリズムUniform Manifold Approximation and Projection (UMAP*5)を用いてドライアイと花粉症の併発した多様の症状を層別化し、階層型クラスタリングを用いて層別化された各群の特徴を明らかにしました。

 

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本研究から、9,041人の花粉症患者のうち、約半数である4,429人(49.99%)にドライアイ症状を認めました。ドライアイ症状の重症化は花粉症症状の重症化と関連を示しました。また、花粉症患者にドライアイを併発するリスク因子として、女性、低BMI、治療中の高血圧、血液疾患・膠原病・心疾患・肝疾患・呼吸器疾患の既往、アトピー性皮膚炎、トマトアレルギー、現在および過去の精神疾患、ペットの飼育、花粉症の季節におけるコンタクトレンズ装用中断歴、現在のコンタクトレンズの装用、喫煙習慣、6時間未満の睡眠時間などが特定されました。次元削減アルゴリズムUMAPから、ドライアイと花粉症の多様な症状は14群のクラスターに層別化されました(図2A)。階層型クラスタリングから、クラスター9が重症ドライアイと重症花粉症の併発群であり、クラスター1が軽症ドライアイと重症花粉症の併発群であることが特定されました (図2B)。

 

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■今後の展開

今回、当該研究グループはドライアイと花粉症の症状を臓器横断的に解析し、花粉症患者の約半数におけるドライアイの併発と、ドライアイ症状の重症化と花粉症症状の重症化との関連を明らかにしました。さらに、本研究ではドライアイと花粉症の複合的な症状を元にした層別化手法の開発や花粉症にドライアイを合併する特徴的な因子を特定しました。これにより、ドライアイと花粉症の併存による多様な症状に対する適切な加療が可能になることが期待されます。

■用語解説

*1 アレルサーチ:花粉症研究のためのアプリ。研究参加での情報提供以外に、画像撮影による目の赤み度やアンケートから花粉症症状を数値化して示す「花粉症レベルチェック」、研究参加者の「花粉症タイプの見える化」や「おすすめの花粉症対策」、どの地域にどのくらいの花粉症レベルの人がいるかをチェックできる「みんなの花粉症マップ」、また、花粉症と関連するQOLチェックや労働生産性チェックなど、花粉症予防に向けた機能を搭載。
*2 層別化: ある疾患に属する患者を、バイオマーカーを用いていくつかのサブグループに分類し、それぞれのサブグループに適した治療法を選択することを目的とした医療。
*3 日本語版Ocular Surface Disease Index: ドライアイの自覚症状ならびに視機能への影響を評価するための質問紙票の日本語版。
*4 アレルギー性結膜疾患QOL調査票(Japanese Allergic Conjunctival Disease Standard Quality of Life Questionnaire, JACQLQ): 日本眼科アレルギー学会が作成したアレルギー性結膜疾患に対する疾患特異的なQOL調査票。
*5 Uniform Manifold Approximation and Projection (UMAP): 次元削減と呼ばれるデータ解析手法の一つ。高次元データを低次元空間に圧縮することで、データの構造やパターンを視覚化しやすくする目的に用いる。

研究者のコメント

  • これまでドライアイと花粉症の関連については診療科横断的なデータの収集が必要となるため、なかなかうまく解明することができませんでした。本研究では、スマホアプリを用いることで、診療科横断的なデータの収集に成功し、ドライアイと花粉症の関連について明らかにしました。
  • 我々は、花粉症研究用スマホアプリやドライアイ研究用スマホアプリを用いたデジタルコホート研究を2016年より開始し、本分野における研究のリードとエビデンスの集積を行ってきました。
  • アプリから収集した疾患関連包括的データを利活用し、予防・予測・個別化・参加型医療からなるP4医療の実現を目指します。
画像2
     猪俣 武範 准教授
■原著論文

本研究はJournal of Medical Internet Research誌のオンライン版に2023年9月12日付で公開されました。
タイトル: Using the AllerSearch Smartphone App to Assess the Association Between Dry Eye and Hay Fever: mHealth-Based Cross-Sectional Study
タイトル(日本語訳): 花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ」を用いたドライアイと花粉症の関連の検討: モバイルヘルス型横断観察研究
著者: Inomata T, Sung J, Nakamura M, Iwagami M, Akasaki Y, Fujio K, Nakamura M, Ebihara N, Ide T, Nagao M, Okumura Y, Nagino K, Fujimoto K, Eguchi A, Hirosawa K, Midorikawa-Inomata A, Muto K, Fujisawa K, Kikuchi Y, Nojiri S, Murakami A.
著者(日本語表記): 猪俣武範1,2,3、Jaemyoung Sung1、中村正裕1,4、岩上将夫5、赤崎安序1,2、藤尾謙太1,2、中村真浩6、海老原伸行7、井出拓磨6、長尾雅史8,9,10、奥村雄一1,2、梛野健2,3、藤本啓一1、江口敦子3、廣澤邦彦1,2、緑川猪俣明恵3、武藤香織11、藤澤空見子11、菊池遥太1、野尻宗子8、村上晶1,2
著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座、2)順天堂大学大学院医学研究科デジタル医療講座、3)順天堂大学大学院医学研究科病院管理学、4)東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻個別化保健医療講座、5)筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野、6)順天堂大学大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科講座、7)順天堂大学医学部附属浦安病院眼科、8)順天堂大学革新的医療技術開発研究センター、9)順天堂大学医学部整形外科学講座、10)順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ医学研究室、11)東京大学医科学研究所・公共政策研究分野
DOI: 10.2196/38481

 

本研究は、株式会社シード、ジョンソンエンドジョンソン株式会社、InnoJin株式会社、ノバルティスファーマ株式会社、ロート製薬株式会社の助成を受け実施されました。また、AMED JP20ek0410063、JSPS科研費20KK0207、20K23168、21K17311、21K20998、順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所プロジェクト研究費、公益信託参天製薬創業者記念眼科医学研究基金、公益財団西川医療振興財団医学研究活動費助成および一般医薬品セルフメディケーション振興財団調査・研究助成の支援を受け実施されました。

なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。