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NK/T細胞リンパ腫の新たな治療法への道を拓く新規抗体「mAb ANAP」を開発 ― 正常細胞を傷つけずにがん細胞のみを選択的に破壊 ―

順天堂大学 大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの松岡周二 特任准教授と、同医学部産婦人科学講座の武内詩織 助手らの研究グループは、治療抵抗性が高いことで知られる悪性リンパ腫であるNK/T細胞リンパ腫*1に対し、新規細胞死機構「アナポコーシス」2を介して腫瘍細胞死を誘導するモノクローナル抗体3(mAb ANAP)を開発しました。NK/T細胞リンパ腫は主に鼻腔に発症する希少疾患で、日本を含む東アジアに多く、標準治療が十分に確立されていません。本研究成果は、新たな抗体治療開発につながる可能性を示すもので、他の悪性リンパ腫や一部の固形がんへの応用も期待されます。

本成果はScientific ReportsNature Portfolio)に20251230日(日本時間)に公開されました。

本研究成果のポイント

  • NK/T細胞リンパ腫に対する新規モノクローナル抗体「mAb ANAP」の開発に成功
  • 従来の抗体とは異なる独自のメカニズムで、がん細胞表面に直径約3μmの巨大な穴を形成し、20分以内に細胞死を誘導
  • 正常細胞には影響を与えず、がん細胞のみを選択的に攻撃
  • 標的分子はITGA4CD49d4だが、既存の抗ITGA4抗体にはない細胞破壊活性を持つ
■背景

NK/T細胞リンパ腫は、東アジアおよびラテンアメリカで多く見られる極めて悪性度の高いリンパ腫です。特に鼻腔型節外性NK/T細胞リンパ腫(ENKL)は、日本では歴史的に「ロットン・ノーズ病(鼻腐れ病)」と呼ばれ、鼻腔や周辺組織を急速に破壊する致死的な疾患として知られています。現在の治療法であるL-アスパラギナーゼを含むSMILE療法を用いても、5年生存率は50%未満にとどまっており、新たな治療法の開発が急務とされていました。B細胞リンパ腫に対してはリツキシマブなどの抗体療法が成功を収めている一方で、NK/T細胞リンパ腫に対する効果的な抗体療法はこれまで存在していませんでした。

■内容

研究グループは、独自に確立したスクリーニング手法を用いて、NK/T細胞リンパ腫に対して直接的な細胞破壊活性を示す新規モノクローナル抗体「mAb ANAP」を開発しました。本抗体は、補体活性化や抗体依存性細胞傷害(ADCC)、カスパーゼ活性といった従来知られている免疫学的な細胞死メカニズムに依存せず、がん細胞表面に直径約3μmという極めて大きな穴を形成することで、投与後わずか20分以内に細胞死を誘導します。この穴は、補体やパーフォリンによって形成される穴の100倍以上の大きさに相当し、研究グループはこの全く新しい細胞死の様式を「アナポコーシス(anapocosis)」と命名しました。mAb ANAPは、NK/T細胞リンパ腫細胞に対して極めて高い選択性と強力な細胞破壊活性を示し、そのEC5050.12 µg/mLと低濃度で有効です。一方で、正常リンパ球や健常者由来の末梢血細胞には影響を与えず、安全性の面でも優れていることが確認されました。また、複数のNK/T細胞リンパ腫細胞株において一貫した有効性が認められています。

本抗体の標的分子はインテグリンα4ITGA4CD49d)であり、既存の抗ITGA4抗体であるナタリズマブや9F10とは異なるエピトープを認識します。そのため、これら既存抗体では見られない直接的な細胞破壊活性を有している点が、本研究の大きな特徴です。

松岡先生画像1

図:NK/Tリンパ腫細胞にANAP抗体の添加後30分で大きな穴があいた電験像

新たなアナポコーシス抗体によって、がん細胞は大きな穴が開いて殺されます。アナポコーシス抗体には正常細胞は決して殺さないという特徴もあります。

研究の意義と今後の展望

本研究で開発されたmAb ANAPは、これまで有効な抗体療法がなかったNK/T細胞リンパ腫に対する新たな治療法の可能性を提供します。従来の免疫学的メカニズムとは異なる独自の細胞死誘導機構で、正常細胞を傷つけず、がん細胞のみを標的としてわずか20分以内という短時間で細胞死誘導します。

製薬会社、ベンチャーの協力をいただき、臨床応用に向けた開発に向かいたいと考えています。

■用語解説

*1 NK/T細胞リンパ腫: ナチュラルキラー(NK)細胞またはT細胞由来の悪性リンパ腫。東アジアとラテンアメリカに多く、極めて悪性度が高い。

*2 アナポコーシス(anapocosis): 研究グループが命名した新しい細胞死のタイプ。「穴」を意味する日本語に由来し、「アポトーシスではない(not-apoptosis)」細胞死を意味する。

*3 モノクローナル抗体: 単一の抗体産生細胞から作られた、特定の標的に結合する均一な抗体。がん治療において重要な役割を果たす。

*4 ITGA4(CD49d): インテグリンα4サブユニット。α4β1リンパ球ホーミング受容体VLA-4の構成要素。

*5 EC50値: 50%の細胞死を引き起こすのに必要な抗体濃度。値が低いほど効果が高いことを示す。

■原著論文

本研究はScientific Reports誌のオンライン版に20251230日付で公開されました。

タイトル: Novel anti-ITGA4 monoclonal antibody induces cell death via large pore formation in NK/T-cell lymphoma cells

タイトル(日本語訳): 新規抗ITGA4モノクローナル抗体は、NK/T細胞リンパ腫細胞に巨大な穴を開けて細胞死を誘導する

著者: Shiori Takeuchi1,2), Yasuhiko Ito2), Shuji Matsuoka2,3), Masaaki Abe2), Hiromichi Tsurui2), Yoshiya Horimoto4), Takeshi Fukuhara5,6), Takeshi Hirano2), Natsuko Mizutani2,7), Takumi Ito8), Ryo Hatano8), Atsuhito Nakao9,12), Yasuhisa Terao1), Mari Kitade1), Yoshitomo Hamano2), Hiroyuki Takamatsu10), Hiroshi Matsuoka11), Tetsuya Nakatsura3), Hideo Yagita2), Ko Okumura12), Atsuo Itakura1)

著者(日本語表記): 武内詩織1,2), 伊藤恭彦2), 松岡周二2,3) 阿部雅明2), 鶴井博理2), 堀本義哉4),福原武志5,6), 平野健志2), 水谷奈津子2,7), 伊藤匠8), 波多野良8), 中尾篤人9,12), 寺尾泰久1), 北出真理1)、濱野慶朋2), 高松博幸10)、松岡広11)、中面哲也3),八木田秀雄2), 奥村康 12),板倉淳夫1)

著者所属: 1)順天堂大学産婦人科学講座、2)順天堂大学免疫診断学講座、3) 国立がん研究センター先端医療開発センター免疫療法開発分野、4)東京医科大学乳腺科学、5)理化学研究所脳神経科学研究センター神経変性疾患連携研究チーム、6) 順天堂大学免疫疾患およびがんの治療開発・イノベーション学講座、7) 杏林大学保健学部臨床検査技術学科、8)順天堂大学大学院医学研究科 免疫病・がん先端治療学講座、9) 山梨大学医学部免疫学講座、10) 金沢大学 学際科学イノベーション学域学際科学イノベーション研究所、11) 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 腫瘍内科・血液内科、12)順天堂大学アトピー疾患研究センター

DOI: 0.1038/s41598-025-32892-0   

    

本研究は、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「先進動物モデル支援プラットフォーム」(KAKENHI JP16H06276)、がん研究のための抗がん剤スクリーニング委員会の支援により実施されました。