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2024.03.13 (WED)

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左室駆出率の軽度低下した心臓サルコイドーシス患者における致死性心室性不整脈リスク ― 植え込み型除細動器の適応の再検討 ―

順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の赤間友香 大学院生、藤本雄大 大学院生、末永祐哉 准教授、前田大智 非常勤助教、堂垂大志 非常勤助教、砂山勉 非常勤助教、南野徹 教授らの研究グループは、心臓サルコイドーシス患者における、左室駆出率*1の軽度の低下と致死性心室性不整脈*2との関連を明らかにしました。心臓サルコイドーシス患者は致死性心室性不整脈を起こしやすいことが知られていましたが、その一方で致死性心室性不整脈のリスク因子*3についての研究は十分ではなく、軽度の左室駆出率の低下と致死性心室性不整脈との関連は明らかにされていませんでした。本研究は、心臓サルコイドーシスの世界最大規模の多施設レジストリデータ*4であるILLUMINATE-CSを用いて、軽度の左室駆出率の低下であっても致死性心室性不整脈と関係していることを明らかにしました。また、本研究成果は、心臓サルコイドーシス患者に対する植え込み型除細動器*5の適応について、国内を含むさまざまな国の心臓サルコイドーシス診療ガイドラインに影響を及ぼす重要な報告と考えられます。
本研究はJournal of the American Heart Association誌のオンライン版に2024年3月8日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 心室性不整脈の既往を認めない心臓サルコイドーシス患者において、致死性心室性不整脈の累積5年発生率・10年発生率はそれぞれ16.8%・23.0%と高値であった。
  • 左室駆出率の軽度から中等度の低下は、既知の因子での調整後においても、致死性心室性不整脈の発生と有意に関連していた。

 

■背景

サルコイドーシスとは、原因不明の炎症により、非乾酪性肉芽腫と呼ばれる炎症の塊を1つ以上の臓器につくる指定難病(84)です。この肉芽腫を心臓に認めた場合、心臓サルコイドーシスと呼ばれ、命に関わる重篤な致死性心室性不整脈や心不全、さらには突然死を起こす可能性があることが知られています。心臓の収縮機能の指標の1つである左室駆出率が重度に低下(35%以下)している患者は一般的に致死性心室性不整脈のリスクが高いとされ、植え込み型除細動器の適応を積極的に検討する必要がありますが、一方で致死性心室性不整脈のリスクが高いとされる心臓サルコイドーシスにおいて、左室駆出率の軽度の低下(男性:52%以下、女性:54%以下)と心室性不整脈との関連は明らかではありませんでした。

 

■内容

本研究では、2001年から2017年の間に、国内33病院において、2016年の日本循環器学会のガイドラインもしくは2014年のアメリカ心臓病学会のガイドラインに基づいて心臓サルコイドーシスと診断された512人のうち、患者登録時に致死性心室性不整脈の既往を認めなかった401人のデータを統計的に解析しました。
近年のガイドラインにおいて植え込み型除細動器の適応を積極的に検討する基準値である、左室駆出率35%以下を満たす患者を左室駆出率の重度低下群(N=80)と定義しました。さらに、左室駆出率35%を上回る患者のうち、アメリカ心エコー図学会の左室駆出率の正常範囲下限値である、男性52%以下、女性54%以下を満たす患者らを軽度から中等度の左室駆出率低下群(N=137)とし、それ以外の患者らを左室駆出率正常範囲群(N=184)と分類しました。中央値3.2年間の追跡の間に、致死性心室性不整脈(突然死、持続性心室頻拍もしくは心室細動の複合)は58人に発生しました。さらに、致死性心室性不整脈の累積5年発生率・10年発生率はそれぞれ16.8%・23.0%と高値でした。既知の致死性心室性不整脈のリスク因子を調整した後も、左室駆出率の重度低下群だけではなく、軽度から中等度の左室駆出率低下群も左室駆出率正常範囲群と比較して有意に高い致死性心室性不整脈発生率と関係していました。
以上の結果より、致死性心室性不整脈のリスクが高い心臓サルコイドーシス患者においては、軽度から中等度の左室駆出率の低下であっても致死性心室性不整脈の発生と関連していることが明らかになりました。

 

■今後の展開

今回の研究では、2018年の不整脈非薬物治療ガイドラインでは、植え込み型除細動器の積極的な適応とならなかった、左室駆出率の低下が軽度である心臓サルコイドーシス患者における致死性心室性不整脈の発生率の高さを指摘しています。この研究の結果により、心臓サルコイドーシス患者における植え込み型除細動器の適応を再検討し、より精度よく心臓サルコイドーシス患者の突然死を防ぐ治療戦略の開発が期待されます

 

20240311_リリース

図1:本研究の結果のまとめ

■用語解説 

*1 左室駆出率:心臓の収縮機能評価の指標の一つ。心臓が拡張した際の左室の容積から収縮時の左室の容積を差し引いたもの(駆出量)の拡張期の左室容積に対する割合。
*2 致死性心室性不整脈:心室から生じる不整脈のうち生命を脅かすもの。心室頻拍や心室細動はこの一種で、心停止の原因となる重篤な不整脈 である。
*3 リスク因子:ある病気や状態を引き起こす確率を高める要因のこと。
*4 多施設レジストリデータ:特定の疾患に関する様々なデータ(患者数、検査結果、予後など)を調査するため、複数の病院において、特定の疾患に罹患した患者を網羅的に登録したデータのこと。
*5 植込み型除細動器:命に関わる不整脈を治療するための体内植込み型装置のこと。常に心臓の脈を監視し、命に関わる不整脈の発作が出た場合に速やかに反応して電気ショックを発生させ、不整脈による突然死を防ぐ。

研究者のコメント

心疾患による致死性心室性不整脈を予測し、突然死を予防することは循環器内科の重要な任務の一つです。今回の研究成果が広く周知され、一人でも多くの心臓サルコイドーシス患者さんの突然死が防げれば幸いです。

■原著論文

本研究はJournal of the American Heart Association誌のオンライン版に2024年3月8日付で公開されました。
タイトル: Relationship of mild to moderate impairment of left ventricular ejection fraction with fatal ventricular arrhythmic events in cardiac sarcoidosis
タイトル(日本語訳):心臓サルコイドーシスにおける、軽度から中等度の左室駆出率の低下と致死性心室性不整脈との関連について
著者:Yuka Akama 1), Yudai Fujimoto 1), Yuya Matsue 1), Daichi Maeda 1), Kenji Yoshioka 2), Taishi Dotare 1), Tsutomu Sunayama 1), Takeru Nabeta 3), Yoshihisa Naruse 4), Takeshi Kitai 5), Tatsunori Taniguchi 6), Shuntaro Sato 7), Hidekazu Tanaka 8), Takahiro Okumura 9), Yuichi Baba 10), Tohru Minamino 1)11)
著者(日本語表記): 赤間 友香 1), 藤本 雄大 1), 末永 祐哉 1), 前田 大智 1), 吉岡 賢二 2), 堂垂 大志 1), 砂山 勉 1), 鍋田 健 3), 成瀬 代士久 4), 北井 豪 5), 谷口 達典 6), 佐藤 俊太朗 7), 田中 秀和 8), 奥村 貴裕 9), 馬場 裕一 10), 南野 徹 1)11)

著者所属:1) 順天堂大学 大学院医学研究科 循環器内科学講座 2) 亀田総合病院 循環器内科 3) 北里大学 循環器内科学 4) 浜松医科大学 内科学第三講座 5) 国立循環器病研究センター 心臓血管内科 6) 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 7) 長崎大学 病院臨床研究センター 8) 神戸大学大学院 循環器内科学 9) 名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学 10) 高知大学老 年病・循環器内科学 11) AMED-CREST

DOI: 10.1161/JAHA.123.032047

本研究はJSPS科研費22K16147、AMED JP21ek0109543、およびノバルティスファーマの支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。