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医学生を対象とした動画教材による診断エラー教育の検証研究 ― 従来の紙ベースの教材との比較 ―
順天堂大学医学部総合診療科学講座の宮上泰樹 助教、古坂聖子 助手、近藤慶太 大学院生、内藤俊夫 主任教授と横浜市立大学総合診療科の石塚晃介 講師らの共同研究グループは、医学生において効果的な診断エラー教育ツールを開発しました。診断エラーは日常診療の5-10%程度に生じてしまう事象ですが、起きてしまうとその約半数は治療に遅れを及ぼすと言われています。診断エラーを減らすためには、診断エラーの教育を行う必要があり、これまで医学生に対する教育方法について研究が行われてきましたが、有効な教育方法はありませんでした。本研究では、医学生を対象に動画によるシミュレーション教育を行ったところ、従来の紙ベースの教育と比較して、危険な疾患やハイリスクな状況に気付きやすいことを証明しました。
本論文はScientific Reports誌のオンライン版に2025年12月11日付で公開されています。
本研究成果のポイント
- 医学生を対象に診断エラーを学ぶ効果的な教材を検証した
- 動画教材の方が紙教材より危険な疾患やハイリスクな状況に気付きやすかった
- 動画ベースの教材は診断エラーの状況が理解出来、没入感が出るため理解が深まることがわかった
■背景
診断エラーは、患者の誰しもが一度は経験すると言われる事象で日常診療の5-10%に生じていると言われています。一方で診断エラーは発生の約半数で治療の遅れが生じ、医療訴訟の原因としても最も多いです。さらに、診断エラーを起こした医師はその後の診療で不確実性の高い患者や成功率の低い手技を避けるといった過剰な防御行動に繋がり医師の診療姿勢にも影響を及ぼすと言われています。そのため診断エラーを減らすことが重要です。これまで医師や研修医においては臨床の知識を深めることや症例を振り返る事が診断エラーを減らすと報告されていました。しかし、医学生に対しては効果的な教育はありませんでした。その理由の一つとして医学生は診断を行わないため、診断エラーを自身のことと思えないことが挙げられます。しかし、医学生から研修医になるのはあっという間であり、臨床の現場では診断エラーを起こすリスクは常にあります。そのため診断エラーを学生時代から学ぶ必要があるのです。
■内容
本研究は、全国の医学生を対象にメーリングリストやSNSなどを用いて募集しました。113名の参加者は、ランダムに動画教材群(57名)と紙教材群(56名)に割り振られ、それぞれ合計30分程度の診断エラー症例について学習しました。学習の前後に診断エラーに関する知識や理解についてのアンケートを実施し、加えて、動画教材群には、紙教材群と比べてどのように効果的であったかについても回答してもらいました。その結果、動画教材群の方が、危険な疾患やハイリスクな状況に気付きやすいことが分かりました。(平均変化:動画1.6 ± 1.9 vs.紙 0.9 ± 1.3; P = 0.019)その他の「患者視点で診断エラーを考える、生物社会心理的な視点で診断エラーをとらえる、診断エラーを学ぶことへの意欲、診断エラーへの罪の意識や羞恥心」など、全ての項目において両群で介入前と比較して明らかに介入後に評価が改善傾向であり、診断エラー教育自体は医学生にとって効果的であると考えられました。これまでの医学生を対象とした研究のアウトカムは臨床能力や知識が中心であり、この研究結果は新たな視点であると言えます。動画教材の利点としては、没入感や患者の感情や診断エラーを起こす状況の理解などが挙げられました。本結果によりこれまでの診断エラー教育が大きく変わる可能性があると考えます。動画教材を使用することで診断エラーを医師-患者の視点で学ぶことができ、医師にとって重要な能力である危険な疾患の見極めやハイリスクな状況により気付けるようになることはとても大事な視点だと思います。

図1:本研究で明らかになった診断エラー教育のメカニズム
■今後の展開
動画による診断エラー教育の効果が実証されたことで、動画教材は診断エラーを重要なこととして身近に感じることができるツールであると確信しています。今後は、いかに医療教育の現場に診断エラー教育を導入していけるかについて取り組んでいきたいと考えています。さらに、診断エラーをより学びやすくするため、新たに体験型ゲームを作成しています。 このゲームを通じて、学習者が主体的に考えながら診断プロセスを追体験し、診断エラーの発生要因や気づきのポイントをより深く理解できることを目指しています。そして、今回のようにアンケート回答形式のみでなく、実際に診断エラーに気付けるかどうかをVRなどのツールを用いてシミュレーションベースで学べる教材の開発にも取り組もうと思っています。最終的には、医療教育現場に動画教育や体験型ゲーム教材が大きく広まることで、診断エラーを減らすことに寄与することを強く願っています。
研究者のコメント
私はこれまで7年ほどかけて、診断エラーに関する研究をいくつも行ってきました。日本病院総合診療医学会で診断エラーのWorking groupを立ち上げ、さまざまな活動をしていく中で、結果として診断エラーを知ってもらうこと、理解してもらうことの教育が重要だと気付きました。今回の研究は診断エラー教育にとって重要な一歩になる可能性があります。
この研究が日本の医師・患者さんにとって少しでも役に立つことを心より願っております。
■原著論文
本研究はScientific Reports誌のオンライン版に2025年12月11日付で公開されました。
タイトル: A mixed methods study comparing video based and paper based diagnostic error education for medical students
タイトル(日本語訳): 医学生を対象とした動画ベースと紙ベースの教育を比較した混合研究
著者: Taiju Miyagami 1, Kosuke Ishizuka 2, Seiko Furusaka-Kushiro 3, Keita Kondo 3, Kotaro Kunitomo 4, Koya Akutagawa 5, Takashi Watari 6, Taku Harada 7, Hiroshi Ito 8, Takayuki Ando 9, Tetsuya Hiyoshi 10, Yukinori Harada 11, Shun Yamashita 12 13, Yuji Nishizaki 3 14, Taro Shimizu 11, Katie E Raffel 15, Toshio Naito 3
著者(日本語表記): 宮上泰樹1)、石塚晃介2)、古坂(久代)聖子1)、近藤慶太1)、國友耕太郎3)、芥川晃也4)、和足孝之5)、原田拓6)、伊東完7)、安藤崇之8)、日吉哲也9)、原田侑典10)、山下駿11)、西﨑祐史12)、志水太郎10)、ラファエルケイティ13)、内藤俊夫1)
著者所属: 1)順天堂大学医学部総合診療科学講座、2)横浜市立大学総合診療科、3)熊本医療センター、4)亀田メディカルセンター、5)京都大学、6)練馬光が丘病院、7)筑波大学総合診療科、8)慶応大学総合診療科、9)福岡大学総合診療科、10)獨協医科大学総合診療科、11)佐賀大学総合診療科、12)順天堂大学医学教育学講座、13)Universitey of Colorado
DOI: 10.1038/s41598-025-32339-6
本研究は文部科学省科学研究費JP25K20554を基に実施されました。
なお、本研究にご協力いただいた医学生の皆様、動画作成してくださったMediaitiveの皆様には深謝いたします。