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2018.11.28 ()
プレスリリース大学・大学院

アトピー性角結膜炎が難治化するメカニズム

~眼表面での免疫グロブリン産生と細菌感染が病態に影響~

順天堂大学大学院医学研究科眼科学の松田彰准教授、海老原伸行教授らの研究グループ(眼アトピー研究室)は、難治性かつ慢性重症のアトピー性角結膜炎*1患者の結膜組織の微量サンプルを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、眼表面の免疫グロブリン遺伝子と黄色ブドウ球菌感染に対する生体防御に関連する遺伝子群の発現が上昇していることを発見しました。これはアレルゲンによる慢性刺激によって眼表面の生体防御機構が再構築されたことを示しています。本研究成果は眼表面での免疫グロブリン産生抑制と黄色ブドウ球菌感染制御をターゲットにした難治性アトピー性角結膜炎の新規治療法の開発に役立つと考えられます。本研究成果は科学雑誌The Journal of Allergy and Clinical Immunologyオンライン版(2018年11月22日付)で発表されました。
大学院医学研究科 眼科学 松田 彰 准教授からのコメント

重症のアトピー性角結膜炎の中には難治性の症例があり、新たな治療法と発症予防を目指して、我々は研究を進めています。今回の成果をもとに、新たな治療方法として(1)眼表面での過剰な免疫グロブリン産生を抑制する、(2)慢性のアレルゲン刺激や細菌感染など自然免疫系の過剰な反応を制御することを考えています。また、重症のアトピー性皮膚炎患者さんの中でも角結膜炎を発症する方としない方がおられます。そのため、現在アトピー性角結膜炎および春季カタルの発症における遺伝的素因を解析し、発症防止につなげるための取り組みも進行中です。慢性重症アレルギー性角結膜炎とそれに合併するアトピー白内障、アトピー網膜剥離、アトピー緑内障といった一連のアトピー眼合併症による視機能障害の防止を目指した臨床研究を今後も展開してゆきます。
本研究成果のポイント
  • 難治アトピー性角結膜炎組織において免疫グロブリン遺伝子の発現が上昇
  • 黄色ブドウ球菌に対する生体防御関連遺伝子群の発現も上昇
  • 免疫グロブリン産生抑制と感染制御による難治アトピー性角結膜炎の新規治療法の開発へ

背景

慢性重症アトピー性角結膜炎(AKC)は、花粉やハウスダストによるアレルギー性結膜炎とは異なり、アトピー素因を持つ患者において結膜のみならず角膜をも障害する疾患です。なかでも免疫抑制剤(タクロリムス点眼薬)の治療に反応しない難治性症例の治療は困難で、角膜の混濁および不正乱視あるいはアトピー白内障・網膜剥離・緑内障等の合併症によって深刻な視機能障害を引き起こします。そのため、アトピー性角結膜炎が難治化するメカニズムの解明と新規治療法の開発が求められていますが、アトピー性角結膜炎は、動物モデルが存在せず、また眼表面組織の採取が困難なため、難治化のメカニズムがほとんど解明されていません。そこで、本研究ではアトピー性角結膜炎が難治化するメカニズムを解明することを目的に、患者から採取した微量サンプルを用いて、炎症局所に高発現する遺伝子を高感度に検出し、病態との関連を解析しました。

内容

研究グループは、タクロリムス点眼薬治療(4週間以上)が効かない難治性アトピー性角結膜炎患者から治療目的で採取した上眼瞼結膜の一部を、次世代シークエンサーを用いて網羅的遺伝子発現パターン解析をしました(RNA-seq法*2)。その結果、難治性アトピー性角結膜炎組織において発現が上昇した872個の遺伝子のうち、免疫グロブリン遺伝子が47個、黄色ブドウ球菌に対する生体防御に関わる遺伝子が22個含まれており、難治性アトピー性角結膜炎の病態との関連が強く示唆されました(図1) 。
また、アトピー性角結膜炎の病態との関連について報告のある、アレルギー性炎症関連サイトカイン( IL-4、IL-13、IL-33など)や好酸球、リンパ球、マスト細胞の活性化に関連する遺伝子、組織の瘢痕化に関連する遺伝子(ペリオスチン、テネイシンCなど)の発現上昇も確認されました。この中には発現量が少ないため従来の方法では検出が困難な遺伝子も含まれており、 難治性アトピー性角結膜炎組織における遺伝子発現を網羅的かつ正確に解析するために RNA-seq法が有効であることを示しました。

図5

図1: 難治性アトピー性角結膜炎の結膜組織を用いたRNA-seq法による網羅的遺伝子発現解析
難治性アトピー性角結膜炎(AKC)患者の上眼瞼に生じた増殖組織(巨大乳頭)[図中の黄丸]から抽出したRNA断片をゲノム配列上にマッピングすることで遺伝子発現量を算出し、対照結膜(非AKC)と比較し、難治性アトピー性角結膜炎において有意に発現が上昇した872個の遺伝子を割り出しました[図中の緑丸] 。
この難治性アトピー性角結膜炎の眼表面組織において免疫グロブリン遺伝子の発現上昇を認めた解析結果は、タクロリムス点眼薬の作用が免疫グロブリン産生を司るリンパ球の活性化抑制であることから、繰り返すアレルゲン刺激がもたらす異所性リンパ器官の異常形成によって、免疫グロブリン遺伝子の発現抑制が困難になっていることを示唆します。さらに、細菌に対する生体防御に関わる遺伝子群の発現の上昇もあることから、アトピー性角結膜炎が難治化するメカニズムにおいてアレルゲンによる慢性刺激によって眼表面の生体防御機構が過剰に再構築されたことを意味しています。

図6

図2: 本研究より明らかになった難治性アトピー性角結膜炎の病態に関連する遺伝子群
今回の研究で、難治性アトピー性角結膜炎では以前から知られていた2型アレルギー性炎症シグナル(黒字)に加えて、眼局所での免疫グロブリン産生上昇と黄色ぶどう球菌感染に対する生体防御に関する遺伝子群の発現上昇(青字)が病態に関連している可能性が初めて示唆された。

今後の展開

研究グループは以前から、「繰り返すアレルゲン刺激による異所性リンパ器官の異常形成が炎症組織局所での免疫グロブリン産生を引き起こしている」というアトピー性角結膜炎の難治化の病態モデルを提唱しており、本研究もその仮説モデルを支持する結果となりました。今後は、眼表面組織での免疫グロブリン産生抑制による異所性リンパ器官の形成阻止をターゲットに、難治性アトピー性角結膜炎モデルマウスの開発を進め、新規治療法の開発に繋げていきます。さらに、黄色ブドウ球菌感染とアトピー性角結膜炎の慢性化および難治化のメカニズムの関連を明らかにしていくため、黄色ブドウ球菌由来の毒素に着目した研究を展開すると共に、眼表面の細菌叢への介入といった治療法の可能性を実験的に検証していく予定です。

用語解説

*1 アトピー性角結膜炎(AKC:atopic keratoconjunctivitis)
顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こるアレルギー性結膜疾患。今回解析した症例のように結膜の巨大乳頭などの増殖性変化を伴うこともあり、慢性化した重症例では角膜混濁や角膜内の血管新生を伴うことが多い。

*2 RNA-seq(RNAシークエンス)法
次世代シークエンサーを用いて、RNAの配列断片を読み取り、既知のゲノム配列に機械的にマッピングした後、各々の遺伝子領域にマッピングされたRNA配列断片数をカウントして遺伝子発現の量とする解析手法。RNA-seqによる解析は組織内での発現量が少ない疾患関連遺伝子(例えば、サイトカイン受容体、接着分子など)の検出が可能であり、特に眼表面など微小なサンプルしか得られない臓器における病態解析に有効な手法であると考えられる。
 

原著論文

本研究は、米国の科学雑誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology 」電子版で(2018年11月22日付)公開されました。
英文タイトル:Transcriptome profiling of refractory atopic keratoconjunctivitis by RNA sequencing
日本語訳: RNAシークエンス法を用いた難治性アトピー性角結膜炎のトランスクリプトーム解析
著者: Akira Matsuda, Yosuke Asada, Naomasa Suita, Satoshi Iwamoto, Toshiaki Hirakata, Norihiko Yokoi, Yasuyuki Ohkawa, Yukinori Okada, Takehiko Yokomizo, Nobuyuki Ebihara
著者(日本語表記): 松田 彰(1), 浅田洋輔(1), 吹田直政(2), 岩本 怜(1), 平形寿彬(1),横井則彦(3),大川恭彦(4), 岡田随象(2), 横溝岳彦(1), 海老原伸行(1)
所属(日本語表記): (1) 順天堂大学、(2)大阪大学、(3) 京都府立医科大学、(4)九州大学
Doi: 10.1016/j.jaci.2018.11.007
本研究は、文部科学省JSPS科研費(JP15H05904, JP15H04708, JP16K11303, JP16K20333, JP16K20334, JP18H02627, JP18K16966)、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、順天堂大学環境医学研究所およびノバルティス科学振興財団の支援を受け実施されました。