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2025.06.02 (MON)
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治療タンパク質を脳へ輸送する新たな遺伝子治療法を開発 ~根治療法のない神経変性疾患モデルマウスの治療に成功~
順天堂大学 大学院医学研究科脳回路形態学の日置寛之は、東京慈恵会医科大学遺伝子治療研究部の松島小貴、小林博司、医学部看護学科の大橋十也らの研究チーム、臨床医学研究所の渡部文子、JCRファーマ株式会社の薗田啓之らと共同で血液脳関門通過型の治療タンパク質を用いた遺伝性疾患のGM1ガングリオシドーシスモデルマウスに対するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子治療法を確立しました。
本成果は2025年4月8日にThe Journal of Clinical Investigationに掲載されました。
<ポイント>
- 遺伝性疾患のGM1ガングリオシドーシスに対して有効な新たな遺伝子治療法を確立しました。
- 遺伝子治療用ベクターとして、J-Brain Cargo®技術を応用した抗体融合酵素を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを開発しました。
- GM1ガングリオシドーシスモデルマウスに対して治療を行い、生化学的・病理学的・行動学的に有効性を実証しました。
メンバー:
・東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター 遺伝子治療研究部
助教 松島 小貴
研究補助員 飯塚佐代子
講師 樋口 孝
准教授 嶋田 洋太
教授 小林 博司
・東京慈恵会医科大学医学部看護学科 健康科学疾病治療学
教授 大橋 十也
・東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター 臨床医学研究所
助教 永嶋 宇
教授 渡部 文子
・順天堂大学 大学院医学研究科脳回路形態学
特任助教 岡本慎一郎
教授 日置 寛之
・JCRファーマ株式会社
木下 正文
飯塚 俊輔
高木 春奈
薗田 啓之
研究の詳細
1. 背景
GM1ガングリオシドーシス (GM1)はライソゾーム病 (LSD)の一つで、ライソゾーム酵素であるβガラクトシダーゼ (βgal)をコードするGLB1遺伝子の遺伝子変異で発症する遺伝性疾患です。βgalの欠損により基質であるGM1ガングリオシドが中枢および末梢神経系の細胞、特に神経細胞に異常に蓄積した結果、進行性の神経変性を引き起こします。現在有効な治療法はありません。ムコ多糖症II型など一部のLSDでは欠損した酵素を毎週の点滴で補う酵素補充療法が行われていますが、酵素タンパク質は脳のバリア機能である血液脳関門を通過できないため、中枢神経症状には効果が期待できませんでした。
近年JCRファーマ社はある抗体を融合することで酵素タンパク質が血液脳関門を通過できる技術、J-Brain Cargo® を開発しました。この技術によりムコ多糖症II型の中枢神経症状を酵素補充療法により改善することが期待されています。しかしβgalタンパク質の構造が不安定であるためGM1に対する酵素補充療法は存在しません。そこで本研究ではβgalのJ-Brain Cargo®を体内で安定的に発現するシステムとして、その発現遺伝子をアデノ随伴ウイルス (AAV)ベクターに搭載し、GM1モデルマウスを用いて遺伝子治療を行いました。
図1. 実験の概要
図2. マウス大脳の免疫染色。緑:蓄積物質、青:細胞核。治療により蓄積物質が正常化した。
2. 手法
J-Brain Cargo® 技術を応用した抗体融合酵素発現遺伝子を搭載したAAV (Tβgal)を10週齢のGM1モデルマウスへ静脈投与し、半年後の脳の酵素活性および蓄積物質の測定による生化学的解析、免疫染色による病理学的解析、複数の行動学的解析を行いました。
3.成果
Tβgal治療群は生化学的および病理学的解析においてほぼ正常化しており、行動学的解析でも未治療群と比べ有意な改善が認められました。
4.今後の応用、展開
本研究の臨床応用に向けた検討を進めています。また、本システムは他のライソゾーム病や神経変性疾患への応用が期待できると考えています。