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2022.12.27 (TUE)

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UFM1システムを介したオートファジーによる小胞体分解を発見

― 遺伝性小児てんかん性脳症との関連を示唆 ―

順天堂大学大学院医学研究科 器官・細胞生理学の小松雅明 教授、石村亮輔 助教らの研究グループは、小児てんかん性脳症が、細胞内の蛋白質「UFM1」の共有結合を促す「UFM1システム*1」の遺伝子変異によって引き起こされることをこれまでに報告してきましたが、今回の研究により、このUFM1システムがオートファジー*2による小胞体分解を誘導する一方で、UFM1システムが機能しなくなるとオートファジーによる小胞体分解が抑制されることを発見しました。

研究グループは質量分析によりUFM1が修飾(共有結合)する蛋白質として小胞体蛋白質CYB5R3を同定し、このCYB5R3にUFM1修飾が起こるとオートファジーによる小胞体分解が誘導されることを明らかにしました。さらに、UFM1修飾を起こらなくしたCYB5R3変異マウスは小頭症を呈することも見出しました。本成果はUFM1システムの遺伝子変異に起因した小児てんかん性脳症が、オートファジーによる小胞体の分解機能の低下によって発症することを示唆するものです。
本論文は科学雑誌Nature Communications誌に2022年12月21日付で公開されました。
本研究成果のポイント
  • UFM1に修飾される蛋白質を質量分析により探索するとともにその生理作用を解析。
  • UFM1によるCYB5R3修飾がオートファジーによる小胞体分解を誘導すること発見。
  • UFM1異常による小児てんかん性脳症発症機序の解明や治療法開発に繋がる可能性。

背景

UFM1システムは、UFM1と呼ばれる小さな蛋白質を別の細胞内蛋白質に共有結合させるシステムです。近年、重篤な小児てんかん性脳症を引き起こす国内外の家系において、UFM1システムを構成する因子をコードする遺伝子変異が次々と同定されています。しかし、その病態発症機序は不明であり、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患と言えます。今回、研究グループはUFM1により修飾される蛋白質を同定し、その修飾による細胞制御機構及び生理機能の解明を行いました。

内容

本研究では質量分析によりUFM1の新規修飾蛋白質として小胞体に局在するNADH-cytochrome b5 reductase 3(CYB5R3)を同定しました。高速原子間力顕微鏡や構造モデルからCYB5R3がUFM1により修飾されると構造変換が起こることが分りました。さらに、小胞体上のCYB5R3のリソソーム分解を共焦点定量イメージングサイトメーターにより解析したところ、CYB5R3のUFM1修飾を促すとオートファジーにより分解が誘導される一方、UFM1修飾不能CYB5R3変異体は分解が抑制されることが判明しました(図1)。

図1

図1:野生型及びUFM1修飾不能型CYB5R3のリソソームにおける分解
小胞体に局在するCYB5R3のリソソームによる分解を調べるために野生型CYB5R3ないしはUFM1修飾不能変異体に蛍光プローブを融合させ、細胞内に発現させた。赤色蛍光の点状構造体がリソソームに運ばれたCYB5R3(リソソームに運ばれた小胞体を反映)を示す。UFM1修飾不能型CYB5R3では赤色蛍光の点状構造体が野生型CYB5R3と比して有意に少ない。
小胞体局在型CYB5R3をコードする遺伝子変異は潜性先天性メトヘモグロビン血症Ⅱ型*3を引き起こすことが知られています。この疾患では、精神遅滞、小頭症、全身性ジストニア、運動障害を特徴としており、UFM1システム関連小児てんかん性脳症の症状と酷似しています。そこで、UFM1修飾を起こらなくしたCYB5R3変異マウスを作製したところ、この変異マウスは小頭症を呈しました(図2)。

図2

図2:野生型マウス脳及びUFM1修飾不能型CYB5R3変異マウス脳
4ヶ月齢の野生型マウス脳及びUFM1修飾不能型マウス脳の最大側方長及び軸長(大脳の前縁から中脳の後縁まで)を測定した。UFM1修飾不能CYB5R3変異マウスでは野生型マウスに比して脳の最大側方長が有意に短い。
これらの結果はUFM1システムの遺伝子変異による小児てんかん性脳症は、オートファジーによる小胞体分解低下に起因することを示唆します(図3)。

図3

図3: UFM1システムによるオートファジーによる小胞体分解誘導とその異常による小児てんかん性脳症との関連
上:CYB5R3がUFM1により修飾されることで、オートファジーによる小胞体の分解が誘導される。
下:UFM1システムの遺伝子変異がオートファジーによる小胞体の分解異常を引き起こし、それが小児てんかん性脳症の発症に至ることが示唆される。

今後の展開

これまで全く謎であったUFM1システムの異常による小児てんかん性脳症発症機序の解明や治療法開発に繋がることが期待されます。

用語解説

*1 UFM1システム:UFM1と呼ばれる小さな蛋白質が、UBA5により活性化され、次いでUFC1に転移され、最終的に細胞内の別の蛋白質と共有結合する蛋白質修飾システム。UFM1により修飾された蛋白質は機能が変換されると考えられている。UFM1、UBA5、UFC1をコードする遺伝子に変異があると小児てんかん性脳症を引き起こす。
*2 オートファジー:細胞内の構成成分をオートファゴソームにより取り囲み、リソソームと融合することで細胞成分を分解する。小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官を選択的に分解することもできる。
*3 潜性先天性メトヘモグロビン血症Ⅱ型:可溶性赤血球CYB5R3及び膜結合型CYB5R3アイソフォーム両方の欠損により赤血球と全身の組織に影響を及ぼし、その結果、チアノーゼの他に神経学的症状を引き起こす。

原著論文

本研究はNature Communications誌のオンライン版に2022年12月21日付で公開されました。
タイトル: The UFM1 system regulates ER-phagy through the ufmylation of CYB5R3
タイトル(日本語訳): UFM1システムはCYB5R3のufmylationを介してER-phagyを制御する
著者:Ryosuke Ishimura1, Afnan H. El-Gowily1,2, Daisuke Noshiro3, Satoko Komatsu-Hirota1, Yasuko Ono4, Mayumi Shindo5, Tomohisa Hatta6, Manabu Abe7, Takefumi Uemura8, Hyeon-Cheol Lee-Okada9, Tarek M. Mohamed2, Takehiko Yokomizo9, Takashi Ueno10, Kenji Sakimura7, Toru Natsume6, Hiroyuki Sorimachi4, Toshifumi Inada11, Satoshi Waguri8, Nobuo N. Noda3, Masaaki Komatsu1,*
著者(日本語表記):石村亮輔1, Afnan H. El-Gowily1,2, 能代大輔3, 小松-廣田聡子1, 小野弥子4, 進藤真由美5, 八田知久6, 阿部学7, 植村武文8, 李-岡田賢喆9, Tarek M. Mohamed2, 横溝岳彦9, 上野隆10, 崎村建司7, 夏目徹6, 反町洋之4, 稲田利文11, 和栗聡8, 野田展生3, 小松雅明1,*
著者所属:1) 順天堂大学大学院医学研究科器官・細胞生理学、2) Biochemistry Division, Chemistry Department, Faculty of Science, Tanta University、3)北海道大学遺伝子病制御研究所生命分子機構分野、4)公益財団法人東京都医学総合研究所カルパインプロジェクト、5)公益財団法人東京都医学総合研究所基盤技術支援センター、6)産業技術総合研究所、7)新潟大学脳研究所モデル動物開発分野、8)福島県立医科大学解剖・組織学講座、9)順天堂大学大学院医学研究科生化学・細胞機能制御学、10)順天堂大学大学院医学研究科生体分子研究室、11)東京大学医科学研究所RNA制御学分野
DOI: 10.1038/s41467-022-35501-0
本研究はJSPS科研費(22K06931, 19H05706, 21H004771)、革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST(22gm1410004s0103)、日本学術振興会A3フォーサイト事業、武田科学振興財団、文部科学省新学術領域研究先端モデル動物支援プラットフォーム(JP16H06276, JP22H0492)などの支援を受け実施されました。