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フレイルの多面性が高齢心不全患者の死因に及ぼす影響

順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学の大橋浩一 大学院生、末永祐哉 准教授、前田大智 非常勤助教、藤本雄大 大学院生、鍵山暢之 特任准教授、砂山勉 非常勤助教、堂垂大志 非常勤助教、葛西隆敏 准教授、南野徹 教授らの研究グループは、高齢心不全患者の最終的な死亡原因とその患者が合併しているフレイル*1の種類やそれらの合併率との関連性を明らかにしました。
本成果は一般的に行われている薬物治療などの心不全に対する治療に加え、フレイルに対する包括的な介入が、特にフレイルの種類(フレイルドメイン: FD)を複数合併している高齢心不全患者の更なる予後改善の観点からは重要である可能性を示唆しています。また、心不全患者への特定の治療介入の有効性について研究を行う際に、適正患者選択の面からも様々なFDについて考慮する事が重要であると考えられます。
本研究はCirculation: Cardiovascular Quality and Outcomes誌のオンライン版に2024年3月26日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 高齢心不全患者において身体的・社会的・認知的フレイルを多く合併すればするほど、FRAGILE-HF試験の退院後2年間での死亡率が有意に高かった。
  • 死因を心不全死、心不全以外の心血管死、非心血管死のいずれかに分類すると、全体の死亡率の上昇は主に非心血管死の増加によるものであった。
  • 身体的・社会的・認知的フレイルはいずれも心不全死ではなく非心血管死と相関していた。

 

■背景

心不全に対する薬物治療*2や非薬物治療*3は飛躍的な進歩を遂げてきました。その一方で心不全患者の死亡率は依然として高く、心血管死は世界各国において死亡原因の上位に位置し公衆衛生上の重要な課題の一つとされています。心不全患者数の増加は高齢心不全患者の増加に起因しており、近年、高齢心不全患者に合併するフレイルが注目を集めています。フレイルを有する心不全患者はそうでない患者よりも予後が不良であるということはこれまでに多くの既存研究で示されており、またこれまで重要視されていた身体的フレイルのみならず、認知機能障害や社会的フレイルなど、フレイルという概念は単一ではなく複数のドメインから構成されるものとして認識する事の重要性が提唱されています。末永准教授らのグループは、これまでにFRAGILE-HF試験*4の結果を解析し、高齢心不全患者は多くのFDを複数持つ患者が多い事、また多くのFDを持てば持つほどその患者の死亡率が高い事を明らかとしてきました。しかしながら、保有するFDと、心不全患者の実際の死因の関係は明らかではありませんでした。本研究は、これまで行われてこなかった高齢心不全患者の詳細な死因とフレイルとの関係について検討することを目的として実施されました。

 

■内容

本研究は、末永祐哉 准教授が主導したFRAGILE-HF試験の退院後2年間を追跡した多施設レジストリデータ*5を用いて行われました。本レジストリでは、2016年から2018年の間に、国内15施設において、急性非代償性心不全で入院となり独歩退院した、65歳以上の心不全患者を前向きに登録し、対象となった高齢心不全患者1,181人の平均年齢は81歳、男性が57%、身体的・社会的・認知的の3つのFDの合併率はそれぞれ37%・66%・56%でした。今回の解析では2年後データを統計的に解析し、合併するFD数 が増えるに従い死亡率が上昇する関係性は退院後2年までの間も維持されている事を再確認しました。
死亡した患者の死因を心不全死、心不全以外の心血管死、非心血管死のいずれかに分類すると、FD数の増加に伴う死亡率の上昇は主に非心血管死の増加によるものであることが判明し、それぞれのFDはいずれも心不全死ではなく非心血管死と相関していることが分かりました。
以上の結果より、FDを多く有する高齢心不全患者の生命予後改善を目指すには、心不全に対する薬物治療や非薬物治療を強化するだけでは限界があり、それぞれのフレイル自体に対する包括的な介入や心疾患以外の全身疾患に対する介入が重要である可能性が示唆されました。

 

■今後の展開

今回の研究では、高齢心不全患者において、複数のフレイルを合併することは死亡率の増加と関連していましたが、その傾向は主に非心血管死の増加によるものでした。また、全てのFDはいずれも心不全死よりも非心血管死と強く相関していた事が明らかになりました。
この結果から高齢心不全患者のさらなる予後改善のためには複数のFDに対する介入が必要になると考えられます。それぞれのフレイルに対して具体的な介入策やその効果について、今後さらなる研究を行い明らかにしていきたいと考えています。
さらに、今後行われる心不全患者に対する新しい治療についても様々な臨床研究において、複数のFDについての情報を得ることにより、より適正に対象患者を選択することが可能になると考えられます。

 

20240329プレスリリース

図1:本研究の結果のまとめ

■用語解説 

*1 フレイル:加齢とともに心身の活力が低下し、複数の併存疾患などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態。一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態のこと。
*2 心不全に対する薬物治療:心不全の原因となる背景疾患に対する外科的治療、カテーテル的治療、デバイス治療などの非薬物治療のこと。
*3 心不全に対する非薬物治療:心不全の原因となる背景疾患に対する外科的治療、カテーテル的治療、デバイス治療などの非薬物治療のこと。
*4 FRAGILE-HF試験:高齢心不全患者における身体的・社会的フレイルに関する疫学・予後調査 ~多施設前向きコホート研究~
*5 多施設レジストリデータ:特定の疾患に関する様々なデータ(患者数、検査結果、予後など)を調査するため、複数の病院において、特定の疾患に罹患した患者を網羅的に登録したデータのこと。

研究者のコメント

これまで、高齢心不全患者の保有するフレイルの多面性に着目し、生命予後やその死因に対する影響を検討した研究は少ない。今回の研究により、フレイルを多く有する患者に対しては心不全に対する標準的な治療以外にもフレイル自体に対する介入や併存疾患に対する適切な介入が予後を改善させる可能性があることが分かった。今後具体的な介入のタイミングやその内容についてさらに検討していきたい。

■原著論文

本研究はCirculation: Cardiovascular Quality and Outcomes誌のオンライン版に2024年3月26日付で公開されました。
タイトル: The Impact of multi-domain frailty on the mode of death in older patients with heart failure: a cohort study
タイトル(日本語訳):フレイルの多面性が高齢心不全患者の死因に及ぼす影響
著者: Koichi Ohashi 1), Yuya Matsue 2), Daichi Maeda 2), Yudai Fujimoto 2), Nobuyuki Kagiyama 2), Tsutomu Sunayama 2), Taishi Dotare 2), Kentaro Jujo 3), Kazuya Saito 4), Kentaro Kamiya 5), Hiroshi Saito 6), Yuki Ogasahara 4), Emi Maekawa 5), Masaaki Konishi 7), Takeshi Kitai 8), Kentaro Iwata 9), Hiroshi Wada 10), Masaru Hiki 2), Takatoshi Kasai 2), Hirofumi Nagamatsu 11), Tetsuya Ozawa 12), Katsuya Izawa 13), Shuhei Yamamoto 14), Naoki Aizawa 15), Kazuki Wakaume 16), Kazuhiro Oka 17), Shin-Ichi Momomura 17), Tohru Minamino 1)18)

著者(日本語表記): 大橋 浩一1)、末永 祐哉2)、前田 大智2)、鍵山 暢之2)、砂山 勉2)、堂垂 大志2)、重城 健太郎3)、齋藤 和也4)、神谷 健太郎5)、斎藤 洋6)、小笠原 由紀4)、前川 恵美5)、小西 正紹7)、北井 豪8)、岩田 健太郎9)、和田 浩10)、比企 優2)、葛西 隆敏2)、長松 裕史11)、小澤 哲也12)、井澤 克也13)、山本 周平14)、相澤 直樹15)、若梅 一樹16)、岡 和博17)、百村 伸一17)、南野 徹 1)18)

著者所属:1)東京都立墨東病院2)順天堂大学、3)東京女子医科大学、4)心臓病センター榊原病院、5)北里大学、6)亀田総合病院、7)横浜市立大学、8)国立循環器病研究センター、9)神戸市立医療センター中央市民病院、10)自治医科大学附属さいたま医療センター、11)東海大学、12)小田原市立病院、13)春日部中央総合病院、14)信州大学、15)琉球大学、16)北里大学メディカルセンター、17)さいたま市民医療センター、18)AMED-CREST

DOI:10.1161/CIRCOUTCOMES.123.010416.

   

FRAGILE-HF研究は2017年度ノバルティスファーマ研究助成、および第42回日本心臓財団研究奨励の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。