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2019.08.27 ()
プレスリリース大学・大学院

乳癌の浸潤・転移を促進する新たなメカニズムを発見

~線維芽細胞を標的にした乳癌治療法の開発へ~

順天堂大学大学院医学研究科分子病理病態学の折茂彰 准教授、産婦人科学の松村優子 助手らの研究グループは、乳癌の中に存在する線維芽細胞*1が癌の浸潤・転移を促進する新たなメカニズムを発見しました。これまで乳癌の浸潤・転移を促進する生体内のメカニズムはよくわかっていませんでしたが、本研究により、癌の中の線維芽細胞が、異なる性質を持った2種類の癌細胞の集合体(クラスター)を形成させることによって、癌の浸潤・転移を促進していることが明らかとなりました。本成果は、乳癌における線維芽細胞や癌細胞クラスターを標的とした転移治療の可能性を示し、今後の癌治療薬開発及び癌克服に向けて打開策を提示しました。本研究はオンラインジャーナルのLife Science Alliances誌に掲載されました。
研究グループからのコメント

今回、癌微小環境内に多く存在する線維芽細胞が乳癌の浸潤・転移を促進する新規のメカニズムの解明に成功しました。線維芽細胞より産生されるサイトカインが性質の異なる2種類の癌細胞の集合体の形成を促し、浸潤・転移を促進することが明らかになりました。この成果により、本研究グループが目指している「癌微小環境内の線維芽細胞を標的にすることによる癌浸潤・転移および治療抵抗性獲得の抑制」の基礎研究のさらなる発展および臨床応用への橋渡しを進めていきたいと思います。

折茂准教授・松村助手

分子病理病態学 折茂准教授(右)と産婦人科学 松村助手
本研究成果のポイント
  • 乳癌内の線維芽細胞が性質の異なる2種類の癌細胞から成るクラスターの形成を促す
  • 乳癌細胞クラスターは局所浸潤して血中に移行し、病巣より離れた臓器における転移コロニー形成を促進
  • 線維芽細胞や癌細胞クラスター形成の阻害による癌転移抑制法の開発へ

背景

癌(腫瘍)の中には癌細胞以外にも線維芽細胞などの多くの非癌細胞が含まれ、癌を取り巻く微小環境が作られています。癌の微小環境*2にある線維芽細胞は、癌が大きくなる過程で、癌細胞から刺激を受けて活性化し、多数の増殖因子やサイトカイン*3を産生することで癌の浸潤・転移に関わることが細胞培養を使用した実験によりわかってきました。しかし、癌の微小環境の中で線維芽細胞がどのように癌細胞と相互作用し、癌浸潤・転移を促進するのかについて、生体内における分子メカニズムはよくわかっていませんでした。また、癌細胞が単一の細胞で浸潤・転移するのか、あるいはクラスターを形成し浸潤・転移するのか、さらには癌の中の線維芽細胞が癌細胞クラスター形成にどのようにかかわっているのかは癌の浸潤・転移過程の大きな謎でした。そこで、本研究では、癌の微小環境にある癌内の線維芽細胞が癌浸潤・転移にどのように関わっているのかを調べました。

内容

まず、ヒト乳癌由来線維芽細胞とヒト乳癌細胞を免疫不全マウスに共移植しました。その結果、癌内の線維芽細胞と共移植され形成された癌は、正常線維芽細胞と共移植された癌と比べて、増殖能、浸潤能や病巣より離れた臓器への転移能が高くなっていました。そこで、癌内の線維芽細胞を含んだ癌を免疫組織染色やフロサイトメトリー解析で調べたところ、性質の異なる2種類の癌細胞集団が生じていることがわかりました(図1)。 1種類目は、細胞接着因子の発現の多い上皮系の表現型のEhiタイプ、2種類目は上皮系および間葉系の両方の性質を有し浸潤能が高まったE/Mタイプでした。

図1

図1:本研究で明らかになった癌内の線維芽細胞の新規の乳癌浸潤・転移促進のメカニズム
①癌内の線維芽細胞は多量のサイトカインSDF-1およびTGF-bを産生する。
② これらのサイトカインの刺激は、上皮系のEhiタイプの乳癌細胞を作出する。
②’ また同時に上皮系および間葉系の両方の性質を呈した浸潤能の亢進したE/Mタイプの乳癌細胞を作出する。
③ これらの乳癌細胞はクラスターを形成し、局所浸潤し、血管を通過することにより肺に転移を形成する。
④ 肺に転移したE/Mタイプ癌細胞は上皮系の表現型に戻ることより、転移コロニー形成を促進する。
次に、癌内の線維芽細胞がどのようにこれらの癌細胞集団を誘導しているかを調べるため、癌内の線維芽細胞で多量に発現している2種類のサイトカインであるSDF-1(stromal cell-derived factor 1) および TGF-b (transforming growth factor-b)が癌細胞の浸潤・転移に関係しているかを調べてみました。その結果、これらのサイトカインが添加された癌細胞が、EhiおよびE/Mタイプの癌細胞集団を誘導し、浸潤能を高めることを突き止めました。また、癌内の線維芽細胞と共に移植された癌細胞はクラスターを形成して血中に移行し、病巣より離れた臓器における転移コロニーの形成を促進することがわかりました。さらに、癌内の線維芽細胞により誘導されたE/Mタイプの癌細胞集団では、転移巣を形成中にその多くが上皮系の表現型に戻ることより、転移コロニーの形成が促進されることがわかりました。また、EhiおよびE/Mタイプの癌細胞集団はHer2タイプの乳癌*4患者の予後不良と有意な相関がありました。
以上の結果より、癌内の線維芽細胞がEhiおよびE/Mタイプからなる2種類の癌細胞のクラスターを形成し、癌の浸潤・転移を促進して予後不良の乳癌を進行させることが明らかになりました。

今後の展開

今回、研究グループは癌の微小環境にある線維芽細胞が分泌するサイトカインSDF-1およびTGF-bが乳癌細胞に作用することにより、性質の異なる2種類の癌細胞から成るクラスター形成を誘導し、癌浸潤・転移を促進する新規のメカニズムを発見しました。この発見は多くの乳癌において、線維芽細胞により浸潤・転移能が促された癌細胞クラスターが、転移コロニーの形成に極めて大きな役割を果たすことを示しただけでなく、線維芽細胞および癌細胞クラスターを転移治療の標的にする必要があることを示しました。今後は、癌内の線維芽細胞がHer2タイプの乳癌患者の予後不良にどのような関係があるのか、そのメカニズムを明らかにする予定です。

用語解説

*1 線維芽細胞(せんいがさいぼう):細胞外基質を産生し結合組織を構成する間質細胞のこと。
*2 癌の微小環境:癌細胞周囲を囲む環境のことで、線維芽細胞、炎症細胞、免疫細胞などの非癌細胞や血管や細胞外基質から構成される。癌の増殖、悪性化などを調節している。
*3 サイトカイン:細胞から分泌されるタンパク質であり生理活性物質の総称
*4 Her2タイプ乳癌:細胞増殖に関わるHER2タンパクあるいはHER2遺伝子を過剰にもっている乳癌のこと

原著論文

本研究はオンラインジャーナルのLife Science Alliances誌に掲載(2019年7月22日付)されました。
タイトル: Stromal fibroblasts induce metastatic tumor cell clusters via epithelial–mesenchymal plasticity
タイトル日本語訳:間質の線維芽細胞は上皮間葉移行の可塑性を介して転移性癌細胞クラスターを誘導する
著者:Yuko Matsumura1,2, Yasuhiko Ito1 , Yoshihiro Mezawa1 , Kaidiliayi Sulidan1,2, Yataro Daigo12,13, Toru Hiraga7 , Kaoru Mogushi8 , Nadila Wali1 , Hiromu Suzuki15, Takumi Itoh1 , Yohei Miyagi9 , Tomoyuki Yokose10 , Satoru Shimizu11, Atsushi Takano12,13, Yasuhisa Terao2 , Harumi Saeki1 , Masayuki Ozawa14, Masaaki Abe1 , Satoru Takeda2 , Ko Okumura4,6, Sonoko Habu4,6, Okio Hino1 , Kazuyoshi Takeda5,6 , Michiaki Hamada3 , Akira Orimo1,16
著者(日本語表記): 松村優子1,2, 伊藤恭彦1, 目澤義弘1, Kaidiliayi Sulidan1,2, 醍醐弥太郎12,13,平賀徹7, 茂櫛薫8, Nadila Wali1, 鈴木拓15, 伊藤匠1, 宮城洋平9, 横瀬 智之10, 清水哲11, 高野淳12,13,寺尾泰久2, 佐伯春美1,小澤政之14, 阿部 雅明1, 竹田省2, 奥村康4,6, 垣生園子4,6, 樋野興夫1, 竹田 和由5,6, 浜田 道昭3, 折茂彰1,16
著者所属: 1順天堂大学大学院医学研究科・分子病理病態学 2順天堂大学大学院医学研究科・産婦人科学 3早稲田大学 理工学術院・先進理工学部(研究科) 電気・情報生命工学科 4順天堂大学大学院医学研究科・ アトピー研究センター 5順天堂大学大学院医学研究科・研究基盤センター(細胞機能研究部門) 6順天堂大学大学院医学研究科・乳酸菌生体機能研究講座 7松本歯科大学・歯学部・口腔解剖学講座 8順天堂大学大学院医学研究科・難治性疾患診断・治療学 9神奈川県立がんセンター臨床研究所 10神奈川県立がんセンター病理診断科11神奈川県立がんセンター乳腺内分泌外科12東京大学医科学研究所附属病院抗体・ワクチンセンター13滋賀医科大学腫瘍センター14鹿児島大学院医歯学総合研究科・生体機能制御学 15札幌医科大学医学部分子生物学講座 16キャンサーリサーチ英国・間質―上皮相互作用研究グループ・マンチェスター大学
DOI: 10.26508/lsa.201900425
本研究は、 JSPS科研費JP24300332, JP25640069, JP15K14385, JP16H06277, 王立がん研究基金C147/A6058および文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。

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