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2026.04.02 (THU)
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眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo」による強膜圧迫を行わない周辺部網膜観察に成功 ~順天堂大学におけるFirst-in-Human比較試験の成果~
順天堂大学 大学院医学研究科眼科学の中尾 新太郎 主任教授らの研究グループは、眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo」*1を用い、網膜硝子体手術において従来必須であった「強膜圧迫」*2を行わずに周辺部網膜を観察する比較試験(First-in-Human)を実施しました。従来の手術では周辺部網膜を観察するために強膜圧迫を行う必要があり患者に痛みなどの負担が生じる点が課題とされていました。本研究では、患者16名を対象にロボット群と従来法群に分け比較した結果、術後の炎症の程度は従来法と同等であり、術中合併症はなく安全性が確認されました。本成果は、患者の身体的負担を軽減する新たな手術手法の確立に寄与するのみならず、今後の眼科分野におけるロボット手術の普及と発展を大きく推し進めるものです。
本論文は『Ophthalmology Science』誌のオンライン版に2026年2月5日付で公開されました。
本研究成果のポイント
- 眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo」を用いた強膜圧迫を行わない網膜周辺部観察と従来法の有用性・安全性に関する比較検証を実施
- ロボット群では圧迫なしでの周辺部観察に成功し、術後炎症等の評価において従来法と同等の高い安全性を確認
- 患者の身体的負担軽減に加え、将来の眼科ロボット手術の発展に期待
■背景
失明に至る網膜剥離などに対して行われる網膜硝子体手術において、周辺部網膜の観察は病変の治療や合併症予防のために不可欠です。従来、この観察には眼球の外側から白目を押し込む「強膜圧迫」という手技が用いられてきましたが、患者に強い痛みや不快感を与え、術後の炎症を引き起こす原因となっていました。また、術者の片手が塞がるため、両手を用いた細やかな操作が制限されるという課題もありました。近年、医療分野でロボット手術が普及する中、われわれは眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo(オクリモ)」の開発に携わってきました。本研究は、OQrimoを用いることで、患者の身体的負担となる強膜圧迫を行わずに周辺部網膜を観察する、新しい眼科ロボット支援手術の安全性と有用性を検証することを目的としました。
■内容
本研究では、黄斑前膜*3に対する25ゲージ硝子体手術および白内障同時手術を予定している患者16名(16眼)を対象としました。眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo」を用いて強膜圧迫を行わずに周辺部網膜を観察する「ロボット群」(8眼)と、従来の強膜圧迫法を用いる「従来群」(8眼)に分け、有効性と安全性を比較検証しました。その結果、ロボット群では87.5%(7/8眼)の症例で、強膜圧迫を行わずに周辺部網膜の観察に成功しました。ロボットが保持した内視鏡による周辺部網膜の観察範囲は、時計の文字盤(12時間)に換算して平均9.29(±2.13)時間分に達し、広範囲の観察が可能であることが示されました。安全性については、ロボット群の手術時間は従来群より延長したものの、術後3時間、24時間、1週間における眼内の炎症度合い(前房フレア値)や、術後1日目の患者の痛みのスコアにおいて、両群間に有意な差は認められませんでした。また、ロボット群において創傷治癒は問題なく、両群ともに重篤な手術合併症は観察されませんでした。これらの結果から、眼内内視鏡保持ロボットを用いた強膜圧迫非併用での周辺部網膜観察は、従来法と同等の高い安全性を保ちながら実施可能であることが実証されました。本成果は、痛みを伴う強膜圧迫を不要にし患者の身体的負担を軽減するだけでなく、今後の眼科領域におけるロボット支援手術の社会実装を大きく推し進める重要な成果です。

図1:眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo」を用いた周辺部網膜観察
(左)OQrimoの外観。(右上)OQrimoに保持された眼内内視鏡を模型眼に挿入した様子。(右下)OQrimoに保持された内視鏡による周辺部網膜の実際の観察画像。
■今後の展開
今回、研究グループは眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo」を用いることで、これまで患者の身体的負担となっていた強膜圧迫を行わずに、周辺部網膜を安全に観察できることを実証しました。現在のロボット保持内視鏡では観察の死角が一部残りますが、今後はより広角な視野を持つ内視鏡や湾曲型の内視鏡の開発により、さらに包括的な周辺部観察が可能になると考えられます。本手法により眼科手術において執刀医が両手を使った操作を持続できるため、現在の複雑な網膜硝子体手術への応用や、眼科ロボット手術の発展が期待されます。今後も本システムのさらなる手術効率化や社会実装に向けた研究を推進し、より多くの患者に侵襲が少なく身体的負担が少ない安全な眼科医療を提供することを目指します。
■用語解説
*1 眼内内視鏡保持ロボット「OQrimo(オクリモ)」: 眼内内視鏡を術者の代わりに保持し、ペダル操作等で細かな位置調整ができる医療用ロボット。内視鏡でしか観察できない部分を観察しながら術者が両手を使って精密な手術操作を行うことを可能にする。
*2 強膜圧迫: 網膜硝子体手術において、眼球内の周辺部を観察するために、眼球の外側(白目)から専用の器具で眼球を押し込む手技。患者に痛みや不快感を伴うことが多い。
*3 黄斑前膜: 網膜の中心部であり視力を司る「黄斑」の表面に線維性の膜が張る疾患。視力低下や、ものがゆがんで見える(変視症)などの症状を引き起こす。
研究者のコメント
本研究は、眼科手術におけるロボット支援技術の大きな可能性を示す第一歩です。従来の網膜硝子体手術では、網膜の隅々まで確認するために患者さんに痛みを伴う処置が必要であり、術者にとっても片手が塞がるという制限がありました。OQrimoを用いることで、これらの課題を克服できるだけでなく、将来的には人間の手技の限界を超えるような超高精度な治療への道が開かれます。今後も臨床現場のニーズに応える技術開発とエビデンスの構築を進め、眼科医療の発展に貢献していきたいと考えております。
■原著論文
本研究は「Ophthalmology Science」誌のオンライン版に2026年2月5日付で公開されました。
タイトル: Robot-Assisted Peripheral Retinal Visualization During Vitrectomy Without Scleral Depression: A First-in-Human Comparative Study
タイトル(日本語訳): 強膜圧迫を行わない網膜硝子体手術におけるロボット支援周辺部網膜観察:First-in-Human比較試験
著者: Kenta Ashikaga1,2, Yoshihito Sakanishi1,2, Toshiaki Hirakata1,2, Shutaro Yamamoto1, Ayumi Usui-Ouchi1,2, Koh-Hei Sonoda3, Shintaro Nakao1,2
著者(日本語表記): 足利 健太1,2)、坂西 良仁1,2)、平形 寿彬1,2)、山本 修太郎1)、大内(臼井) 亜由美1,2)、園田 康平3)、中尾 新太郎1,2)
著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科眼科学、2)順天堂何氏先端眼科技術研究室、3)九州大学大学院医学研究院眼科学分野
DOI: 10.1016/j.xops.2026.101105
本研究の実施にあたり、ご協力いただいた皆さまには心より深謝いたします。