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2022.04.15 ()
プレスリリース大学・大学院医学研究科研究プレスリリース

サルコペニアと肥満の併発で認知症のリスクが増大

~高齢者を対象とした文京ヘルススタディーで明らかに~

概要

順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの染谷由希特任助教(現スポーツ健康科学部助教)、代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史 准教授、河盛隆造 特任教授、綿田裕孝 教授らの研究グループは、文京区在住高齢者1,615名を対象とした調査により、肥満(Body Mass Index:BMI *1が25kg/m²以上)かつ、握力が弱い(男性28㎏、女性18㎏未満)「サルコペニア肥満」の人では、軽度認知機能障害*2および認知症*3のリスクが高いことを明らかにしました。  
本成果は認知機能の低下をより早期に発見する方法として、握力とBMIという簡便な指標によるリスクの予測が有効である可能性を示しており、我が国における介護予防や健康寿命の延伸の観点から、極めて有益な情報であると考えられます。本研究は欧州臨床栄養代謝学会誌である「Clinical Nutrition」のオンライン版で公開されました。
本研究成果のポイント
  • 東京都文京区在住の高齢者1,615名を対象とした調査を実施。
  • 握力低下と肥満を併発した人では、軽度認知機能障害や認知症のリスクが高いことが明らかになった。
  • 握力とBMI(身長・体重)といった簡単な測定が、軽度認知機能障害や認知症の早期発見に役立つ可能性を示した。

背景

現在、我が国の介護や支援を必要とする原因の約18%を占めているのが認知症です。認知機能が低下するリスク因子として、加齢に伴う骨格筋量と筋力の減少を示す「サルコペニア」や、体重や体脂肪量の増加を示す「肥満」が知られています。このサルコペニアと肥満が合併した「サルコペニア肥満」は、欧州ではサルコペニア単独よりも、日常生活活動の低下を引き起こすことが報告されています。つまり、体重の低下がないにもかかわらず、骨格筋量と筋力が低下している状態によって要介護リスクが高まっていると考えられます。しかし、サルコペニア肥満と認知機能低下との関連は、これまで明らかになっていませんでした。
そこで、本研究では、都市部在住高齢者を対象とした調査研究 Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディー)*4において、サルコペニア(握力の低下)と肥満(BMI25kg/m²以上)で定義したサルコペニア肥満と認知機能低下との関連を調査しました。

内容

本研究では、東京都文京区在住高齢者のコホート研究“Bunkyo Health Study”に参加した65~84歳の高齢者1,615名(男性684名、女性931名)を対象とし、身長・体重測定、握力測定、認知機能検査を実施しました。まず、身長と体重から算出されるBMIが25kg/m²以上を「肥満」としました。一方で、我が国では高齢の肥満者で、骨格筋量と筋力の両方が低下しているサルコペニアを合併している人はほとんどいません。そのため、本研究では筋力低下のみを基準として用い、握力が男性で28㎏、女性で18.5kg未満を「サルコペニア」と定義しました。次に、肥満もサルコペニアも該当しない「正常」、肥満のみ該当する「肥満」、サルコペニアのみ該当する「サルコペニア」、両方とも該当する「サルコペニア肥満」の4群に分類し、各認知機能検査(MoCA, MMSE)*5の点数や軽度認知機能障害(MoCA≤22点)、認知症(MMSE≤23点)の有病率を比較しました。その結果、正常、肥満、サルコペニア、サルコペニア肥満の順で、各認知機能検査の点数が低下し(図1.棒グラフ)、軽度認知機能障害、認知症ともに有病率が増加している(図1.折れ線グラフ)ことが明らかになりました。

画像1

図1:肥満(BMI≧25kg/㎡)とサルコペニア(握力低下)の状態で区分した4群間での各認知機能検査の点数(棒グラフ)と有病率(折れ線グラフ)の比較
棒グラフは各認知機能検査の点数の25%値~75%値、数値は各検査のカットオフ値での有病率(%)。サルコペニアおよびサルコペニア肥満のグループでは、正常グループと比較して有意に認知機能検査の点数が低く、軽度認知機能低下(左)・認知症(右)の有病率が高い。
また、年齢や教育歴、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を調整した結果、サルコペニア肥満は、正常と比べて、軽度認知機能障害のリスク(オッズ比*6)が約2倍、認知症のリスクが約6倍になることが示されました(図2)。また、認知症では、サルコペニアだけでも正常の約3倍のリスクになることが明らかになりました。

画像2

図2:肥満(BMI≧25kg/㎡)とサルコペニア(握力低下)の状態と軽度認知機能障害(左)、認知症(右)の有病率との関係
年齢、性別、教育年数、日常生活活動量、高血圧症の有無、糖尿病の有無、脂質異常症の有無、うつ状態の有無で調整。肥満(BMI≧25kg/㎡)とサルコペニア(握力低下)を有しているサルコペニア肥満は、両方とも該当しない正常と比べて、軽度認知機能障害のリスク(オッズ比)が約2倍、認知症のリスクが約6倍高い(赤色)。認知症に関しては、サルコペニア単独でも正常に比べて約3倍リスクが高い(黄色)。

今後の展開

本研究により、都市部在住高齢者におけるサルコペニア肥満では、軽度認知機能障害や認知症のリスクが高い可能性が明らかになりました。我が国では介護や支援を必要とする高齢者は年々増加しており、介護予防や健康寿命の延伸に関する取り組みが進められています。軽度認知機能障害を有する人は、運動や食事などの生活習慣を改善することで、認知症の進行予防効果が期待されます。
今回の研究により、握力やBMI(身長・体重)といった簡便な方法によって、認知機能低下の早期発見に役立つことが示唆されましたが、サルコペニア肥満と認知機能低下が関連するメカニズムや、認知機能低下の原因など不明な点が多く残されているため、今後さらなる研究を進めていきます。

用語解説

  1. Body Mass Index(BMI):肥満度を示す指標であり25kg/m²以上で肥満と判定される。体重(㎏)を身長(m)の二乗で除して計算される。
  2. 軽度認知機能障害:主に記憶力といった認知機能が低下しているが、日常生活への影響はほとんどない状態。正常と認知症の中間ともいえる状態。
  3. 認知症:記憶力など様々な認知機能が低下し、仕事や日常生活に支障をきたしている状態。
  4. Bunkyo Health Study(文京ヘルススタディ):東京都文京区民1,629名の高齢者を対象として、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか?「どのように」早期の発見・予防が可能となるか?などを明らかにする研究。(参照: https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/
  5. 認知機能検査:判断力や記憶力を確認する検査。本研究では、軽度認知機能障害のスクリーニング検査として、MoCA(Montreal cognitive assessment)、認知症のスクリーニング検査としてMMSE(Mini-mental state examination)の日本語版を使用。
  6. オッズ比:ある疾患などへの影響度(関連しやすい)を示した尺度のこと。オッズ比が1より大きいと影響度が大きい(強い関連がある)ことを意味する。

原著論文

本研究成果は「Clinical Nutrition」のオンライン版(2022年3月16日付 )で公開されました。
英文タイトル:Sarcopenic obesity is associated with cognitive impairment in community-dwelling older adults: the Bunkyo Health Study        
タイトル(日本語訳):地域在住高齢者におけるサルコペニア肥満と認知機能低下との関連:文京ヘルススタディー
著者: Yuki Someya1,2, Yoshifumi Tamura2,3, Hideyoshi Kaga3, Daisuke Sugimoto3, Satoshi Kadowaki3, Ruriko Suzuki3, Shigeki Aoki2,4, Nobutaka Hattori2,5, Yumiko Motoi2,6, Kazunori Shimada2,7, Hiroyuki Daida2,7, Muneaki Ishijima2,8, Kazuo Kaneko2,8, Shuko Nojiri9, Ryuzo Kawamori2,3, Hirotaka Watada2,3
著者(日本語表記): 染谷由希、田村好史、加賀英義、杉本大介、門脇聡、鈴木瑠璃子、青木茂樹、服部信孝、本井ゆみ子、島田和典、代田浩之、石島旨章、金子和夫、野尻宗子、河盛隆造、綿田裕孝
著者所属:1. 順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科、2. 順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンター、3. 代謝内分泌内科学、4. 放射線診断学、5. 脳神経内科学、6.認知症・診断・予防・治療学講座、7. 循環器内科学、8. 整形外科・運動器医学、9. 順天堂大学革新的医療技術開発研究センター
DOI : https://doi.org/10.1016/j.clnu.2022.03.017
本研究は、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業/S1411006、JSPS科研費/18H03184、ミズノスポーツ振興財団、三井生命厚生財団の研究助成を受け実施しました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。