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2024.04.25 (THU)

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日本人亜鉛欠乏症患者の理学的および臨床的特徴に関する研究 ― レセプト情報を用いた大規模調査より ー

順天堂大学医学部総合診療科学講座の内藤俊夫主任教授、横川博英先任准教授らの共同研究グループは、大規模なレセプト情報を基に、血清亜鉛濃度のデータが確認できた13,100名の患者を対象に亜鉛欠乏症*1患者の頻度と理学的および臨床的特徴を評価しました。その結果、亜鉛欠乏症患者の頻度は男性で36.6%、女性で33.1%と高頻度であることが明らかになりました。また、亜鉛欠乏症の頻度は年齢とともに上昇し、性別・年齢で調整した多変量解析の結果では、肺炎、褥瘡、サルコペニア、COVID-19、慢性腎臓病などの併存疾患が亜鉛欠乏症の関連要因でした。さらに、利尿剤、抗生剤、抗貧血薬および甲状腺ホルモン治療などの現病歴が、亜鉛欠乏症の関連要因でした。本成果は、これまで明らかではなかった亜鉛欠乏の実態を明らかにし、その理学的・臨床的特徴を示したものです。
本論文はScientific Reportsのオンライン版に2024年2月2日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • レセプト情報を基にした大規模データベースを利用して日本人亜鉛欠乏症患者の理学的および臨床的特徴を評価した
  • 亜鉛欠乏症の頻度は高く、併存疾患との関連が明らかになった
  • 亜鉛欠乏にも配慮した併存疾患の治療の重要性を示唆した

■背景

亜鉛は人体にとって重要な微量元素であり、骨、筋肉、肝臓、腎臓など全身に分布し生体内の300以上の酵素反応に関与しています。そのため、亜鉛不足による症状は実に多彩であり、亜鉛欠乏症の症状として皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、易感染性、味覚障害、貧血、不妊症などが報告されています(日本臨床栄養学会)。しかし、亜鉛欠乏症の頻度や、理学的および臨床的特徴に関する検討は限られています。本研究グループはこれまで、人間ドック受診者の亜鉛欠乏の実態などを報告してきましたが、今回、日本人亜鉛欠乏症患者の理学的および臨床的特徴を明らかにすることを目的に、レセプト情報を基にした大規模データベースを利用して日本人亜鉛欠乏症患者の頻度、理学的および臨床的特徴を評価しました。

■内容

本研究では、2019年1月から2021年12月までにメディカル・データ・ビジョン株式会社が急性期医療機関から収集したデータに登録された、全国の匿名化されたレセプト情報を用いて大規模データベースを構築しました。その中で、血清亜鉛濃度が確認できた15,328名中、適格基準を満たした13,100名を解析対象としました。亜鉛欠乏症患者(<60 μg/dL)の頻度は男性で36.6%、女性で33.1%と高頻度でした。

   

20240425プレスリリース‗2図:性別及び年齢別血清亜鉛濃度のまとめ

  
また、図は、亜鉛欠乏症および潜在的亜鉛欠乏症*2の頻度を年齢別・性別ごとに示しています。亜鉛欠乏症患者の頻度は年齢とともに上昇しました。性別・年齢で調整した多変量解析の結果では、肺炎、褥瘡、サルコペニア、COVID-19、慢性腎臓病などの併存疾患が亜鉛欠乏症の関連要因でした。さらに、利尿剤、抗生剤、抗貧血薬および甲状腺ホルモン治療などの現病歴が、亜鉛欠乏症の関連要因でした。
以上の結果から、併存疾患のため治療中の患者において、亜鉛欠乏症の頻度は比較的高く、消耗性疾患の併存は亜鉛欠乏の関連要因であることが示唆されました。 

■今後の展開

今回、本研究グループはこれまで明らかではなかった亜鉛欠乏症の頻度、理学的および臨床的特徴を解析しました。多くの併存疾患が低亜鉛血症の関連要因であることから、これらの併存症の治療の際にも血清亜鉛濃度の評価などが栄養状態の評価とともに重要であることが示唆されました。今後、本研究の成果を参考にすることで、併存疾患のより適切な治療に貢献できると考えています。

■用語解説 

*1 亜鉛欠乏症: 血清亜鉛濃度が60μg/dL未満を指します。
*2 潜在的亜鉛欠乏症: 60μg/dL以上から80μg/dL未満を指します。

研究者のコメント

今回の研究成果が広く周知され、亜鉛欠乏症に関連する症状がみられる場合は生体内の亜鉛不足を疑い、血清亜鉛濃度の測定結果をもとに併存疾患のより適切な治療に貢献できれば幸いです。

■原著論文

本研究はScientific Reportsのオンライン版に202422日付で先行公開されました。

タイトル: Demographic and clinical characteristics of patients with zinc deficiency: analysis of a nationwide Japanese medical claims database

タイトル(日本語訳): 日本人亜鉛欠乏症患者の理学的および臨床的特徴に関する研究~レセプト情報を用いた大規模調査より~

著者: Yokokawa H, Morita Y, Hamada I, Ohta Y, Fukui N, Makino N, Ohata E, Naito T.

著者(日本語表記): 横川 博英1)、森田 祐介2)、浜田 泉2)、太田 裕二2)、福井 信之3,4)、牧野 奈緒3,4)、大畑 絵美3,4)、内藤 俊夫1)

著者所属:1)順天堂大学医学部総合診療科学講座、2)ノーベルファーマ株式会社 データサイエンス部、3) 株式会社4DIN アカデミックサービス部、4)順天堂大学医学部大学院研究科データサイエンス推進講座

DOI10.1038/s41598-024-53202-0  

  

本研究はノーベルファーマの支援を受け実施されました。
謝辞:本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。