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人工知能による深層学習を用いて低線量CT検査の画質改善を実現 ― CT検査に必要な撮影線量の大幅低減の可能性 ―

順天堂大学大学院保健医療学研究科診療放射線学専攻の臼井桂介 講師、京極伸介 教授、代田浩之 特任教授、法政大学理工学部の尾川浩一 教授らの研究グループは、コンピュータ断層撮影(Computed tomography: CT)のもととなる投影データ数を削減し撮影線量を低減したスパース投影CT*1に対し、人工知能(Artificial Intelligence: AI)*2を用いた画質改善の効果を実証しました。CT検査*3は医療被ばくの大部分を占めており、撮影線量の低減が課題です。CT装置の検出器に映し出される投影データ数を削減することで撮影線量を大きく低減できますが、顕著な障害陰影(アーチファクト*4)が発生し画像診断の精度低下を招きます。本研究では、スパース投影CTに発生するアーチファクトをAI技術により低減できることを原理的に実証しました。
本論文はScientific reports誌のオンライン版に2024年2月16日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 撮影線量を低減したスパース投影CTに対し、AIによる画質改善の可能性を示した。
  • AIの学習には独自のシミュレーションで作成したCT画像を利用した。
  • AIによる3つの学習モデル*5の画質改善の効果を比較し、実用するための注意点を示した。

■背景

CT検査は多くの疾患の画像診断に広く利用されており、現代医療において必要不可欠です。 しかし、過剰な撮影線量は放射線被ばくに伴う健康被害を引き起こす懸念につながるため、撮影線量を最小限に抑える技術がCT検査にとって重要です。この課題に対し、CT検査装置の検出器に映し出される投影データの数を削減したスパース投影CTは患者さんが受ける撮影線量を大幅に低減できますが、CT画像内に顕著なアーチファクトが発生し、誤った画像診断を招く可能性があります。研究グループはAI技術を用いてスパース投影CTの画質を改善させることを目的に、独自のシミュレーションにより作成したスパース投影CT画像を利用して、AIによる3つの学習モデルの画質改善の効果を実証しました。

■内容

本研究では、CT画像のもととなる投影データの数を減らしたスパース投影CTを独自のシミュレーションで作成し、AIの学習モデルのためのトレーニングに使用しました。対象は胸部CT画像40症例(計4250枚)であり、投影データを1, 2, 5, 10°毎に間引いたスパース投影CTを利用しました。学習モデルはオートエンコーダー(Auto Encoder: AE)*6、U-net*7および条件付き敵対生成ネットワーク(Conditional generative advisal networks: CGAN)*8であり、CT画像に発生するアーチファクトの抑制を試み、その画質改善の効果を評価しました。その結果、すべでの学習モデルにおいて画像内のアーチファクトは補正されたものの、AEおよびU-netでは画像内にボケが生じました。一方でCGANは最もCT画像の画質改善の効果が高く良好な画質が確保できました。しかしながら、CGANはスパース投影CTのアーチファクトは低減できましたが、画像内の血管や骨などの一部の構造物に変形が生じました。これは画像診断の精度低下を招く可能性があり今後の課題です。
本研究において、CT検査の投影データ数を削減したスパース投影CTに対してAIを用いることで画質改善の効果が得られることを実証できました(図1)。またCGANを用いた技術は画質の補正効果が高い結果になりましたが、微細な構造物の変形が生じることがあったため本手法の適用対象を見定める必要があります。

  

20240402プレスリリース(臼井先生) 

図1:スパース投影CTとAIによるアーチファクトの低減効果
CT検査の投影データ数を削減し撮影線量の低減を実現するスパース投影CTを作成した。AI技術を用いてスパース投影CTに生じる障害陰影(アーチファクト)の補正を試み、その効果を実証した。本研究では、3つの学習モデル(AE、U-net、CGAN)による画質改善の効果を比較し、CGANの有用性を明らかにした。

■今後の展開

本研究では、CT検査の撮影線量を低減したスパース投影CTに対して、AI技術を利用することでCT画像内に発生するアーチファクトを補正できることを原理的に実証しました。スパース投影CTは現在の臨床現場で実用されているCT検査装置では原理的に取得できないため、今後はスパース投影が取得できるコーンビームCT*9に対して画質改善の効果を実証し、実用化に向けた研究を推進する予定です。特に、放射線治療装置に搭載されているコーンビームCTは現在でもスパース投影が取得できるため、本研究成果を臨床で実現できる可能性が高いと考えています。

■用語解説 

*1 スパース投影CT: CT画像のもととなる投影データの数を削減したデータ取得方法。投影データが少なくなることで画像内には障害陰影(アーチファクト)が発生し、正確な画像診断の精度低下を招く。
*2 人工知能: コンピュータにより人が実現するさまざまな作業や処理を人工的に再現するもの。
*3 CT検査: X線を用いて体内を3次元的に画像化する画像診断画像。
*4 アーチファクト: 画像に生じる画質の乱れ・障害陰影であり、臓器構造を正しく映像化できなくなる。
*5 学習モデル: トレーニングにより未知のデータに対して予測や生成を行うための仕組み。
*6 オートエンコーダー: 入力データから潜在的な特徴量を抽出し、元の入力データを再現する人工知能。
*7 U-net: 入力データから抽出した特徴量を保持しながら圧縮し、元の解像度を復元していく人工知能。
*8 敵対生成ネットワーク : 生成器と識別器の2つの人工知能を競合的に学習させ、高品質な入力データを復元する人工知能。
*9 コーンビームCT: 円錐状にX線を投影し面上の検出器で映像化するCT画像であり、一度に広範囲を撮影することができる。放射線治療装置や血管撮影装置に搭載されている。 

研究者のコメント

CT検査の撮影線量を低減させ患者さんが受ける被ばく線量を少なくすることは非常に重要な課題と考えています。CT画像の投影データの数を削減したスパース投影は、撮影線量の低減に非常に有効ですが、画質の劣化が問題でした。人工知能を用いることで、どこまでの画質改善が実現できるかが不明であったため、本研究で明らかにできたことが良かったと考えています。今後は、放射線治療装置に搭載されたコーンビームCTのような、スパース投影が取得可能な装置での画質改善の効果と臨床での有効性を実証したいと考えています。

■原著論文

本研究はScientific reports誌のオンライン版に2024年2月16日付で公開されました。
タイトル: Reducing image artifacts in sparse projection CT using conditional generative adversarial networks

タイトル(日本語訳): 敵対的生成ネットーワークを用いたスパース投影CT画像のアーチファクト低減

著者: Keisuke Usui, Sae Kamiyama, Akihiro Arita, Koichi Ogawa, Hajime Sakamoto, Yasuaki Sakano, Shinsuke Kyogoku, Hiroyuki Daida

著者(日本語表記): 臼井桂介1)、神山彩絵1)、有田晃大1)、尾川浩一2)、坂本肇1)、坂野康昌1)、京極伸介1)、代田浩之1)

著者所属:1)順天堂大学大学院保健医療学研究科診療放射線学専攻、2)法政大学理工学部

DOI: 10.1038/s41598-024-54649-x

   

本研究はJSPS科研費22K07778の支援を受け実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。