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2023.12.12 (TUE)

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落花生皮中のポリフェノール成分の簡易分析法の開発 ― 安価な健康食品の開発を目指して ―

渋谷教育学園 幕張高等学校 1年生の藤木陽世、鳥羽瀬一真と順天堂大学 医療科学部臨床工学科 教授 六車仁志の共同研究グループは、カーボンナノチューブ*1電極を使用した電気化学分析法により、落花生皮中のプロシアニジン(ポリフェノール*2の一種)の定量分析を可能にしました。この手法は、従来の高速液体クロマトグラフィー法よりも簡便、迅速、安価に遂行できます。この成果により、落花生皮を利用した健康食品の開発研究の加速や、安価な健康食品の提供への貢献、食品加工廃棄物の低減にもつながることが期待されます。

本論文は日本分析化学会の論文誌Analytical Sciencesのオンライン版に20231211日付で公開されました。

本研究のポイント

  • ナノ材料であるカーボンナノチューブの機能性表面電極を利用した。
  • これまでよりも短時間、低コスト、簡易的に食品工業廃棄物である落花生皮中のプロシアニジンの定量が可能となった。
  • プロシアニジンは、抗ウイルス、防菌防黴作用があり、安価な健康食品の提供と健康安全社会の実現に貢献することが期待される。
◆背景 

千葉県での落花生の生産量は、国内の80%以上を占めています。落花生の皮は、食品加工の際に生じる低価値副産物であり、現状では廃棄されていますが、ポリフェノールの一種であるプロシアニジン類化合物が大量に含まれていることが知られています。プロシアニジンはポリフェノールの中でも特に優れた健康効果(抗ガン、ダイエット、心臓疾患の低減など)があるため、落花生皮の健康食品への応用研究も行われています。その過程で課題となるのがプロシアニジンの定量方法です。プロシアニジンは、分子形態(図1)がさまざまであるため、高速液体クロマトグラフィー/質量分析法(HPLS/MS)では、多くの分離ピークが存在し、それらのピークの追跡、同定、定量作業に手間を要します。しかも、高価な機器と熟練の技術者を必要とします。分光法では、精密な定量ができません(例えば、没食子酸やトロロックス等価としての定量)。本研究では、カーボンナノチューブ電極を使用した電気化学分析法により、落花生皮中のプロシアニジンの定量分析を可能にしました。

◆内容 

本研究では、カーボンナノチューブからなる機能性表面を持つ電極を利用しました(図2A)。この電極をセンシング部位とし、サイクリックボルタンメトリー(CV)*3でプロシアニジンの標準物質の電気化学測定を行い、明確で再現性のよい酸化還元ピークが観測されました。他の一般的な電極ではこのようなCV波形は得られません。カーボンナノチューブの特異的なナノ構造起因する触媒能と電子伝達能によります。さまざまなプロシアニジン標準物質のCV測定を行い、同様なCV波形が観測されました(図2B)。1対の+0.2V付近の酸化還元ピークは、フラボノイド骨格のカテコール基の酸化還元反応に帰属できます(図2C)。さらに、プロシアニジンの種類に関係なく、濃度に比例した酸化電流値が得られています(図2D)。これは、CV電流値を測定することでプロシアニジンの総量を定量できることを意味します。測定時間は、1分以内でした。落花生皮を80度の水に浸して、ろ過した液のCV波形は、プロシアニジン化合物と同様であり、落花生皮の主成分はプロシアニジンであることがわかります(図2E)。ピーク電流値より、落花生皮1g中のプロシアニジン含有量は6.2mgと算出しました。この値は、HPLC/MS法で評価した値と近いです。以上より、カーボンナノチューブ電極を用いる電気化学法により、簡易的な落花生皮中のポリフェノール量の開発に成功しました。なお、落花生中のポリフェノール含有量は、コーヒー豆(主成分は、クロロゲン酸)や紅茶葉(主成分は、テオフラビンとエピガロカテキンガレート)に含まれるそれと同レベルです。しかし、コーヒー豆や紅茶葉には多量のカフェインが含まれていますが、落花生皮には含まれていません。この事実は、落花生皮が健康食品やサプリメントとしての潜在度が高いことを意味します。

     図1差替え

     

図22

◆今後の展開 

ポリフェノールの健康効果が明らかになるにつれ、全世界的に従来の6大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維)に加え、ポリフェノールを7番目の栄養素として位置づけようとする潮流が高まっています。その課題の一つとして、「aaa(食品)にはxxxグラムのポリフェノールが含まれている」といった定量情報の均一化・データベース化が挙げられます。また、特定保健用食品(いわゆるトクホ)として販売するには、健康効果がわかっている成分の含有量の表示が義務付けられています。本研究の手法は、従来法に比較し、安価で簡便であることから、この課題の解決に大きく寄与することが期待されます。さらに、落花生皮を利用した健康食品の開発研究の加速や、安価な健康食品の提供への貢献、食品加工廃棄物の低減にもつながり健康安全社会の実現に貢献できることが期待されます。現在は、落花生の皮にエタノールや添加物を加えることでより大量のプロシアニジンの抽出を試みています。

◆用語解説

*1 カーボンナノチューブ:炭素原子が六角形に配置されて構成されるシート(グラフェン)を筒状に巻いて形成された炭素の同素体。シートが1枚であれば、単層カーボンナノチューブ、複数のシートであれば、多層カーボンナノチューブである。高い電気伝導性と触媒能と機械的強度、などの性質がある。

*2 ポリフェノール:化学物質の総称名。多くの食品に含まれる植物由来の成分。約8,000種類存在する。抗ウイルス・防菌・防黴作用を持つことで知られる。中でもカテキン(プロシアニジンの1種)やテアフラビンには新型コロナウイルスを無害化することがわかっている。コーヒーに含まれるクロロゲン酸にはがんや心疾患の低リスク化、タマネギに含まれるケルセチン配糖体には脂肪を分解する作用などを確認されている。

*3 サイクリックボルタンメトリー法:電気化学測定法の1モード。電圧を設定した速度で変化させ電流を計測する。特定の物質は、特定の電位に電流ピークが生じる。拡散律速下では、電流値は電極活物質の濃度に比例するので定量に利用できる。

◆原著論文 

本研究は、日本分析化学会の論文誌であるAnalytical Sciencesのオンライン版に20231211日付で公開されました。

タイトル: Electrochemical determination of the procyanidins in peanut skin using a carbon nanotube electrode

タイトル(日本語訳): カーボンナノチューブ電極を用いる落花生皮中のプロシアニジンの電気化学定量

著者:Hiyo Fujiki 1,Kazuma Tobase 1, Hitoshi Muguruma 2

著者(日本語表記):藤木陽世1)、鳥羽瀬一真1)、六車仁志2)

著者所属:1)渋谷教育学園幕張高等学校、2)順天堂大学医療科学部 

DOI: https://doi.org/10.1007/s44211-023-00466-7