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2018.11.21 ()
プレスリリース大学・大学院

アボカド由来の成分が抗がん剤の効果を高めることを発見

~抗がん剤投与量が制限されがちな高齢患者に副作用の少ない新規白血病治療法の可能性~

順天堂大学大学院医学研究科臨床病態検査医学の田部陽子 特任教授らの研究グループは、米国MDアンダーソンがんセンターのマリナ・コノプレバ教授、カナダ ゲルフ大学のポール・スパヌオロ博士らとの共同研究において、アボカドから抽出した成分の脂肪酸avocatin B*1が白血病がん細胞の脂肪酸代謝*2を阻害してがん細胞の増殖を抑制すること、さらに、白血病化学療法薬(抗がん剤)との併用により抗がん効果を高めることを発見しました。本研究結果は、抗がん剤の適用が難しかった高齢者の白血病治療にavocatin Bを活用できる可能性があることを示しました。
本研究は、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版(2018年11月15日付)で公開されました。
大学院医学研究科 臨床病態検査医学の田部陽子 特任教授からのコメント

がんは、日本人の死因の1/3を占める疾患です。特に中・高齢者の罹患率が高く、高齢者人口比率が世界一というわが国の医療は、高齢者のがんとの闘いに直面しています。 我々は、副作用が少ない高齢者に適したがん治療戦略として、がん細胞特有のエネルギー代謝を阻害することが有用であると考えています。今回の論文は、骨髄の中で生存する白血病細胞の「脂肪酸代謝」を標的とした、新しいがん治療薬の効果とその作用機序を明らかにしました。今後も微小環境の中に存在するがん細胞の生存力の軸となる代謝制御機構を解明し、高齢者のがんに有効な治療薬の開発に繋げたいと考えます。
本研究成果のポイント
  • アボカド由来の成分avocatin B が白血病がん細胞の脂肪酸代謝を阻害する
  • avocatin Bは白血病がん細胞の増殖を抑制し、抗がん剤の効果を高める
  • avocatin Bと抗がん剤との併用による白血病の新たな化学療法の可能性

背景

白血病を含むがんは高齢者に多発する疾患です。しかし、高齢患者は別の病気に罹っていたり、臓器の機能が低下しているために治療の選択肢や抗がん剤投与量が制限され、十分な治療効果を得ることができない場合が多くあります。そのため、高齢患者に適用できる副作用の少ない新しいがん治療戦略が求められています。白血病がん細胞は骨髄微小環境*3の中で増殖したり、抗がん剤に対する抵抗性を獲得したりします。研究グループは、これまでに白血病がん細胞が、加齢に伴って増加する骨髄脂肪細胞との相互作用によって脂肪酸代謝を亢進させ、骨髄内で独自のエネルギー代謝を行うことで抗がん剤への耐性を獲得することを見出してきました。
一方、最近見つかったアボカド由来の成分の奇数炭素脂肪酸であるavocatin Bは、偶数炭素脂肪酸と比較して酸化効率が低いため、競合作用によって細胞の脂肪酸代謝を阻害する物質で、生体に副作用が極めて少ないことが特徴です。
研究グループは、高齢者の骨髄中には、がん細胞のエネルギー源となり得る脂肪酸が豊富に存在することから、脂肪酸代謝を阻害するavocatin Bは、がん細胞のエネルギー代謝の阻害剤になるかもしれないと考えました。そこで、本研究では、avocatin Bが新しい白血病治療薬となり得る可能性を確かめるために、白血病がん細胞の代謝への影響と抗がん効果(抗腫瘍効果)について調べました。

内容

研究グループは、avocatin Bの抗がん効果の分子機序を明らかにすることを目的に、骨髄内の微小環境と白血病がん細胞の相互作用がavocatin Bの作用に及ぼす影響を調べました。まず、細胞計数法と細胞周期解析を用いて、avocatin Bが単独培養状態の急性骨髄性白血病がん細胞の細胞死誘導や細胞増殖を阻害することを確認しました。次に、骨髄微小環境下を再現するため、骨髄脂肪細胞と白血病がん細胞を共培養した状態でのavocatin Bの効果を比較検討しました。その結果、骨髄脂肪細胞との共培養によって、白血病がん細胞に対するavocatin Bの細胞死誘導および細胞増殖阻害効果はいずれも減弱しました。このとき、骨髄脂肪細胞との共培養下では、avocatin B投与後に白血病がん細胞の脂肪酸代謝が阻害される一方で、遊離脂肪酸や糖の取り込みが増強し、解糖系代謝*4が高まることが質量解析法により明らかになりました(図1)。
図 1 白血病がん細胞の糖代謝およびクエン酸代謝に対するavocatin Bの作用

図1

単独培養および骨髄脂肪細胞共培養条件下の急性骨髄性白血病がん細胞株(THP-1)に対してavocatin Bを投与した場合、脂肪細胞と共培養した白血病がん細胞において脂肪酸代謝が阻害される代わりに糖代謝が高まり、クエン酸回路の代謝産物とアミノ酸の増加が認められた。
(棒グラフ:avocatin B投与24時間後に質量解析法 [CE-TOF/MS]により各代謝産物量を測定した)
CPT-1: カルニチンパルミトイルトランスフ ェラーゼ 1(ミトコンドリア外膜にある代謝酵素)
これらの変化は、ミトコンドリアへのエネルギー源となる脂肪酸の供給不足に対する代償と考えられ、細胞のエネルギー調節因子であるAMPK-mTOR*5シグナルが関与していました。そこでavocatin Bと抗がん薬シタラビン(AraC)を併用すると、白血病がん細胞内の活性酸素が増加し、小胞体ストレス誘導性の転写因子(ATF4)の発現が上昇して相乗的な抗腫瘍効果が得られることを発見しました(図2)。
図 2 本研究で明らかになった骨髄微小環境下でのavocatin B投与後の白血病がん細胞の生き残りのメカニズムと抗ガン剤との併用効果

図2(a)

(a) 単独培養条件下の急性白血病がん細胞では、avocatin Bの脂肪酸代謝阻害によってストレスに応答するAMPK活性が上昇し、エネルギー調節に関わるmTORシグナルの抑制が生じることによって細胞増殖が抑制されると同時に、活性酸素が増加し細胞死が誘導される。

図17

(b) 骨髄微小環境下を再現する骨髄脂肪細胞との共培養条件下では、 avocatin Bは脂肪酸代謝を抑制する一方で、代償性として細胞における脂肪酸取り込みの増加、解糖系代謝の活性化、エネルギー調節に関わるmTORシグナルが高まり、これらはがん細胞の生存を助ける。しかし、avocatin Bを抗がん薬シタラビン(AraC)と併用することによって活性酸素が増加し、小胞体ストレス誘導性のATF4の発現が高まることで相乗的な細胞死誘導効果が得られる。
以上の結果から、脂肪酸代謝阻害剤のavocatin Bと従来の抗がん剤を併用することによって、骨髄微小環境で生き残り再発の原因となる白血病がん細胞を駆逐できる可能性を示しました。

今後の展開

本研究は、骨髄微小環境において、白血病がん細胞が脂肪酸代謝阻害に対して様々な適応機構を作動させ、バイパスとなる代謝経路を活性化させることによってがん細胞が生き残ることを明らかにしました。これは、抗がん剤を単独で用いた場合に生じるがんの薬剤耐性機構の一端を示すものです。さらに、本研究では、脂肪酸代謝阻害剤のavocatin Bを抗がん剤と組み合わせた際に、相乗的な抗がん効果を発揮することを発見しました。アボカド由来の奇数炭素脂肪酸であるavocatin Bは、競合的に脂肪酸代謝を抑制し、副作用が極めて少ないことが特徴です。このような脂肪酸の代謝制御は、従来の化学療法薬の併用療法として白血病領域にとどまらず、高齢者のがん代謝制御治療に活用できる可能性があります。また、脂肪酸代謝は、がん微小環境で生き残るがん細胞が依存する場合があることが知られており、全ての年齢層で求められるがんの再発予防治療薬としても効果が期待できます。今後はモデル動物などを用いて、脂肪酸の代謝制御による生体内での抗がん効果を確認していく予定です。

用語解説

*1 avocatin B:アボカド由来の奇数炭素脂肪酸(下は構造式:2015年に発見)で偶数炭素脂肪酸と競合することによって脂肪酸代謝を阻害する。avocatin B

*2 脂肪酸代謝:脂肪酸を酸化してアセチルCoAを産生する代謝経路。生成されたアセチルCoAはクエン酸回路に送られ、電子伝達系と酸化的リン酸化を経てエネルギーを産生する。

*3 骨髄微小環境:骨髄の中で造血に関わる細胞によって作り出される微小環境。

*4 解糖系代謝:糖(グルコース)を代謝して乳酸やピルビン酸を生成し、エネルギーを生み出す。

*5 AMPK-mTOR: 栄養やエネルギー状態など細胞の環境情報を統合し、細胞の生存調節に中心的な役割を果たすキナーゼ蛋白。

原著論文

本研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版(2018年11月15日)で発表されました。
論文タイトル: Inhibition of FAO in AML co-cultured with BM adipocytes: mechanisms of survival and chemosensitization to cytarabine.
日本語訳:  骨髄脂肪細胞共存下での急性骨髄性白血病細胞に対する脂肪酸代謝阻害効果:生存メカニズムとシタラビン併用効果について
著者: Yoko Tabe, Kaori Saitoh, Haeun Yang, Kazumasa Sekihara, Kotoko Yamatani, Vivian Ruvolo, Hikari Taka, Naoko Kaga, Mika Kikkawa, Hajime Arai, Takashi Miida, Michael Andreeff, Paul A Spagnuolo, Marina Konopleva
著者(日本語表記):田部陽子1, 2 、齋藤香里1 、梁夏恩1 、関原和正1 、山谷琴子1 、ビビアン・ルブロ2、高ひかり3、加賀直子3 、吉川美香3 、新井一3、三井田孝1、マイケル・アンドレーフ2 、ポール・スパヌオロ5、マリナ・コノプレバ2
所属(日本語表記): 順天堂大学大学院医学研究科臨床病態検査医学1、米国MDアンダーソンがんセンター2、順天堂大学大学院医学研究科研究基盤センター生体分子研究室3、カナダゲルフ大学4
DOI: 10.1038/s41598-018-35198-6

本研究は、米国MDアンダーソンがんセンター、テキサス大学、 カナダ ゲルフ大学との国際共同研究として行われました。なお本研究は、東京オンコロジーコンソーシアム(順天堂大学、聖路加国際大学、慶應義塾大学)とMDアンダーソンがんセンターの間で平成29年7月に取り交わされた姉妹協定に基づく共同研究のひとつとして進められたものです。また、本研究は文部科学省JSPS科研費(JP15K08653 )、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(SS1311011)の研究助成を受けて実施されました。