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2025.12.04 (THU)

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音の響きで「ものの手触り」を言い表す力で認知機能低下の早期発見 ―オノマトペを活用した早期認知症診断への機械学習の応用 ―

■発表のポイント

* オノマトペ(擬音語・擬態語)による質感認識検査「SSWTRT」を活用し、認知機能低下のリスク群を予測

* AIの判断根拠を説明するSHAP分析により、特に分類への寄与が大きい画像を発見

* 大規模な高齢者の認知症スクリーニングへの応用と国際展開の可能性

■概要

順天堂大学大学院医学研究科脳神経外科学の中島円准教授と国立大学法人電気通信大学大学院情報理工学研究科の坂本真樹教授らの共同研究グループは、オノマトペ(擬音語・擬態語)(※1)を用いた「Sound Symbolic Word Texture Recognition TestSSWTRT)」と機械学習技術を組み合わせることで、軽度認知障害(MCI)(※2)の早期発見に有用なスクリーニング手法の有効性を検証しました。本研究では、233名の高齢者のデータを用い、Mini-Mental State ExaminationMMSE)スコアとの関連を解析し、SVM(サポートベクターマシーン、教師あり学習のアルゴリズム)による分類モデルで精度0.71F1スコア0.72を達成しました。

本論文はFrontiers in Artificial Intelligence誌のオンライン版に20251029日付で公開されました。

■背景

高齢化の進行に伴い、認知症の早期発見と予防的介入は社会的に喫緊の課題です。従来のMMSEによるスクリーニングは、専門スタッフと時間を要するため、大規模な実施が困難でした。さらに、「認知症と診断されること」への心理的抵抗感(スティグマ)が受診遅れの要因となることも指摘されています。一方、人間は物体の質感を表現する際に「ふわふわ」「ざらざら」などのオノマトペを自然に用います。オノマトペは感覚情報と密接に関連しており、認知機能の変化によってその選択傾向が変わることが知られています。本研究では、質感認知と音象徴語の関係に着目し、軽度認知障害(MCI)に代表される認知機能の低下を非侵襲的かつ簡便に評価する方法を模索しました。

■手法

本研究では、233名の順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経外科外来に来院された高齢者を対象にSSWTRTを実施しました。SSWTRTでは、12枚の素材表面の拡大画像を提示し、8種類のオノマトペからその質感を最もよく表すものを選択します(図1)。回答は健常若年者群の分布と比較してスコア化され、年齢、教育年齢、個別質問スコアを特徴量として、MMSE27群(MCIリスク群)とMMSE28群の分類を試みました。機械学習モデルとして、k近傍法(類似度が高い上位 k 個の学習データで多数決/平均するアルゴリズム)・ランダムフォレスト(複数の「決定木」を使用する、精度の高いアンサンブル学習)・SVMを用い、5-foldクロスバリデーションで最適化を実施。SVMモデル(SMOTE適用)が最も高い性能を示し、Accuracy 0.71Precision 0.72Recall 0.72F1 0.72AUC 0.72を達成しました。

     

中島先生1204画像1

図1:質感を表すオノマトペによる認知症スクリーニング検査Web版の一部

「画像に写るものを触るとどんな手触りがしそうか」をオノマトペで回答してもらい、健常群の平均値と比較して、質感認知能力を判定する。

■研究者のコメント

高齢化社会では増加する認知症への対策は社会課題となっています。治療の観点からも、早期発見が重要であることはいうまでもありませんが、認知症と周囲にわかってしまうことに対するスティグマは、スクリーニングとなる認知機能検査を受けたくないという心理につながります。本研究成果は、一見正解のわからない質感をオノマトペで表現することで、被験者が恥ずかしい思いを受けることなく検査が実行でき、早期に認知症リスクを発見できます。

■成果

本手法により、MMSEによる従来の分類と同等の精度を、短時間かつ非侵襲的な方法で実現可能であることが示されました。さらに、SHAP分析(※3)により、柔らかさや粗さなど特定の質感画像への反応が分類に大きく寄与していることを特定しました。また、モデル精度を高めることで、医療現場や行政による高齢者の認知症スクリーニングへの応用可能性を広げる基盤を築きました。

■今後の期待

本検査は医療従事者がそばにいなくてもタブレット端末などにより短時間で実施できるため、大規模な高齢者の認知症スクリーニングに適しています。今後は、アルツハイマー病など他の認知症タイプへの適用や、多言語対応による国際展開を予定しています。スティグマを軽減した検査手法として、健康診断などへの導入も期待されます。現在、認知症診断と予防効果の検証も目指して、認知症診断&予防ゲームアプリ開発も行っています。なお、本技術は「質感表現評価装置、質感表現評価方法、質感表現評価プログラムおよび質感表現回答シート、特許第6979213(出願人:電気通信大学、出願日:20161021日、登録日2021 1117日)」を活用したものです。

        

中島先生1204画像1

図1:質感を表すオノマトペによる認知症スクリーニング検査Web版の一部

「画像に写るものを触るとどんな手触りがしそうか」をオノマトペで回答してもらい、健常群の平均値と比較して、質感認知能力を判定する。

■論文情報

本研究はFrontiers in Artificial Intelligence誌のオンライン版に20251029日付で公開されました。

タイトルMachine Learning-Based Detection of Mild Cognitive Impairment Using SSWTRT: Classification Performance and Decision Analysis

著者Yuji Nozaki, Chihiro Kamohara, Ryota Abe, Taiki Ieda, Madoka Nakajima, Maki Sakamoto

著者(日本語表記):野崎裕二1)、蒲原千尋2)3)、阿部良太1)、家田大希1)、中島円2)、坂本真樹1)

著者所属1) 電気通信大学大学院情報理工学研究科、2) 順天堂大学大学院医学研究科脳神経外科学、3) 順天堂大学大学院医学研究科老人性疾患病態・治療研究センター

DOI: 10.3389/frai.2025.1689182

■外部資金情報

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP20H05957, JP20K09355, JP20K09398, JP22H03675, JP23K18985, JP23K24931, JP24K10497, JP25K03207)の支援を受け、施設との共同研究のもと実施されました。

■用語説明

※1 オノマトペ(擬音語・擬態語):「ふわふわ」「さらさら」「ざらざら」など、擬音語・擬態語の総称

※2 軽度認知障害(MCI):認知症と正常の中間状態で、記憶力や注意力の低下があるが日常生活に支障はない

※3 SHAP分析:機械学習モデルの予測要因を定量化し可視化する手法