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2022.07.28 (THU)

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進行・再発胸腺癌に対する治療薬の医師主導治験を開始

~希少癌に対する新たな治療選択肢の実現にむけて~

順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器内科の宿谷威仁准教授、髙橋和久教授らの研究グループは、進行・再発胸腺癌患者を対象とした多施設共同医師主導治験「進行・再発胸腺癌に対するカルボプラチン+パクリタキセル+アテゾリズマブ(MPDL3280A)の第Ⅱ相試験」の治験届*1を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出し、医師主導治験を開始することとなりました。

研究の背景

希少疾患・希少癌は、大規模な臨床試験の実施が困難で、他の癌腫に比べ、治療開発が進まない傾向にあります。胸腺上皮性腫瘍も10万人/年あたり0.15例とまれな腫瘍で、胸腺癌はそのうち14.1%を占める希少疾患となります。一方で、切除不能進行・再発胸腺癌の予後は良好とは言えず、その治療開発には高いアンメットメディカルニーズ*2が存在します。
実際に、本治験の対象である胸腺癌は希少疾患であるため、大規模比較試験の施行は困難で、小規模な前向き試験、もしくは後ろ向き試験の報告があるのみとなっています。そのため、新たな治療法の確立は重要な課題であると考えられています。

治験薬の概要

Programmed cell death-1(PD-1)経路阻害薬*3は本邦発の薬剤であり、抗腫瘍免疫*4を増強することで様々な癌種において長期に病勢を制御しうることが示されています。海外の報告でも、PD-1経路阻害薬は再発胸腺癌患者に対して単剤で有望な効果が示されています。また、細胞傷害性抗がん薬*5との併用により免疫原性細胞死(immunogenic cell death: ICD)*6が誘導されることが期待され、肺癌などにおいては、細胞傷害性抗がん薬とPD-1経路阻害薬の併用療法が標準治療として既に用いられています。胸腺癌においてもプラチナ併用化学療法とPD-1経路阻害薬の併用療法が高い有効性を示す可能性が期待されることから、本治験が計画されました。
アテゾリズマブは、抗PD-L1抗体の一つで、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌などで承認されており、既に臨床で用いられています。非小細胞肺癌においては、カルボプラチン+ナブパクリタキセル、カルボプラチン+ペメトレキセド、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブへの上乗せ効果が示されており、また、病勢の長期制御を可能とすることが示されています。
同様に、進行・再発胸腺癌患者において、アテゾリズマブをカルボプラチン+パクリタキセルと組み合わせることで、標準治療への上乗せ効果と病勢の長期制御が期待できることから、カルボプラチン+パクリタキセル+アテゾリズマブの有効性と安全性を検討する単群第II相試験を計画しました。

本治験の実施概要

 <研究の詳細>
・期間:2022年5月~2026年4月
・目標参加人数:47名

本治験では、患者さんからの同意取得後にスクリーニング検査を実施し、治験への適格性を確認した後に治験登録が行われます。登録となった患者さんには、まず導入療法として3週間毎に3剤(カルボプラチン+パクリタキセル+アテゾリズマブ)での治療を、3か月~5か月程実施します。その後、導入療法開始から最大2年間までアテゾリズマブでの治療を実施し、投与終了(又は中止)後は、最長1年間の追跡調査を実施します。
治療を実施している期間は、定期的に来院いただく中で検査を行い安全性、有効性の評価を行います。治療終了(又は中止)後も、定期的に来院いただき検査を実施し、安全性、有効性を確認します。
なお本治験は、日本全国の医療機関(全15施設)で実施を予定しています。詳細はjRCT(https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031220144)よりご確認ください。

用語解説

*1.治験届:保健衛生上の見地から治験の実態を把握し、治験の安全性を確保するため、治験依頼者(製薬企業等)及び医師又は歯科医師(自ら治験を実施する者)は、厚生労働大臣への治験計画の届け出が義務づけられています。
*2. アンメットメディカルニーズ:いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズのこと。具体的には、癌、認知症などの重篤な疾患のほか、不眠症や偏頭痛といった、生命に支障はないものの、QOL改善のために患者から強く求められている疾患に対する医療ニーズを指します。
*3. Programmed cell death-1(PD-1)経路阻害薬:PD-1は免疫細胞上に発現する免疫チェックポイント分子であり、樹状細胞やがん細胞に発現するPD-L1やPD-L2と結合することで、免疫細胞の働きを抑制します。PD-1経路阻害薬によりPD-1がPD-L1などと結合しなくなることで、免疫細胞が本来の働きを取り戻し、がん細胞を攻撃するようになると考えられています。
*4.抗腫瘍免疫:腫瘍が生体内で異物として認識され、それを排除するように免疫細胞が反応すること。
*5. 細胞傷害性抗がん薬:一般に「抗がん剤」と呼ばれている薬剤を指す。がん細胞を直接攻撃することで、殺傷したり増殖を抑えたりする治療法です。ただし、正常な細胞まで攻撃するため、副作用などの影響に注意が必要です。
*6.免疫原性細胞死(immunogenic cell death: ICD) :免疫応答(有害物質から身体を守る機能)を誘発しやすい細胞死。
本治験は、中外製薬株式会社の支援を受け、多施設共同医師主導治験として実施しております。
本治験にご協力いただいた皆様に深謝いたします。