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2018.09.20 ()
プレスリリース大学・大学院

加齢黄斑変性症の病的血管新生のメカニズムを解明

~加齢黄斑変性症の新規治療法への道筋~

順天堂大学大学院医学研究科 生化学・細胞機能制御学の横溝岳彦教授らの研究グループは、九州大学医学部眼科、ハーバード大学医学部との共同研究により、加齢黄斑変性症モデルにおける生理活性脂質ロイコトリエンB4(*1)とその受容体BLT1(*2)を介した病的血管新生のメカニズムの解明に成功しました。網膜障害後に産生されるロイコトリエンB4が受容体BLT1を介してM2マクロファージ(*3)を網膜に浸潤させ、このマクロファージが産生する血管内皮増殖因子によって病的血管新生が生じる事が分かりました。さらに、現在開発中のBLT1拮抗薬やロイコトリエンB4産生酵素阻害薬が病的血管新生を抑制することを発見しました。これらの結果は、加齢黄斑変性症の新規治療法の開発につながる成果です。本研究は、米科学雑誌JCI Insight電子版(2018年9月20日付)に発表されました。
研究グループの横溝教授からのコメント
この研究は、私自身が遺伝子同定した受容体BLT1を標的とし、筆頭著者の佐々木君が独自に樹立した単クローン抗体を用いて行った点で、極めてオリジナリティの高い研究になったと感じています。私達のデータが、JCI insightのカバー写真(表紙写真)に選ばれたのも、この研究が高く評価されたためだと思います。本年1月には、このBLT1受容体の結晶構造の解明にも成功(2018年1月9日順天堂プレスリリース、Nat Chem Biol 14, 262-9 (2018))しており、BLT1拮抗薬の開発が加速しています。本研究の成果をヒトに応用できれば、多くの加齢黄斑変性症の患者さんの視力を保つことが可能になります。その日を夢見て、BLT1拮抗薬の開発を進めていきたいと思います。

筆頭著者の佐々木文之さん(右、現在、東京医科歯科大学 特任研究員)と、横溝岳彦教授(左)

筆頭著者の佐々木文之さん(右、現在、東京医科歯科大学 特任研究員)と、横溝岳彦教授(左)
本研究成果のポイント
  • 病的血管新生をもたらすM2マクロファージの網膜への浸潤はロイコトリエンB4に依存する
  • BLT1拮抗薬やロイコトリエンB4産生酵素阻害薬は病的血管新生を抑制する
  • 加齢黄斑変性症の新規治療法につながる研究成果

背景

加齢黄斑変性症は、加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、視野の中心が見えにくくなる疾患です。欧米では成人の失明原因の第1位で、大きな社会問題を引き起こしています。日本では比較的少ない疾患だと考えられていましたが、人口の高齢化と生活の欧米化により近年著しく患者が増加しており、失明原因の第4位となっています。50歳以上の人の約1%にみられ、高齢になるほど多くみられます。萎縮型と滲出型の2つに分類され、滲出型では病的な血管(脈絡膜新生血管)が脈絡膜から網膜色素上皮の下層あるいは網膜と網膜色素上皮の層の間に侵入して網膜が障害されます。治療法としては、血管新生を促進するタンパク質である血管内皮増殖因子(VEGF)に対する中和抗体の眼内注射が行われていますが、滲出型の加齢黄斑変性症においてどのような因子がVEGF産生の引き金となるのか、詳しいメカニズムは分かっていませんでした。
研究グループは、これまで生理活性脂質とその受容体の研究を行ってきました。1997年に、好中球の走化性因子として知られていたロイコトリエンB4に対するGタンパク質共役型受容体の遺伝子同定に成功し、BLT1と命名しました。2017年に受容体BLT1を認識するモノクローナル抗体の樹立に成功したことで、どの細胞にBLT1が発現しているかを確認することができるようになりました。この抗体を用いて様々な白血球におけるBLT1の発現を確認したところ、M2マクロファージ(M2タイプと呼ばれるマクロファージ) にBLT1が発現していることが分かりました。研究グループは、2015年に米国ハーバード大学の研究グループとの共同研究で、マウス加齢黄斑変性症モデルにおいて、 M2マクロファージが病的な血管新生を引き起こすことを明らかにしていたため、今回の研究ではBLT1と加齢黄斑変性症との関連を明らかにしようと試みました。

内容

野生型マウスとBLT1欠損マウスを用いて加齢黄斑変性症モデルを作製したところ、野生型マウスで観察された加齢依存的な脈絡膜新生血管の増加が、BLT1欠損マウスでは抑制されていることを見いだしました(図1AおよびB参照)。

図1

図1: BLT1欠損マウスでは病的血管新生が減弱する
マウス網膜にレーザーで障害を加え、一週間後に網膜下層の血管を染色し、定量した。(A)老年齢において、BLT1欠損マウス(BLT1-KO)は、野生型マウス(BLT1-WT)に比べて脈絡膜血管新生(緑)が減弱している。(B)野生型マウスでは、加齢に伴い病的血管新生が促進するが、BLT1欠損マウスでは加齢に伴う血管新生の亢進が観察されない。
障害後のBLT1欠損マウスの眼内では、VEGFをはじめ血管新生の促進に関わる遺伝子群の発現が減弱していること、網膜に浸潤する白血球のうちマクロファージの浸潤が大きく減少していることも分かりました。また、障害を受けた網膜でロイコトリエンB4が産生されていること、障害後に浸潤したマクロファージの多くがM2タイプの細胞表面マーカーであるCD206およびBLT1を高発現していること、試験管内で分化したM2マクロファージがロイコトリエンB4に対して強い走化性を示すこと、も分かりました。さらにロイコトリエンB4の刺激によって、 M2マクロファージからのVEGF産生が増加すること、野生型マウスにロイコトリエンB4産生酵素阻害薬やBLT1拮抗薬(図2A参照)を投与すると、脈絡膜新生血管が大きく減弱することも分かりました(図2B参照)。

図2

図2: BLT1拮抗薬、ロイコトリエンB4産生酵素阻害薬は病的血管新生を抑制する
(A)ロイコトリエンB4(LTB4)の産生経路と、阻害剤、拮抗薬 (B)BLT1拮抗薬(CP105696)や、ロイコトリエンB4産生酵素阻害薬(Zileuton、MK-886、Bestatin)は、マウス加齢黄斑変性症モデルの脈絡膜新生血管を抑制した。
以上の結果から、1) 加齢黄斑変性症ではロイコトリエンB4がM2マクロファージを障害網膜に浸潤させ、VEGFの発現を介して病的血管新生を促進することが明らかになり、2)現在開発中のBLT1拮抗薬やロイコトリエンB4産生阻害薬が加齢黄斑変性症の新規治療薬となる可能性が示されました。

今後の展開

現時点で加齢黄斑変性症に対する治療としては、VEGFに対する中和抗体の眼内注射のみが行われています。本研究グループが開発中の合成BLT1拮抗薬が、加齢黄斑変性症の新規治療薬として臨床応用されることが期待されます。

用語解説

*1 生理活性脂質ロイコトリエンB4
アラキドン酸から酵素学的に産生される生理活性脂肪酸。古くから、好中球、好酸球、分化T細胞を炎症部位に遊走させる走化性因子として知られている。LTB4と略されることも多い。

*2 BLT1
ロイコトリエンB4に対する高親和性の細胞膜受容体。好中球、好酸球、分化T細胞に発現し、ロイコトリエンB4が結合したことを細胞内にシグナルを伝え、細胞走化性をもたらす。BLT1拮抗薬は、関節リウマチ、気管支喘息などの炎症性疾患の治療薬となることが想定されている。

*3 M2マクロファージ (M2タイプと呼ばれるマクロファージ)
近年、マクロファージは均一な細胞集団ではなく、異なる特徴を有する細胞の集団であることが分かってきた。特に、M1マクロファージは炎症惹起性、M2マクロファージは炎症収束性の細胞と考えられている。近年の研究で、M2マクロファージには血管新生を促進する作用があることが分かってきた。

論文

本研究は、米国の科学雑誌「JCI Insight」電子版で(2018年9月20日付)公開されました。
英文タイトル: Leukotriene B4 promotes neovascularization and macrophage recruitment in murine
wet-type AMD models

日本語訳:ロイコトリエンB4は、マウス滲出型加齢黄斑変性症モデルにおいて血管新生およびマクロファージ浸潤を促進する。
著者(日本語表記):佐々木文之(1), 古賀友紹(1), 大塲麻生(1), 佐伯和子(1), 奥野利明(1), 石川桂二郎(2),中間崇仁(2), 中尾新太郎(2), 吉田茂生(2), 石橋達朗(2), Hamid Ahmadieh(3), Mozhgan Rezaei Kanavi(3), Ali Hafezi-Moghadam(3), Josef M. Penninger(4), 園田康平(2), 横溝岳彦(1)
所属(日本語表記):(1) 順天堂大学、(2) 九州大学、(3) ハーバード大学、 (4) オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所
JCI Insight (2018)  DOI: 10.1172/jci.insight.96902
なお本研究は、文部科学省JSPS科研費(新学術領域研究22116001, 22116002, 15H05897, 15H05904, 15H04708 、基盤研究B JP15H04708, JP18H02627 )、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、および武田科学振興財団の支援を受け実施されました。