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2023.12.19 (TUE)

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青年期にバスケットボールやバレーボールをすると高齢期の骨密度が高くなる? ~高齢者を対象とした文京ヘルススタディー(観察研究)で明らかに~

順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの大塚光大学院生(博士後期課程2年)、田端宏樹博士研究員、田村好史センター長補佐/先任准教授、河盛隆造センター長/特任教授、綿田裕孝副センター長/教授らの研究グループは東京都文京区在住の高齢者1596名を対象とした観察研究により、青年期にバスケットボールやバレーボールをしていた人は、高齢期(65~84才)の骨密度が高くなる可能性を明らかにしました。

本成果は、青年期(13~18才)における骨に加わる刺激の大きいスポーツの実施が、後年の骨密度維持に有効である可能性を示しており、青年期の運動実施が数十年後の高齢期の骨粗鬆症の予防および国内における要介護になる原因全体第3位(女性第2位)(令和元年「国民生活基礎調査」調べ)である転倒・骨折のリスクの軽減に役立つ可能性が示唆されました。

 
本研究は2023年10月12日付で「Frontiers in Physiology」のオンライン版で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 東京都文京区在住の高齢者1596名を対象とした調査を実施。
  • 高齢期での骨密度維持には、青年期にバスケットボールやバレーボールをすることが有効である可能性が示唆された。
  • 青年期の運動は、アスリート選手だけでなく、一般の方においても高齢期の骨密度に長期的な影響を及ぼす可能性が示された。
■背景

骨量は、20代にピークを迎え、その後50歳頃まで維持し、加齢に伴い減少していきます。特に女性では閉経後に急激に減少し、70歳以上の日本人女性の約40%が骨粗鬆症*1(骨密度が著しく低下した状態)と報告されています。骨粗鬆症を背景とする転倒・骨折は女性の要介護になる原因第2位となっています。骨密度は一度低下すると上がりづらいため、青年期に最大骨量を高めておくことが高齢期の骨密度の維持すなわち骨粗鬆症の予防に重要です。
青年期に運動を実施すると最大骨量を高められることはよく知られており、特に、バスケットボールやバレーボールなど骨に加わる刺激の大きい運動をしている人では、水泳やサイクリングなど骨に加わる刺激の少ない運動をしている人に比べて骨密度が高くなるといわれています。しかし、このような青年期の運動実施種目の違いが長期的に影響し高齢期の骨密度とも関連するかはよく分かっていませんでした。
そこで本研究では、日本の伝統的な「部活動」に着目した、東京都文京区在住の高齢者を対象とした観察型コホート研究“Bunkyo Health Study”(文京ヘルススタディー) *2において、中学・高校生期に行った運動部活動の種目と高齢期の骨密度との関連について検討しました。

■内容

本研究では、東京都文京区在住の高齢者を対象とした観察型コホート研究“Bunkyo Health Study”の研究に参加した65~84歳の高齢者1596名(男性681名、女性915名)を対象に身体組成、血液検査、DXA法*3 (二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて大腿骨頸部および腰椎の骨密度を評価しました。また、質問紙により中学・高校生期に運動部活動に参加していたかどうか、参加していた人はどのようなスポーツ(部活動)に取り組んでいたかについて調査しました。
大腿骨頸部および腰椎の骨密度を従属変数とし、各スポーツ(運動部活動)の実施の有無および参加者の特徴(年齢、体重、血清25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]値など)を独立変数として、青年期の運動種目と高齢期の骨密度との関連を重回帰分析*4を用いて解析しました。
その結果、中学・高校生期にバスケットボールをしていた男女で高齢期の大腿骨頸部骨密度が高く(男性:β=0.079、P<0.05)(女性:β=0.08、P<0.01)、中学・高校生期にバレーボールをしていた女性では、高齢期の腰椎骨密度が高い(β=0.08、P<0.01)ことが示されました。

 

骨①

図1:生涯における骨量の変遷と運動と骨量の関連

 

骨2

図2:青年期に行っていた運動と高齢期の骨密度との関連(重回帰分析の結果)

 

■今後の展開

本研究では、青年期にバスケットボールをしていた男女では、高齢期において大腿骨頸部骨密度が高く、さらに、青年期にバレーボールをしていた女性において、高齢期の腰椎骨密度が高い可能性が明らかになりました。本研究の興味深い点は、競技レベルや運動量の多いアスリートなどでなく一般人であっても、数十年前の中学・高校生期の運動経験によって得られた骨利益が高齢期まで長期に渡って維持される可能性を示している点です。昨今、少子化が進むなか、部活動の運動部員数が減少傾向にあり、スポーツをしたくても部活がない時代がくるのではないかと危惧されています。実際にスポーツ庁の調査では2009年から2018年の間に中学生の運動部活動所属者が約13.1%減少したと報告されています。本研究成果は、中学・高校生期にバスケットボールやバレーボールといった骨に大きな刺激が加わるスポーツを行うことで、長期的に骨の健康をもたらし、青年期の運動実施が将来の健康につながる可能性を示唆しています。
今回の研究により、中学・高校生期の運動が高齢期の骨密度維持と関連することが示唆されましたが、運動強度、運動量、運動時間の詳細など、まだ不明な点が多く残されており、今後さらなる研究を進めていきます。

■用語解説

*1 骨粗鬆症: WHO(世界保健機関)では、「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義づけている。
*2 Bunkyo Health Study (文京ヘルススタディー): 順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターで2015年から取り組んでいてる、東京都文京区民1,629名の高齢者を対象として、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか?「どのように」早期の発見・予防が可能となるか?などを明らかにする研究。
(参照: https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/)
*3 DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法): 2種類の微量なX線を利用して透過率の違いから体組成を測定する方法。
*4 重回帰分析: 2つ以上の独立変数が従属変数に与える影響度合いを分析する手法。

■原著論文

本研究成果は「Frontiers in Physiology 」のオンライン版(2023年10月12日付)で公開されました。
英文タイトル: Playing Basketball and Volleyball During Adolescence is Associated with Higher Bone Mineral Density in Old Age: The Bunkyo Health Study
タイトル(日本語訳): 思春期にバスケットボールやバレーボールをすることは高齢期の高い骨密度と関連する:
文京ヘルススタディ-
著者: Hikaru Otsuka1,2, Hiroki Tabata1, Huicong Shi1,2, Mari Sugimoto2, Hideyoshi Kaga3, Yuki Someya4, Hitoshi Naito3,
Naoaki Ito3, Abulaiti Abudurezake1, Futaba Umemura2, Tsubasa Tajima3, Saori Kakehi1, Yasuyo Yoshizawa6, Muneaki Ishijima1,2,5, Ryuzo Kawamori1,2,3, Hirotaka Watada1,3, and Yoshifumi Tamura1,2,3,6,7
著者(日本語表記): 大塚光、田端宏樹、石薈聡、杉本真理、加賀英義、染谷由希、内藤仁嗣、伊藤直顕、アブドラザクアブラディ、梅村二葉、田島翼、筧佐織、吉澤裕世、河盛隆造、綿田裕孝、田村好史
著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンター、2)順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・スポートロジー、3)順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学、4)順天堂大学スポーツ健康科学部、5)順天堂大学大学院医学研究科整形外科・運動器医学、6)順天堂大学大学院医学研究科共同研究講座(健康寿命学講座) 、7)順天堂大学国際教養学部
DOI : 10.3389/fphys.2023.1227639

 

本研究は、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(2014-2018,S1411006)、JSPS科研費(JP18H03184、JP20K23261)、ミズノスポーツ振興財団、三井生命厚生財団の研究助成を受け実施しました。また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。