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2025.04.17 (THU)

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2型糖尿病を有する人の炭水化物摂取割合と予後の関連性が明らかに ― 食事栄養素のバランスの重要性 ―

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三田 智也 准教授、綿田 裕孝 教授らの研究グループは、一日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、2型糖尿病を有する人の心血管イベント*1や死亡のリスクの増加と関連することを明らかにしました。今回の研究では、2型糖尿病を有する人を対象に、食事を含む生活習慣を質問票で評価し、最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡しました。その結果、炭水化物の摂取割合が高いほど心血管イベントや死亡のリスクが増加し、逆に、炭水化物の摂取量を減らし、蛋白質や脂質の摂取量を増加させることがそのリスク低下に寄与することが分かりました。特に、動物性の蛋白質や脂質を増やすことで、心血管イベントや死亡の発症リスクが低下しました。また、飽和脂肪酸*2の摂取割合が高いことも、心血管イベントや死亡のリスク低下に関連していました。これらの結果は、2型糖尿病を有する人の心血管疾患予防のために、食事に含まれる栄養素の調整が非常に重要である可能性を示唆するとともに、その方法は欧米人と日本人では必ずしも同じではない可能性を示唆しています。

本研究成果は、米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」のオンライン版に2025321日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • 食事の栄養素と心血管イベントや死亡のリスクの関連性を調査
  • 炭水化物の摂取量を減らし、蛋白質や脂質の摂取量を増加させることで予後が改善
  • 心血管疾患予防のために、食事に含まれる栄養素の調整が重要
■背景

2型糖尿病を有する人々は、心血管イベントや死亡のリスクが高いことが広く認識されています。糖尿病治療においては、これらのリスクを軽減するために、食事、運動、睡眠、そして生活リズムの改善が重要です。しかし、これまでの研究では、脂肪摂取量を減少させることを主としたエネルギー制限食などの生活習慣への介入では、2型糖尿病を有する人心血管イベントや死亡リスクの低下には結びつかなかったことが示されています。このことから、単に食事量を制限するのではなく、食事の質や食事以外の生活習慣も考慮することが重要であると考えられます。

糖尿病治療ガイドライン(2024年版日本糖尿病学会)では、2型糖尿病を有する人々に対して、初期設定としてエネルギー摂取量の4060%を炭水化物から摂取することを提案していますが、適切な栄養素の割合については依然として明確ではありません。さらに、2024年版の日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインやアメリカ糖尿病学会のガイドラインは、総炭水化物摂取量を減らすことが血糖管理の改善に寄与する可能性を示唆しています。しかし、炭水化物摂取割合が心血管イベントや死亡リスクに与える影響や、炭水化物摂取量を減らした場合に蛋白質や脂質を増やすことがどのような影響を及ぼすのか、さらに動物由来と植物由来の蛋白質や脂質では影響が異なるのかについては、依然として不明な点が多いです。。

そこで、私たちは2型糖尿病を有する人を対象に、食事の栄養素を含むさまざまな生活習慣と心血管イベントや死亡リスクとの関連性を検討しました。

■内容

本研究では、順天堂医院などに通院中で心血管イベントの既往がない2型糖尿病を有する人731名を対象に、試験開始時、2年後、5年後に食事、身体活動量、睡眠時間、睡眠の質、生活のリズムなどさまざまな生活習慣を質問紙により評価し、心血管イベント発症日や死亡日または追跡終了日までの各生活習慣スコアの平均値を算出しました。食事評価には、日本人の食習慣を反映させるために設計された簡易型自己記入式食事歴質問票(BDHQ: Brief-type Self-administered Diet History Questionnaire)を使用し、摂取エネルギーや主要栄養素の摂取量を推定しました。

炭水化物、蛋白質、脂質の三大栄養素は密接に関連しており、例えば炭水化物摂取量が多いと、蛋白質や脂質の摂取量が少なくなる傾向があります。そのため、各栄養素単独での摂取量を検討するのではなく、これら三つの栄養素のバランスを考慮することが重要です。このため、炭水化物、蛋白質、脂質の摂取量に基づき、低炭水化物ダイエットスコアを算出しました。炭水化物摂取量で11等分し、摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点、蛋白質と脂肪の摂取量でも同様に計算し、これらを合計して「総低炭水化物スコア」を算出しました。このスコアが高いほど、炭水化物摂取が少なく、蛋白質や脂質摂取が多いことを示します。また、動物性食品と植物性食品に基づくスコアも別々に算出し、それぞれ「動物性低炭水化物スコア」*3と「植物性低炭水化物スコア」*4として評価しました。最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡し、各生活習慣と心血管イベントまたは死亡のリスクとの関連性を検討しました。

対象者の平均年齢は57.8 ± 8.6歳、62.9%が男性で、BMI24.6 ± 4.1 kg/m²でした。平均追跡期間は7.5 ± 2.4年で、その間に55人(7.5%)が心血管イベントまたは死亡という主要なアウトカムを発症しました。分析の結果、年齢、性別、総エネルギー摂取量、動脈硬化のリスク因子を調整した後も、炭水化物摂取割合が高いほど主要アウトカムの発生リスクが高いことが示されました。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになりました。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いと、リスクが低下することが認められました。

これまでの一般人口を対象とした研究では、炭水化物摂取割合と死亡リスクとの関係に一貫性がありませんでしたが、本研究では、2型糖尿病を有する人々において、炭水化物摂取割合が多いほど主要アウトカムの発症リスクが増加することが示されました。糖代謝異常を伴う2型糖尿病を有する人は、一般人口に比べて炭水化物摂取の影響を受けやすい可能性があります。特に、日本人の主食である米の摂取量が多いと、主要アウトカムが増加する可能性が示唆されました。

西洋諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと総死因および心血管イベントによる死亡リスクが高まる一方で、「植物性低炭水化物スコア」が高いとリスクが低下することが示されています。しかし、アジア諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと死亡リスクが低下することが報告されています。本研究でも、日本の2型糖尿病を有する人々において「動物性低炭水化物スコア」が高いと主要アウトカムのリスクが低下することが確認されました。この結果は、動物性蛋白質や脂質を増やし、炭水化物摂取量を減らすことが、主要アウトカムの発症リスクを低下させる可能性があることを示唆しています。なお、日本における動物由来の蛋白質源としては魚が主であり、本研究の対象者においても肉類の摂取量は比較的少々でした。肉類は蛋白質、ミネラル、ビタミンが豊富で、エネルギー源として優れており、適量の肉類摂取の有用性が動物性脂質摂取のリスクに優り、心血管リスク低減に寄与したと考えられます。したがって、過剰な動物性蛋白摂取を勧めるものではないと考えています。

以上の結果から、日本人2型糖尿病においては、炭水化物の摂取割合が高いと心血管イベントや死亡リスクが増加し、逆に、炭水化物摂取量を減少させ、動物性の蛋白質や脂質摂取量を増加させることがリスク低下に寄与することが分かりました。これらの結果は、2型糖尿病を有する人の心血管疾患予防において、食事に含まれる栄養素の調整が重要であることを示唆しています。

      

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図:明らかな心血管イベントの既往のない731名の2型糖尿病を有する人を対象とした観察研究において、炭水化物摂取割合が高いほど心血管イベントと死亡のリスクが高いことが示されました。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになりました。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いと、リスクが低下することが認められました。

■今後の展開

本研究では、炭水化物摂取割合と心血管イベントや死亡リスクとの関連について明らかにしました。しかし、今後は炭水化物摂取割合を減らすことで、どのようなメカニズムで心血管イベントが抑制されるのかを明らかにする必要があります。また、本研究では炭水化物摂取割合が約45%で予後に良い影響を与える可能性があることが分かりましたが、さらに厳格な糖質制限食が予後に与える影響についても検討することが今後の課題です。さらに、食事の栄養素バランスを調整した介入研究を通じて、長期的に心血管イベントの発生リスクを低下させるかどうかを検討することが重要であると考えられます。

■用語解説

*1 心血管イベント: 心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気のことです。2型糖尿病を有する人ではこのような心血管イベントによる死亡が多いため、心血管イベントの発症を回避することは糖尿病治療において重大な課題です。

*2 飽和脂肪酸: 主に動物性食品(例:肉、バター、乳製品)や一部の植物性油脂(例:ココナッツオイルやパーム油)に多く含まれています。過剰な摂取は、血中コレステロール値を上昇させ、心血管疾患のリスクを高める可能性があるとされています。そのため、適量の摂取が推奨されています。

*3 動物性低炭水化物スコア: 炭水化物摂取量に基づき、動物由来の蛋白質や脂質の摂取量に重点を置いた低炭水化物ダイエットスコアの一種です。このスコアは、食事からのエネルギー摂取割合において、炭水化物よりも動物性食品(肉、魚、乳製品など)から摂取する脂肪や蛋白質の割合が高い場合に高いスコアを付与するように設計されています。炭水化物摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点とし、動物性蛋白質あるいは脂肪の摂取量がそれぞれ最も少ないものを0点、最も多い摂取量を10点としました。合計30点満点でスコアが高いほど動物性蛋白質と脂肪の摂取量を増やしながら炭水化物の摂取量を減らしていることを意味します。

*4 植物性低炭水化物スコア: 炭水化物摂取量に基づき、植物由来の蛋白質や脂質の摂取量に重点を置いた低炭水化物ダイエットスコアの一種です。このスコアは、食事からのエネルギー摂取割合において、炭水化物よりも植物性食品(豆類、全粒穀物、果物、野菜など)から摂取する脂肪や蛋白質の割合が高い場合に高いスコアを付与するように設計されています。炭水化物摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点とし、植物性蛋白質あるいは脂肪の摂取量がそれぞれ最も少ないものを0点、最も多い摂取量を10点としました。合計30点満点でスコアが高いほど植物性蛋白質と脂肪の摂取量を増やしながら炭水化物の摂取量を減らしていることを意味します。

研究者のコメント

2型糖尿病の治療において、食事療法は最も重要な要素であり、今後の研究によって適切な栄養素の割合が明らかになることが望まれます。さらに、個々の健康状態、生活習慣、血糖値の管理目標に基づき、最適な栄養素の摂取バランスを調整した食事プランを提供する個別化されたアプローチによって、心血管イベントなどの合併症の発症や進展が抑制されることが期待されます。

■原著論文

本研究はJournal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌のオンライン版で(2025321日付)公開されました。

タイトル: Relationship of carbohydrate intake proportion to cardiovascular events in Japanese people with type 2 diabetes mellitus

タイトル(日本語訳): 日本人2型糖尿病を有する人における炭水化物摂取割合と心血管イベントの関連性

著者 Tomoya Mita 1), Yusuke Osonoi 1), Yuki Someya 1), Takeshi Osonoi 2), Miyoko Saito 2), Shiho Nakayama 1), Hidenori Ishida 2), Ryota Ishii 3), Masahiko Gosho 3, and Hirotaka Watada 1)

著者(日本語): 三田 智也 1)、遅野井 雄介 1)、染谷 由希 1)、遅野井 健 2)、斎藤 三代子2)、 中山 志保 1) 石田 英則 2)、石井 亮太 3)、五所 正彦 3)、綿田 裕孝 1)

著者所属1)順天堂大学 2)那珂記念クリニック 3)筑波大学

DOI: 10.1210/clinem/dgaf179.

   

本研究は、鈴木万平糖尿病財団からの研究助成を受けて行われました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。