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2019.01.08 ()
プレスリリース大学・大学院

2型糖尿病が引き起こす筋力低下のメカニズムを解明

~ 運動療法が低下した筋肉の質を改善させる ~

順天堂大学大学院医学研究科・スポートロジーセンターの江島弘晃研究員(現ユタ大学)、田村好史准教授、河盛隆造センター長、代謝内分泌内科学の綿田裕孝教授らの研究グループは、寝たきりの原因として注目されている2型糖尿病*1患者に生じる骨格筋*2の筋力低下は、細胞内カルシウムイオン*3の調節障害が関与していることを見出しました。さらに、運動療法により筋力低下だけでなく細胞内カルシウムイオンの調節障害も改善することを明らかにしました。本研究成果は、2型糖尿病患者の筋力低下の予防法および治療薬の開発につながることが期待されます。本研究はアメリカ生理学会雑誌「Journal of Applied Physiology」オンライン版に2018年11月15日付で公開されました。
糖尿病があると、筋肉が思ったように力を出せないことが分かっていて、その後の寝たきりリスクを高める可能性があります。そこで、我々の研究グループは、動物モデルを用いて、その原因解明を行いました。その結果、糖尿病のモデル動物では、筋肉が力を発揮する時に重要な筋細胞内のカルシウムイオンが上手く調節できなくなっており、運動療法により筋力低下だけでなくカルシウムイオンの調節障害も改善することが明らかになしました。本研究成果は、糖尿病患者の筋力低下の予防法および治療薬の開発につながることが期待され、我が国の予防医学を推進する上で有益な情報になりました。

糖尿病・内分泌内科 スポートロジーセンター
江島 弘晃 田村 好史 河盛 隆造 綿田 裕孝
本研究成果のポイント
  • 2型糖尿病モデル動物の筋力低下は細胞内カルシウムイオンの調節障害が関与する
  • ランニングマシンによる運動トレーニングによってこれらの障害が改善される
  • 運動療法に加え、カルシウムイオンを標的とした予防法および治療薬の開発応用に期待

背景

ヒトは骨格筋の収縮により身体を動かすことが出来ます。そのため、骨格筋は日常生活を送る上で欠かすことが出来ない臓器です。しかし、高齢により筋力が低下すると、徐々に身体を動かせなくなり、寝たきりのリスクが高まります。さらに、 2型糖尿病患者ではその多くに筋力低下が生じやすく、これは超高齢社会において深刻な影響をもたらすと考えられます。これまで、糖尿病により筋力の低下が生じる原因は、筋量の減少だと考えられてきました。しかし、最近では、糖尿病患者では同じ筋量でも筋力が低いという、筋肉の質の低下が起きていることがわかってきました。この筋肉の質の低下が糖尿病患者でどのように生じているのか、その分子メカニズムを明らかにするため、研究グループは、筋肉の質の指標となる筋力と筋収縮に関わる細胞内カルシウムイオンの濃度変化に着目し、分子メカニズム解明の研究を実施しました。

内容

骨格筋は、細胞小器官である小胞体*4からカルシウムイオンが細胞質中に放出されることで筋の収縮が開始しますが、その発揮筋力はカルシウムイオンの濃度に比例します。まず、研究グループは、2型糖尿病モデルマウス(db/dbマウス)の生体から摘出した骨格筋を筋力測定装置のひずみ計に取り付け、電気刺激時の筋の収縮力をひずみ計の細動によるトルクに変換させることで骨格筋そのものの筋力(張力)値を算出しました。また、蛍光イメージング*5法を駆使し、収縮時の細胞内のカルシウムイオン濃度を測定しました。その結果、2型糖尿病モデルマウスでは電気刺激時の筋力が健常群に比して著しく低下しており、さらに筋収縮時の細胞内カルシウムイオン濃度も低下していることを見出しました。この結果は、細胞内カルシウムイオンの調節障害が2型糖尿病の筋力低下に大きく関与していることを示唆しています。
つぎに、筋力の向上に効果的である継続的な運動トレーニング(ランニングマシン)による効果を検証しました。2型糖尿病モデルマウスは運動を行う能力も低下していることから、徐々に負荷を増やしていき、かつ下り坂のような傾斜によって筋力を意図的に増やすような運動トレーニングを6週間行いました。その結果、2型糖尿病モデルマウスの筋力が改善されるとともに、細胞内カルシウムイオンの濃度の低下も同時に改善されることを明らかにしました(図1、図2)。
以上の結果より、2型糖尿病の骨格筋では、細胞内カルシウムイオンの調節に障害があり、細胞レベルで筋力の低下が生じるメカニズムである可能性が明らかとなりました。さらに、筋力の低下と細胞内カルシウムイオンの調節障害は運動トレーニングによって改善できることも示しました。
本成果は、2型糖尿病患者で生じる筋力低下の分子メカニズムの一端を明らかにするものであり、加えて、運動療法が糖尿病患者の筋力と筋肉の質の改善に有効である可能性を示唆しました。

図1

図1: 2型糖尿病の筋収縮時の細胞内カルシウムイオンの蛍光イメージング像
運動前において、2型糖尿病モデル動物(db/dbマウス)は健康なモデル動物(コントロールマウス)と比べて電気刺激による筋肉の収縮時の細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度が低下していた。また、2型糖尿病モデル動物の細胞内カルシウムイオン放出の低下が継続的な運動トレーニング(運動後)によって改善した。画像はマウスの骨格筋を酵素処理によって一本の筋線維にしたもので蛍光イメージング法により細胞内カルシウムイオンの濃度を測定可能にしたもの。

 

図2

図2: 2型糖尿病の筋力低下と細胞内カルシウムイオン放出の低下が運動トレーニングによって改善される
運動前において、2型糖尿病モデル動物(db/dbマウス:黒棒)は健康なモデル動物(コントロールマウス:白棒)と比べて筋力(A)と細胞内カルシウムイオン(Ca2+)放出濃度(B)が低下していた。本研究では、2型糖尿病モデル動物のこれらの障害が継続的な運動トレーニング(運動後)によって改善されることを明らかにした。

今後の展開

本研究により明らかになった、2型糖尿病における筋力低下と細胞内カルシウムイオンの調節障害は、運動療法が重要なだけでなく、カルシウムイオンの調節が2型糖尿病の筋力低下における予防や治療標的になる可能性を示します。
今後は、2型糖尿病において細胞内カルシウムイオンの調節障害がどのような分子メカニズムを介して生じているのかを詳細に明らかにし、カルシウムイオンを調節する新たな予防介入法や治療薬の開発につなげたいと考えています。

用語解説

*1 2型糖尿病
糖尿病は1型と2型に分けられ、一般的に糖尿病と言われた場合は2型糖尿病を指します。2型糖尿病は生活習慣病の一つで、個々の遺伝的背景に加え、食べすぎや運動不足といった悪い生活習慣が積み重ねられることにより発症します。

*2 骨格筋
私たちは骨格筋を収縮させることにより自らの意志で身体を動かすことができます。高齢者や糖尿病患者では骨格筋量の低下だけではなく、骨格筋が発揮する力、いわゆる「質」の低下により、運動を行うことが困難になりやすくなり、介護リスクが高まることが指摘されています。

*3 カルシウムイオン
骨格筋におけるカルシウムイオンの主な役割は収縮と弛緩にあります。私たちは骨格筋が収縮と弛緩を繰り返すことで身体を動かすことができ、この時にカルシウムイオンが細胞内に放出されることで筋の収縮が開始されます。ここでは一般的に骨などの形成に関わるカルシウムとは区別しています。

*4 小胞体
真核生物の細胞内にある細胞内小器官の1つ。小胞体は細胞内のカルシウムイオンを貯蔵しており、細胞質基質の数千倍の濃度のカルシウムイオンを蓄えています。このカルシウムイオンを細胞内に放出することでカルシウム結合タンパク質などを活性化し、筋収縮を含むさまざまな生体反応を引き起こします。

*5 蛍光イメージング
目的となる分子(ここではカルシウムイオン)だけを蛍光で光らせ、その蛍光をとらえる専用の顕微鏡を用いてその変化を観察する手法です。図1ではマウスから摘出した骨格筋を一本の筋線維にし、カルシウムイオン特異的な蛍光プローブを導入することで、電気刺激による筋肉の収縮時の蛍光強度をカルシウムイオンの濃度として測定しました。
 

原著論文

タイトル: Dysfunction of muscle contraction with impaired intracellular Ca2+ handling in skeletal muscle and the effect of exercise training in male db/db mice
日本語訳:雄性db/dbマウスにおける骨格筋の筋収縮不全および細胞内カルシウムイオン調節障害と運動トレーニング効果
著者: Hiroaki Eshima, Yoshifumi Tamura, Saori Kakehi, Kyoko Nakamura, Nagomi Kurebayashi, Takashi Murayama, Ryo Kakigi, Takashi Sakurai, Ryuzo Kawamori, and Hirotaka Watada
著者名(日本語表記):江島弘晃、田村好史、筧佐織、中村京子、呉林なごみ、村山尚、柿木亮、櫻井隆、河盛隆造、綿田裕孝
著者所属機関: 順天堂大学他

掲載雑誌: Journal of Applied Physiology
本研究成果はアメリカ生理学会雑誌オンライン版 (https://www.physiology.org/journal/jappl) に
2018年11月15日付で掲載されました。
DOI: 10.1152/japplphysiol.00048.2018
本研究は、平成26~30年度 文部科学省 私立大学戦略的研究基盤支援事業「骨格筋機能に着目した統合的な介護予防法開発プロジェクト」、JSPS科研費特別研究員奨励費JP16J11193、JSPS研究活動スタート支援JP15H06597および、鈴木謙三記念医科学応用研究財団 研究助成による支援を受けて行われました。