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2022.07.12 (TUE)

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高精度光線-電子相関顕微鏡法の高感度化・長期安定化に成功

~神経変性疾患などの超微形態解析への応用に期待~

概要

順天堂大学大学院 医学研究科 老人性疾患病態・治療研究センターの谷田以誠 先任准教授、内山安男 特任教授らの研究グループは、近接依存性標識法*1を高精度光線-電子相関顕微鏡法*2に応用し、蛍光シグナル強度の大幅な向上および蛍光シグナルの長期安定化に世界で初めて成功しました。これまでの高精度光線-電子相関顕微鏡法では蛍光タンパク質が主に用いられてきましたが、蛍光タンパク質では蛍光シグナルの弱さと不安定性が問題でした。本研究では近接依存性標識法を用いることにより、蛍光タンパク質に比べて約14倍以上の蛍光強度が上昇しました。
また、蛍光タンパク質では14日でほぼ蛍光が消失するのに対し、本法では試料作成後14日経過しても75%以上の蛍光が保持され、大幅な高感度化・蛍光安定化が図られました。この研究は、神経変性疾患を含む多くの病態組織における形態解析への応用が期待されます。本論文はScientific Reports誌のオンライン版に公開されました。
本研究成果のポイント
  • 近接依存性標識法を高精度光線-電子相関顕微鏡法に応用
  • 従来法に比べて、14倍以上の高感度化・大幅な長期安定化を実現
  • 神経変性疾患などでみられる組織・細胞・オルガネラの超微形態解析への応用へ期待

背景

高精度光線-電子相関顕微鏡法(In-resin CLEM)とは、樹脂包埋試料から、100ナノメーター厚(1ミリメーターの1万分の1)の超薄切片を作製し、同一の薄切試料から蛍光顕微鏡による蛍光シグナル情報と電子顕微鏡による超微形態情報を相関させることができるイメージング手法です。当研究グループはこれまで高精度光線-電子相関顕微鏡法に利用可能な蛍光タンパク質として、いくつかの蛍光タンパク質を見出していました。特に、電子顕微鏡用のエポキシ樹脂包埋試料中で最も明るい蛍光が観察されるmCherry2*3では、緑色蛍光タンパク質 mEGFP*4の約90倍の蛍光が観察できます。しかしながら、試料作成後、蛍光タンパク質の蛍光が1−2週間程度でほとんど消失してしまうために、実験モデル動物や細胞を用いた画像解析を行うには、時間的制約が多く、より強い蛍光シグナルが安定的に得られる方法が待たれていました。

内容

通常、電子顕微鏡による超微形態解析においては、エポキシ樹脂を用いた試料の作製が行われます。エポキシ樹脂包埋過程では、グルタルアルデヒドを含む固定液、生体膜を可視化するのに必要なオスミウム酸染色、エタノールによる脱水処理、それに続くエポキシ樹脂の重合反応を行います。これまで、多くの蛍光色素が蛍光顕微鏡解析のために開発されてきましたが、エポキシ樹脂包埋試料中では、ほとんどの蛍光色素の蛍光が消失してしまうと言われてきました。
当研究グループは、エポキシ樹脂包埋過程でも蛍光が消失しない蛍光色素DyLight549を見出し、近接依存性標識法を応用して、エポキシ樹脂包埋試料において蛍光色素による標識法を確立しました。近接依存性標識法とは、目的タンパク質の近傍にあるタンパク質の標識を可能にする方法で主にプロテオーム解析*5に使われてきました。本研究では、ビオチン化酵素 (miniTurbo)*6を近接依存性標識酵素として利用しました。このビオチン化酵素を発現した培養細胞の培地中にビオチンを添加すると、ビオチン化酵素自身および、近傍にあるタンパク質がビオチン修飾されます。ビオチン化されたタンパク質は、蛍光色素DyLight549を標識したストレプトアビジン*7で検出できます。そして当研究グループが、多くの蛍光色素の蛍光が消失するオスミウム酸染色とエタノール脱水処理を行ったところ、DyLight549は約22%の蛍光を保持していました。このとき蛍光タンパク質mCherry2と比較すると、ビオチン化タンパク質のDyLight549蛍光標識は、mCherry2の約14倍の蛍光強度を保持しており、mCherry2の蛍光がほとんど消失してしまう14日後でも、DyLight549蛍光色素は約75%の蛍光が保持されていました(図1)。

画像1

図1.近接依存性標識法を用いて高精度光線-電子相関顕微鏡法の高感度化・大幅な長期安定化を実現
次にミトコンドリア局在ビオチン化酵素を発現させた細胞試料の超薄切片では、蛍光シグナルがミトコンドリア様に認められ、電子顕微鏡解析から蛍光シグナル部分にミトコンドリアの超微形態が観察できました(図2)。以上の結果から、近接依存性標識法を応用した高精度光線-電子相関顕微鏡法は、これまでの蛍光タンパク質を用いた高精度光線-電子相関顕微鏡法に比べ、蛍光シグナルが大幅に向上し、蛍光の安定性も改善されました。

画像2

図2.近接依存性標識法を用いたミトコンドリアの高精度光線-電子相関顕微鏡法

今後の展開

本研究により高精度光線-電子相関顕微鏡法の蛍光強度および蛍光安定性が大幅に改善されたため、細胞のみならず、実験動物モデルの組織における高精度光線-電子相関顕微鏡法の応用が極めて現実的になってきました。今後は、疾患モデルマウス、特に神経疾患モデルマウスの中枢神経組織の超微形態変化について高精度光線-電子相関顕微鏡法解析を展開し、病態変化・病態解明に向けた研究を行っていきたいと思います。

用語解説

*1 近接依存性標識法:目的タンパク質の近傍にあるタンパク質の標識を可能にする方法。本研究ではビオチン化酵素を使った。 この方法は、目的タンパク質とビオチン化酵素の融合遺伝子を、生細胞内で発現させることによって、近傍のタンパク質をビオチン化させる。
*2 高精度光線-電子相関顕微鏡法(In-resin CLEM):電子顕微鏡用樹脂包埋試料から、超薄切片を作製し、同一薄切試料から蛍光顕微鏡による蛍光シグナル画像と電子顕微鏡による超微形態情報を相関させる手法。
*3 mCherry2:イソギンチャクモドキから単離された、DsRedから改変された単量体型遠赤色蛍光タンパク質。
*4 mEGFP:ノーベル賞受賞者の下村博士により、オワンクラゲから世界ではじめて発見された緑色蛍光タンパク質、GFPを改変し、単量体で緑色蛍光をより明るくした改良型GFPの一つ。
*5 プロテオーム解析:タンパク質の構造や機能、相互作用を網羅的に解析する手法。
*6 ビオチン化酵素 (miniTurbo):酵素の近傍に存在するタンパク質をビオチン化標識する酵素。miniTurboは大腸菌由来のビオチン化酵素 (BirA) の改変タンパク質の一つ。
*7 ストレプトアビジン:ビオチンと非常に強く結合するタンパク質。

原著論文

本研究は、Scientific Reports 誌に公開 (2022年7月1日付)されました。
タイトル: In-resin CLEM of Epon-embedded cells using proximity labeling
タイトル(日本語訳): 近接依存性標識法を用いたIn-resin CLEMの開発
著者: Takahito Sanada1), Junji Yamaguchi2), Yoko Furuta1), Soichiro Kakuta2), Isei Tanida1)◯, and Yasuo Uchiyama1)◯
著者(日本語表記):眞田貴人1)、山口隼司2)、古田陽子1)、角田宗一郎2)、谷田以誠1)◯、内山安男1)◯ ◯: 責任著者
著者所属:1) 順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センター、2) 順天堂大学大学院医学研究科形態解析イメージング研究室
DOI: 10.1038/s41598-022-15438-6
本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)「老化メカニズム解明・制御プロジェクト」研究費 (21gm5010003)、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、日本私立学校振興・共済事業団、日本学術振興会 (JSPS) 科研費 (20H05342、21H02435、 22H04652、20K22744、21K15198)、順天堂大学老人性疾患病態・治療研究センター研究奨励費の支援を受けて、実施されました。