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アトピー性皮膚炎患者の「触れるとかゆい」症状と相関する血液マーカーを発見 ― デュピルマブ治療後も残る機械的かゆみ過敏の病態理解に新たな手がかり ―

順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センターの宇藤優 大学院生、古宮栄利子 准教授(薬学研究科准教授)、冨永光俊 教授、髙森建二 特任教授らの研究グループは、アトピー性皮膚炎患者を対象とした臨床研究により、通常ではかゆみを生じない軽い機械刺激1によって誘発される「機械的かゆみ過敏2」の強さが、血清中のTARC 3値と正に相関することを発見しました。これまでの基礎研究では、インターロイキン(IL)-4IL-13などの2型サイトカイン4が機械的かゆみ過敏に関与する可能性が示されてきました。今回の患者さんでも、IL-4/IL-13シグナルを阻害するアトピー性皮膚炎治療薬デュピルマブ5の連続的な服用により同症状は軽減しましたが、治療後に残るかゆみ過敏の強さは再び血清TARC値と相関しました。本成果は、アトピー性皮膚炎の機械的かゆみ過敏の病態理解を深めるとともに、デュピルマブ治療後に残存し得るかゆみ過敏の新たな治療標的探索に役立つ可能性を示すものです。

本論文はActa Dermato-Venereologica誌のオンライン版に202669日付で公開されました。

本研究成果のポイント

  • アトピー性皮膚炎患者を対象に、機械的かゆみ過敏と皮膚乾燥指標・疾患重症度・炎症・アレルギー関連血液マーカーとの関連を解析
  • 血清TARC値が、機械的かゆみ過敏の強さと相関することを発見
  • デュピルマブ治療後に残る機械的かゆみ過敏の病態解明と新たな治療標的探索へ
■背景

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと湿疹を繰り返す慢性の皮膚疾患で、何もしなくても生じる「自発的かゆみ」に加え、衣服のこすれや軽い接触など、通常ではかゆみを起こさない機械刺激で誘発される「機械的かゆみ過敏」がしばしば認められます。この症状は特に皮疹部6で強く、掻くことにより皮膚炎を悪化させる一因と考えられます(図1)。一方、アトピー性皮膚炎の特徴として、皮膚の乾燥や炎症・アレルギー関連血液マーカー7の上昇が知られていますが、これらと機械的かゆみ過敏との関係は十分に分かっていませんでした。また、動物実験ではIL-4IL-13などの2型サイトカインが機械的かゆみ過敏に関与する可能性が示されてきましたが、ヒトでの検証は十分ではありませんでした。そこで本研究では、健常者とアトピー性皮膚炎患者を比較し、皮膚の乾燥レベル、疾患重症度、と機械的かゆみ過敏との関連を解析するとともに、デュピルマブ治療例を追跡し、機械的かゆみ過敏の変化を検討しました。

      

古宮先生画像1

図1:機械的かゆみ過敏は皮膚炎を悪化させる一因と考えられている 

通常ではかゆみを引き起こさない程度の弱い機械刺激によって、かゆみが誘発される現象を「機械的かゆみ過敏(機械的アロネーシス)」と呼ぶ。衣服のこすれや髪の毛の接触、軽い接触だけでなく、掻くこと自体も機械刺激となるため、掻く行為によってさらなるかゆみが誘発されると考えられている。その結果、かゆみ、掻破(掻く行為)、皮膚炎の悪化、さらなるかゆみが繰り返される悪循環、すなわち「itch–scratch cycle」が生じる。機械的かゆみ過敏の誘発機序を解明することは、この悪循環を断ち切る新たな治療法の開発につながる可能性がある。

■内容

本研究では、健常者とアトピー性皮膚炎患者を対象に、3つの段階で臨床研究を実施しました。第1段階では、健常者30名とアトピー性皮膚炎患者32名を比較し、自発的なかゆみ、機械的かゆみ過敏、皮膚の乾燥レベル(経皮水分蒸散量8および角層水分量9)を評価しました。第2段階では、アトピー性皮膚炎患者24名を対象に、機械的かゆみ過敏の強さと、疾患重症度(eczema area and severity index, EASI10)や、好酸球数11IgE12TARCなどの炎症・アレルギー関連血液マーカーとの関連を解析しました。最後に第3段階では、デュピルマブ治療を選択したアトピー性皮膚炎患者を前向きに追跡し、9回以上の服用を完了した10名について、治療前後の機械的かゆみ過敏と炎症・アレルギー関連血液マーカーの変化を解析しました。

その結果、第1段階の評価により、機械的かゆみの強さは健常者の皮膚やアトピー性皮膚炎患者の非皮疹部と比べ、アトピー性皮膚炎の皮疹部で有意に高いことが確かめられました。一方で、経皮水分蒸散量や角層水分量などの皮膚の乾燥レベルは、自発的なかゆみや機械的かゆみ過敏の強さとは明確な相関を示しませんでした。第2段階では、EASI、好酸球数、IgETARCのうち、血清中のTARCの量のみが、機械的かゆみ過敏の強さと正に相関することが示されました(図2)。

さらに第3段階において、デュピルマブ治療を受けた患者を追跡したところ、自発的なかゆみと機械的かゆみ過敏はいずれも治療早期に軽減しました。治療により血清TARC値は大幅に低下しましたが、それでもなお治療後に残った機械的かゆみ過敏の強さは、血清TARC値と引き続き相関していました(図2)。

以上の結果から、アトピー性皮膚炎患者における機械的かゆみ過敏は、単に皮膚の乾燥レベルや疾患重症度だけで説明できるものではなく、血清TARC値と相関する症状である可能性が示されました。また、デュピルマブ治療後にもTARCとの関連が残存したことから、TARCは治療後に残り得る機械的かゆみ過敏の誘発機構に関与している可能性が考えられ、アトピー性皮膚炎患者における機械的かゆみ過敏の病態理解に加え、新たな治療標的探索に役立つ可能性があります。

    

古宮先生画像2

図2:機械的かゆみ過敏と皮膚乾燥指標、疾患重症度、炎症・アレルギー関連血液マーカーとの関連解析結果 

アトピー性皮膚炎患者を対象に、皮膚乾燥指標である経皮水分蒸散量(TEWL)および角層水分量、皮疹の重症度(EASI)、好酸球数、IgETARC値と、機械的かゆみ過敏の強さとの関連を解析した。その結果、検討した項目の中で、血清TARC値のみが機械的かゆみ過敏の強さと正の相関を示した。また、IL-4/IL-13シグナルを抑制するデュピルマブによる治療後も、残存する機械的かゆみ過敏の強さは血清TARC値と引き続き正の相関を示した。このことから、TARCがアトピー性皮膚炎における「触れるとかゆい」症状と関連する可能性が示された。 

■今後の展開

今回、研究グループはアトピー性皮膚炎の機械的かゆみ過敏と血清TARC値に正の相関があることを見出しました。今後は、TARCが機械的かゆみ過敏に寄与している可能性に着目し、機械的かゆみ過敏におけるTARCの関わりについてメカニズムの解明を目指します。さらに、血清TARC値がアトピー性皮膚炎だけでなく、他の疾患の機械的かゆみ過敏レベルと相関するかについても、かゆみを伴うさまざまな疾患において明らかにしたいと考えています。これらの解明が進めば、機械的かゆみの誘発機序の更なる解明や、デュピルマブなどの現在の治療薬では除ききれないかゆみに対する新たな治療法の開発に繋がる可能性が考えられます。

■用語解説

*1 機械刺激: 皮膚に触れる、押す、こするなどの物理的な刺激のこと。触刺激ともいう。

*2 機械的かゆみ過敏 : 知覚過敏現象の一つで通常ではかゆみを引き起こさない程度の弱い機械刺激によりかゆみが引き起こされる現象。機械的アロネーシスとも呼ばれている。

*3 TARCthymus and activation-regulated chemokineの略 。 ケモカインの一種で樹状細胞、リンパ球などが産生し、CCR4受容体をリガンドとし、Th2細胞を遊走させる。

*4 2型サイトカイン: アレルギー性疾患等の2型炎症の発症に関与する生理活性物質(サイトカイン)の一種。代表的なものに、IL-4IL-13IL-31TSLPなどが存在する。

*5 デュピルマブ IL-4Rαをターゲットとした抗ヒトIL-4Rαモノクローナル抗体。IL-4RαIL-4IL-13のシグナル伝達に関与するため、IL-4IL-13のシグナルを阻害する。従来の治療で効果に乏しいアトピー性皮膚炎患者の皮膚炎、かゆみを改善する。

*6 皮疹部 湿疹や赤み、かさつき、ただれなど、アトピー性皮膚炎による皮膚症状が実際に現れている部位のこと。

*7 炎症・アレルギー関連血液マーカー: 血液中の成分を測定することで、アトピー性皮膚炎のアレルギーの状態や炎症の程度を知る手がかりとなる指標のこと。本研究では、好酸球数、IgETARCなどを評価した。

*8 経皮水分蒸散量Transepidermal Water Loss (TEWL)とも言う。皮膚の乾燥レベルの指標の1つで、皮膚から自然に失われる水分の量のこと。値が高いほど、皮膚のバリア機能が弱まり、乾燥しやすい状態であることを示す。

*9 角層水分量 皮膚の乾燥レベルの指標の1つで、皮膚の最も外側にある角層の水分量を示す。値が低いほど、皮膚表面のうるおいが不足していることを意味する。

*10 eczema area and severity index (EASI): 皮疹の重症度の評価指標。体を「頭頚部、体幹、上肢、下肢」の大きく4つの部位に分け、それぞれの部位に認められる皮疹の面積を「全体に皮疹がある場合を100%」、「全くない場合を0%」として、0から6点でスコア化する(面積スコア)。次に、各部位における徴候(紅斑、浸潤/丘疹、掻破痕、苔癬化)の重症度を「なし:0」~「重度:3」で評価する。それらのスコアを表に記入し、重症度の合計スコアと面積スコアを掛け合わせ、さらに部位毎に異なる係数を掛けた部位毎のスコアを算出し、4部位のスコアを合計して評価する。

*11 好酸球数 好酸球はアレルギー反応に関わる白血球の一種。アトピー性皮膚炎では増加することがあり、炎症や病気の状態を反映する血液検査の指標の一つ。

*12 IgE: アレルギー反応に関わる抗体の一種。アトピー性皮膚炎では血液中のIgE値が上昇することがあり、病気の状態やアレルギー炎症の程度をみる指標の一つとして用いられる。

研究者のコメント

軽い接触でかゆみが起こる「機械的かゆみ」は、自発的なかゆみに比べても、より分かっていないことが多い症状です。なぜアトピー性皮膚炎で機械刺激がかゆみに変わるのか。そしてどういった時に、なぜ「機械的かゆみ感覚」は「過敏化」するのか。その謎に臨床データから迫れた点に、本研究の面白さを感じています。治療への応用に加え、かゆみ感覚が過敏化する仕組みの理解につながることを期待しています。

■原著論文

本研究はActa Dermato-Venereologica誌のオンライン版に202669日付で公開されました。

タイトルAssociation of Skin Dryness and Disease-related Parameters with Mechanical Alloknesis in Atopic Dermatitis: A Cross-sectional and Prospective Cohort Study

タイトル(日本語訳): アトピー性皮膚炎における皮膚乾燥および疾患関連パラメータと機械的アロネ-シスとの関連性:横断的および前向きコホート研究

著者Masaru Uto, Eriko Komiya, Go Kojima, Yayoi Kamata, Sumika Toyama, Kotaro Honda, Takahide Kaneko,  Yasushi Suga, Mitsutoshi Tominaga and Kenji Takamori

著者(日本語表記): 宇藤 優1)2)、古宮栄利子1)3)、小島 豪1)2)、鎌田弥生1)、外山扇雅1)、本田耕太郎1)、金子高英2)、須賀 康2)、冨永光俊1)、髙森建二1)2

著者所属1) 順天堂大学大学院医学研究科 環境医学研究所 順天堂かゆみ研究センター、2) 順天堂大学医学部附属浦安病院 皮膚科、3) 順天堂大学大学院薬学研究科/薬学部 機能形態学

DOI: https://doi.org/10.2340/actadv.v106.adv-2025-0246    

   

本研究はJSPS科研費JP20K08680, JP20H03568(23K20320), JP23K24217(22H02956), JP23K18407, JP24K02265, JP24K22237, JP25K22174の助成を受け、多施設との共同研究の基に実施されました。

なお、本研究にご協力いただいた皆様に深謝いたします。