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2024.03.26 (TUE)

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自閉スペクトラム症の新たなモデルマウスを開発 -オミクス解析による分子病態理解と治療法開発への期待-

順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学の加藤忠史主任教授、理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター分子精神病理研究チームの中村匠研究員(研究開始当時:東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程)、髙田篤チームリーダー、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系の坪井貴司教授らの共同研究グループは、自閉スペクトラム症(ASD)の有力な関連遺伝子[1]KMT2Cの変異マウスを樹立し、その変異マウスがASD患者と似た行動変化を示すこと、ASDに関連する遺伝子群の発現変化が脳内で起こっていること、このような行動変化や遺伝子発現変化の一部が薬剤投与によって回復することを明らかにしました。

本研究成果は、ASDの病態理解を深めるとともに、治療方法の開発につながることが期待されます。

今回、共同研究グループは、有力なASD関連遺伝子であり、ヒストンメチル化[2]を促進するKMT2C遺伝子に着目し、Kmt2c遺伝子を欠損する遺伝子改変マウスをCRISPR/Cas9システム[3]によって樹立しました。Kmt2c変異マウスは、社会性や柔軟性の低下といったASD様行動を現し、ASDモデルマウスとして妥当と考えられる行動変化を示しました。また、遺伝子発現に着目したオミクス解析(トランスクリプトーム解析[4])により、変異マウスの脳では、既知のASDリスク遺伝子の発現変化が生じ、これらがASDの病態に寄与している可能性を見いだしました。さらに、KMT2Cの欠損によるヒストンメチル化変化を打ち消すと予測される、ヒストン脱メチル化酵素LSD1の阻害剤投与によって、Kmt2c変異マウスにおける社会性の低下や遺伝子の発現変化が回復することを突き止めました。

 

本研究は、科学雑誌『Molecular Psychiatry』オンライン版(3月26日付:日本時間3月26日)で掲載されました。

 加藤先生画像1

Kmt2c遺伝子欠損マウスが呈したASD様行動は、薬剤投与で改善

■補足説明 

[1] 自閉スペクトラム症(ASD)の有力な関連遺伝子

2022年にJack M.Fuらによって報告された遺伝子。ASD患者における希少な遺伝子変異に着目し、20,627人のASD患者群と42,610人の対照群のコホートから成る大規模遺伝学的解析おいて、非常に厳しい有意水準を超えた遺伝子として報告された。詳細は英語原著論文を参照(https://www.nature.com/articles/s41588-022-01104-0)。

 

[2] ヒストンメチル化、H3K4のメチル化

ヒストンはH1H2AH2BH3H45種類から成り、DNAを巻き付かせて核内に高密度にパッキングさせる役割を担っている。ヒストンのN末端のリジン残基またはアルギニン残基のメチル化は、遺伝子発現制御やクロマチンの高次構造の形成に関わっていると考えられている。ヒストンH3K4のメチル化は、エピジェネティック修飾の一つで、ヒストンH3の4番目のリジン(H3K4)において起こるメチル基修飾。メチル基が付与されたH3K4は、mRNAの転写が活発な領域のマーカーとして知られている。

 

[3] CRISPR/Cas9システム

ゲノム編集技術の一つ。標的ゲノム領域を認識する配列を含むガイドRNAと、DNA切断酵素のCas9タンパク質から構成され、ゲノム中の任意の領域を切断できる。細胞がゲノムを修復する際、ゲノムの欠失、挿入が起こり、任意の遺伝子の機能を破壊することができる。

 

[4] トランスクリプトーム解析

組織や細胞で発現している転写産物(RNA)の網羅的な解析のこと。次世代シークエンサーによりRNAの配列断片情報を網羅的に取得し、遺伝子発現量の定量を行う。

  

プレスリリース本文