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スマホアプリで収集したデータから花粉症の症状と黄砂・PM2.5の関連を評価 〜スマホアプリを用いたクラウドソース観察研究〜

順天堂大学医学部眼科学講座の梛野 健 研究員、猪俣 武範 准教授、中尾 新太郎 教授らの研究グループは、花粉症研究用スマートフォンアプリケーション(スマホアプリ)「アレルサーチ®※1」を用いて、花粉症の症状と黄砂・PM2.5※2飛散量の関連と、黄砂・PM2.5飛散時に花粉症の症状が増悪する方の特徴を評価しました。

花粉症の症状と黄砂・PM2.5の関連を解明できれば、黄砂・PM2.5による花粉症症状の増悪予防や、黄砂・PM2.5によって症状が増悪しやすい方への暴露回避の提案といった対策を実現できる可能性があります。

本研究は学術雑誌Allergology International誌のオンライン版に2025年12月17日付で掲載されました。

本研究のポイント

  • 花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ®」で収集したデータを解析し、花粉症の自覚症状と黄砂・PM2.5の関連を評価した
  • 黄砂・PM2.5飛散量は、花粉の飛散量とは独立して花粉症の自覚症状と有意な関連を示した
  • 黄砂・PM2.5によって症状が増悪しやすい可能性のある方に対し、スマホアプリを通じた情報提供や黄砂・PM2.5飛散量の事前の通知を行うことで、黄砂・PM2.5による花粉症症状増悪を抑制できる可能性がある
■研究の背景と目的

花粉症は世界人口の10%から40%、国内では約5,000万人が罹患しているとされる最も一般的なアレルギー疾患です。日本では毎年2月から5月にかけて症状がピークを迎えるスギやヒノキ花粉による花粉症が最も一般的です。花粉症の症状としては、鼻水やくしゃみといった鼻症状、眼のかゆみや充血といった眼症状、皮膚のかゆみといった全身の症状が現れます。また、それらの症状によって生活の質 (QoL)を低下させるのみならず、症状による労働生産性の低下や治療による医療費の増大を通じて多大な経済的損失を引き起こすことが問題となっています。

花粉症症状の原因は花粉の暴露のみならず多岐にわたり、年齢や性別、遺伝といった個々人によって異なる特性である宿主因子、個々人の生活習慣や環境因子が複雑に関連します。花粉症症状に関連する環境因子の一つとして黄砂・PM2.5の関連が知られています。黄砂は中国北部の乾燥地帯やモンゴルの砂漠地帯を起源とする気象現象であり、日本や朝鮮半島では、スギ花粉の飛散時期と同時期の毎年2月から5月にかけて多く観測されます。また、黄砂の粒子にはPM2.5といった大気中の化学物質が付着しており、黄砂・PM2.5どちらも花粉症に関連している可能性が示唆されています。

しかし、花粉や黄砂・PM2.5の飛散量は地域差が大きく、従来の医療機関で局地的に実施された調査だけでは、花粉症患者の日常生活圏の変化と花粉症症状の関連を詳細に捉えることが難しいという課題がありました。そのため、黄砂・PM2.5暴露による花粉症症状の増悪の程度や、花粉と黄砂・PM2.5によって引き起こされる花粉症症状の違い、黄砂・PM2.5によって症状が増悪しやすい方の特徴については、これまで十分に解明しきれていませんでした。

そこで本研究では、黄砂・PM2.5飛散と花粉症症状の関連と、黄砂・PM2.5によって症状が増悪しやすい方の特徴を特定することを目的に、当研究グループが開発した花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ®」を通じて収集したデータを解析しました。

■研究の方法

本研究では、花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ®」 (図1)に搭載した電子質問紙票を用いてデータを収集しました。2018年2月1日から2023年5月31日にかけて日本国内から収集されたデータのうち、花粉症であると回答した参加者のデータを解析対象としました。参加者はスマホアプリを通じて鼻症状と非鼻症状から構成される9項目の花粉症症状スコアや、日本アレルギー性結膜疾患標準QOL調査票 (JACQLQ)に基づくQoLスコアを回答しました。また、参加者より提供された位置情報 (都道府県単位) をもとに、回答時点の花粉飛散量および黄砂・PM2.5飛散量を回答結果と紐づけました。解析では、花粉と黄砂・PM2.5飛散量によって参加者6,468名を4つの群 (花粉と黄砂・PM2.5どちらも少ない群(4,152名)、花粉が多い群(321名) 、黄砂・PM2.5が多い群(1,618名) 、花粉と黄砂・PM2.5どちらも多い群(377名)) に分類し、花粉症症状スコアおよびQoLスコアを比較しました。また、多変量解析によって花粉症症状スコアおよびQoLスコアと、花粉飛散量と黄砂・ PM2.5飛散量のそれぞれ独立した関連を評価しました。さらに、黄砂・PM2.5飛散時に花粉症症状増悪を自覚すると申告した参加者のデータから、黄砂・PM2.5によって症状が増悪しやすい方の特徴を評価しました。

        猪俣先生画像1

図1:花粉症研究用スマホアプリ「アレルサーチ®」

■研究の結果

参加者6,468名から得られたデータを解析したところ、花粉と黄砂・PM2.5飛散量が少ない場合と比較して、黄砂・PM2.5飛散量が多い場合は、9項目の花粉症症状のうち7項目(鼻水、鼻づまり、鼻のかゆみ、くしゃみ、日常生活への影響、眼のかゆみ、眼の赤みの症状スコア)、およびQoLスコアが有意に増悪していました。花粉飛散量が多い場合と、花粉と黄砂・PM2.5飛散量がどちらも多い場合は、 9項目の花粉症症状すべてとQoLスコアが有意に増悪していました。

また、黄砂・PM2.5は花粉飛散量とは独立して花粉症症状スコアおよびQoLスコアと有意な関連を示し、花粉および黄砂・PM2.5と各症状の関連は特徴が異なる可能性が示されました (図2)。

    

猪俣先生画像2

2: 花粉および黄砂・PM2.5飛散量と花粉症症状の関連

A: 花粉飛散量と花粉症症状スコアの関連の特徴 B: 黄砂・PM2.5飛散量と花粉症症状スコアの関連の特徴バーの大きさが各症状と花粉または黄砂・PM2.5飛散量との関連の程度を示しています。

    

黄砂・PM2.5飛散時の花粉症症状の増悪に関する質問に回答した973名のうち、368名 (37.8%)は増悪を自覚すると回答しました。また、多変量解析の結果、黄砂・PM2.5飛散時の症状増悪と関連する因子として、女性、アトピー性皮膚炎・気管支喘息・ドライアイの既往、花粉症薬の内服、空気清浄機の使用が明らかになりました。ただし、内服薬や空気清浄機の使用は、黄砂・PM2.5による症状増悪のリスク因子ではなく、症状が強いために使用している方が多いことを示唆している可能性があります。

■今後の展開

本研究では、黄砂・PM2.5飛散と花粉症症状の関連や、黄砂・PM2.5飛散時に症状増悪を自覚する方の特徴が明らかになりました。今後は、スマホアプリを通じて花粉や黄砂・PM2.5飛散に関する事前通知や、ユーザーの花粉症症状の特徴や有しているリスク因子に最適化された予防行動を提案することで、花粉症症状の抑制や増悪の予防、また花粉症症状による労働生産性低下の軽減を実現できる可能性があります。

■原著論文

タイトル: Association between yellow dust, PM2.5, and hay fever: A large-scale crowdsourced observational study using the AllerSearch smartphone application

(日本語訳: 花粉症と黄砂・PM2.5の関連: スマートフォンアプリケーション「アレルサーチ」を用いたクラウドソース観察研究)

著者 (日本語表記): 梛野健1,2,3、猪俣武範1,2,3,4、海老原伸行5、緑川-猪俣明恵1,3、藤尾謙太2、小林弘幸1、中尾新太郎2

著者所属: 順天堂大学大学院医学研究科 1病院管理学研究室, 2眼科学講座, 3遠隔医療・モバイルヘルス研究開発講座, 4データサイエンス, 5順天堂大学医学部附属浦安病院眼科

掲載誌: Allergology International

URL: https://doi.org/10.1016/j.alit.2025.11.008

DOI: 10.1016/j.alit.2025.11.008

■用語解説

※1 アレルサーチ®:  2018年2月に順天堂大学医学部眼科学講座(研究代表者: 猪俣武範)が開発した花粉症研究のためのスマートフォンアプリケーション。花粉症症状や花粉症患者の方の特徴、花粉飛散量、黄砂・PM2.5飛散量といったデータの計測が可能。なお、アレルサーチ®の商標は順天堂大学発ベンチャーであるInnoJin株式会社が保有します。

※2 黄砂・PM2.5 (Particulate matter 2.5):  黄砂は中国北部の乾燥地帯やモンゴルの砂漠地帯を起源とする鉱物粒子が、偏西風などにより日本を含む東アジア地域に飛来する気象現象。PM2.5は空気中に浮遊する粒子状物質のうち、空気力学的直径2.5µm以下の小さな粒子であり、化石燃料の燃焼や工場の煤煙、自動車排出ガスを由来として発生する。黄砂粒子は飛来中にPM2.5を含む大気中の化学物質を吸着することがあり、黄砂・PM2.5がとともに飛来することで大気汚染の一因となる。

■本研究に関わる助成金

本研究は、AMED (JP20ek0410063)、JST FORESTプログラム (JPMJFR234I)、JSPS科研費 (JP23K19810, JP23K16364, JP25K20516, JP25K20211)、順天堂大学環境・性差医療研究所、一般財団法人OTCセルフメディケーション推進財団、および公益財団法人田沼グリーンハウス財団の支援を受けて実施されました。しかし、研究および解析は研究者が独立して実施しており、助成元が本研究結果に影響を及ぼすことはありません。本研究にご協力いただいた参加者の皆様に深謝いたします

■順天堂大学について

順天堂大学は、9学部6研究科6附属病院からなる健康総合大学・大学院大学として、「教育」「研究」「診療・実践」の3つの柱を通じて国際レベルでの社会貢献と人材育成を進めています。1838年に西洋医学教育機関として始まり、現在は医学、スポーツ健康科学、医療・看護学、保健医療学、国際教養、健康データサイエンス、薬学といった幅広い領域で教育・研究を展開しています。(https://www.juntendo.ac.jp/