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2025.07.24 (THU)
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心房性機能性僧帽弁逆流症に対するカテーテル的僧帽弁接合不全修復術と薬物療法の比較 ― OCEAN-Mitral研究とREVEAL-AFMR共同研究による傾向スコアを用いた検討 ―
順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座の金子智洋 助教、鍵山暢之 特任准教授、岡﨑真也 准教授ら、および豊橋ハートセンター循環器内科の山本真功 部長、慶應義塾大学医学部循環器内科の林田健太郎 特命教授らの共同研究グループは、国内21施設の多施設共同研究であるOCEAN-Mitral研究*1と26施設の多施設共同研究であるREVEAL-AFMR研究*2それぞれの研究結果を用いた調査により心房性機能性僧帽弁逆流症*3の予後に対する経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術*4(以下カテーテル治療)の影響を調査しました。その結果、カテーテル治療を受けた患者は薬物治療を受けた患者と比較し、予後が良好であることが明らかになりました。心房性機能性僧帽弁逆流症は高齢者に多く、治療の第一選択である外科手術が難しいことが少なくありません。近年、カテーテル治療の普及に伴い、外科手術のリスクが高い患者であっても、少ない体の負担で僧帽弁逆流症の治療が可能となっています。しかし、僧帽弁逆流症*5の一種である心房性機能性僧帽弁逆流症に対するカテーテル治療の効果は明らかになっていませんでした。多くの施設の治療内容やその後の経過に関するデータを収集することで得られた本成果は、治療戦略を考える上でその意思決定の礎となるものです。
本論文はEuropean Heart Journal誌のオンライン版に2025年7月9日付で公開されました。
本研究成果のポイント
- 心房性機能性僧帽弁逆流症に対するカテーテル治療と薬物療法に関する調査を実施した
- カテーテル治療を受けた患者は死亡や心不全による入院が少ないことが明らかになった
- その傾向は、カテーテル治療により僧帽弁逆流症が十分に制御された患者においてより顕著であった
■背景
僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間にあり、心臓の動きにあわせて開いたり閉じたりすることで、心臓の中で血液が逆流しないようにする役割を担っています。僧帽弁逆流症は僧帽弁が閉じ切らず、血液が逆流することで心不全を引き起こします。機能性僧帽弁逆流症は僧帽弁自体に問題はないものの、弁を支えている心室や心房に問題が生じることで僧帽弁が閉じられなくなり逆流が起きる病気です。近年、不整脈などが長く続くことにより心房が極端に大きくなることで僧帽弁の合わさりが悪くなり、逆流を生じる心房性機能性僧帽弁逆流症という病気が知られるようになりました。
心不全に至った重症の心房性機能性僧帽弁逆流症に対しては外科手術による治療が考慮されます。しかし、本疾患は高齢者に多いことから、外科手術のリスクが高く十分な治療が受けられない患者が多くみられました。近年、カテーテル治療の発展に伴い、高齢者や他の病気を合併したリスクの高い患者であっても少ない体の負担で僧帽弁逆流症に対する治療を受けられるようになっています。しかし、心房性機能性僧帽弁逆流症に対するカテーテル治療の有効性は明らかになっていませんでした。
本研究は、国内21施設の共同研究(OCEAN-Mitral研究)と26施設の共同研究(REVEAL-AFMR研究)それぞれの研究結果を用いた調査により、心房性機能性僧帽弁逆流症に対するカテーテル治療と薬物治療との治療成績を明らかにすることを目的としました。
■内容
OCEAN-Mitral研究でMitraClip*6によるカテーテル治療を受けた患者441人と、REVEAL-AFMR研究で薬物治療を受けた患者640人を対象に調査しました。カテーテル治療を受けた患者と薬物療法を受けた患者の重症度や併存疾患が大きく異なっていたことから、傾向スコアに基づく解析を用いることで患者背景を揃えた集団同士を比較した。患者背景を揃えた集団同士の比較では、カテーテル治療を受けた患者は薬物療法のみを受けた患者と比較し、3年間の追跡期間中の死亡や心不全入院率が良好でした(38.6%対50.7%)。カテーテル治療後退院時の僧帽弁逆流の程度が軽症以下の患者でその傾向は顕著で、死亡や心不全のリスクが薬物療法と比較し約半分でした(ハザード比0.49[95%信頼区間 0.30-0.81])。
図:心房性機能性僧帽弁逆流症に対するカテーテル治療と薬物治療の比較
(予後調査グラフ…縦軸;死亡もしくは心不全入院しなかった割合、横軸;時間(月)、緑線;カテーテル治療群、赤線;薬物治療群)
国内21施設の共同研究であるOCEAN-Mitral研究のカテーテル治療を受けた441人と26施設の共同研究であるREVEAL-AFMR研究の薬物治療を受けた640人の心房性機能性僧帽弁逆流症の調査を行いました。
カテーテル治療を受けた患者は薬物治療の患者と比較し、死亡及び心不全入院率が低く、カテーテル治療を受けた患者では心不全症状、有害事象が少ない結果でした。
■今後の展開
本研究では心房性機能性僧帽弁逆流症に対してカテーテル治療を行った患者の予後が薬物療法を行った患者の予後と比較して良好であることが明らかとなりました。ただし、予後が良好な患者に対してカテーテル治療が選択されていた可能性も否定できません。因果関係として、カテーテル治療が患者の転機を改善するのかということを明らかにするため、今後の介入試験が検討されています。
■用語解説
*1 OCEAN-Mitral研究:慶應義塾大学主導のOptimized Catheter Valvular Intervention (OCEAN-Mitral)と銘打たれた全国21施設からなる前向き多施設共同研究で2018年からカテーテル治療の有効性と安全性を調査している。
*2 REVEAL-AFMR研究:順天堂大学主導のREal-world obserVational study for invEstigAting the prevaLence and therapeutic options for Atrial Functional Mitral Regurgitationと銘打たれた全国26施設からなる後ろ向き多施設共同研究。2019年に26の施設で心エコー検査を行った患者のうち、心房性機能性僧帽弁逆流生症の患者が何例くらいおり、どのような特徴と転機を示したかを調査した。
*3 心房性機能性僧帽弁逆流症:僧帽弁逆流の中でも、左心房が大きく拡大してしまったことから、僧帽弁が届かなくなってしっかり閉じられなくなった状態。この10年ほどで疾患のメカニズムがわかってきた、比較的新しい疾患概念。
*4 経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術:逆流している僧帽弁を特殊なクリップで挟みこむことで僧帽弁逆流を減らす治療。
*5 僧帽弁逆流症:僧帽弁は左心室と左心房の間についている弁であり、左心室から左心房へ血液が逆流することを防いでいます。何かの原因で僧帽弁がしっかり閉じずに血液が逆流する状態のことを僧帽弁逆流症と呼びます。僧帽弁閉鎖不全症と呼ばれることもある。
*6 MitraClip:経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術に用いられるクリップ(アボット社)。
■原著論文
本研究はEuropean Heart Journal誌のオンライン版に2025年7月9日付で公開されました。
タイトル: Transcatheter edge-to-edge repair vs medical therapy in atrial functional mitral regurgitation:a propensity score-based comparison from the OCEAN-Mitral and REVEAL-AFMR registries
タイトル(日本語訳): 心房性機能性僧帽弁逆流症に対する経カテーテル僧帽弁接合不全修復術と薬物療法のプロペンシティスコアを用いた比較:OCEAN-Mitral多施設共同研究とREVEAL-AFMR多施設共同研究による検討
著者: Tomohiro Kaneko1; Nobuyuki Kagiyama1; Shinya Okazaki1; Masashi Amano2; Yukio Sato3; Yohei Ohno4; Masaru Obokata5; Kimi Sato6; Kojiro Morita7; Shunsuke Kubo8; Yuki Izumi9; Masahiko Asami10; Yusuke Enta11; Shinichi Shirai12; Masaki Izumo3; Shingo Mizuno13; Yusuke Watanabe14; Makoto Amaki2; Kazuhisa Kodama15; Hisao Otsuki16; Toru Naganuma17; Hiroki Bota18; Masahiro Yamawaki19; Hiroshi Ueno20; Gaku Nakazawa21; Daisuke Hachinohe22; Toshiaki Otsuka23; Mike Saji9, 24; Masanori Yamamoto25, 26, 27; Kentaro Hayashida28
著者(日本語表記): 金子智洋1)、鍵山暢之1)、岡崎 真也1)、天野雅史2)、佐藤如雄3)、大野洋平4)、小保方優5)、佐藤希美6)、森田光治良7)、久保俊介8)、泉佑樹9)、阿佐美匡彦10)、遠田佑介11)、白井伸一12)、出雲昌樹3)、水野真吾13)、渡邊雄介14)、天木誠2)、兒玉和久15)、大槻尚男16)、長沼亨17)、棒田浩基18)、山脇理弘19)、上野博志20)、中澤学21)、八戸大輔22)、大塚俊昭23)、佐地真育9, 24)、山本真功25, 26, 27)、林田健太郎28)
著者所属: 1)順天堂大学医学部循環器内科学講座、2) 国立循環器病研究センター心不全・移植部門心不全科、3) 聖マリアンナ医科大学循環器内科、4)東海大学循環器内科、5)群馬大学循環器内科、6)筑波大学循環器内科、7)東京大学大学院グローバルナーシングリサーチセンター、8)倉敷中央病院循環器内科、9)榊原記念病院循環器内科、10)三井記念病院循環器内科、11)仙台厚生病院循環器内科、12)小倉記念病院循環器内科、13)湘南鎌倉総合病院循環器科、14)帝京大学循環器内科、15)済生会熊本病院循環器内科、16)東京女子医科大学循環器内科、17)新東京病院心臓内科、18)札幌東徳洲会病院循環器内科、19)済生会横浜市東部病院循環器内科、20)富山大学附属病院第二内科、21)近畿大学循環器内科、22) 札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニック循環器科、23)日本医科大学衛生学公衆衛生学、日本医科大学付属病院臨床研究総合センター、24)東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野、25)豊橋ハートセンター循環器内科、26)名古屋ハートセンター循環器内科、27)岐阜ハートセンター循環器内科、28)慶應義塾大学循環器内科
DOI: 10.1093/eurheartj/ehaf511.
CEAN-Mitral研究はエドワーズライフサイエンス、日本メドトロニック株式会社、ボストンサイエンティフィック, アボットメディカルジャパン合同会社、第一三共の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。REVEAL-AFMR研究はJSPS科研費JP22K20895および上原記念生命科学財団研究奨励金の支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。
OCEAN-Mitral研究およびREVEAL-AFMR研究に参加した研究者および各施設に深謝いたします。また、イラストを提供してくださった西尾詩乃様と、コアラボでのデータ解析を担当してくださった筑波大学循環器内科の南健太郎先生に感謝いたします。