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生きた細胞をプラットホームにした未来の医薬DNAアプタマーの創製技術「EV-SELEX法」 〜μ-オピオイド受容体を標的とする高機能DNAアプタマーの創出に成功、次世代GPCR創薬への応用に期待〜

■発表のポイント
  • 生きた細胞をプラットホームとするDNAアプタマー創薬技術「EV-SELEX法」を開発
  • 未来の医薬と期待されながら、創薬が困難だったDNAアプタマーを迅速、低コストで開発を可能に
  • 主要な医薬開発ターゲット=GPCRを標的とした次世代医薬の開発を加速する可能性
■研究の概要

順天堂大学医学部薬理学講座・上窪裕二准教授、富山大学学術研究部工学系・田端俊英教授、池本光志・富山大学工学部協力研究員、富山大学学術研究部薬学・和漢系・歌大介准教授らの研究グループは、生きた細胞が発揮する生理機能そのものをプラットホームとして未来の医薬DNAアプタマーを創薬する技術「EV-SELEX(Extracellular Vesicle-Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を開発しました。

DNAアプタマーは遺伝子情報を担う物質であるDNAに立体構造を取らせ、医薬として用いるものです。さまざまな病因分子に結合するものが創製できるため、DNAアプタマーは治療薬のない疾患に対する創薬技術として期待されてきましたが、従来のCell-SELEX法では高性能なアプタマーを得るのに時間とコストがかかることが問題となっていました。本技術は、医薬の開発ターゲットとして最も重要なGタンパク質共役容体 (G Protein-Coupled Receptor (GPCR))に対するDNAアプタマーを短時間・低コストで創薬でき、創薬に大きな進歩をもたらすものです。

いろいろな塩基配列を持ったDNAを、標的GPCRを発現する生きた細胞にかけると、偶然立体構造が構造に合致したものが標的GPCRに結合し、DNAが結合したGPCRは「細胞内取り込み(エンドサイトーシス2)」され、さらにその後に起こる「細胞外小胞(Extracellular Vesicles (EV)3)として放出」されるという一連の細胞生理プロセスが引き起こされます。EV-SELEX法はこの細胞生理プロセスをDNAアプタマーの選別機構として利用する点に特徴があります。今回、本技術を用いることにより、従来技術Cell-SELEX法では困難であったGPCRに対する高い親和性と選択性を有するDNAアプタマーを効率的に取得することが可能となりました。

本手法の有効性を実証するため、疼痛制御に関与するGPCRであるμ-オピオイド受容体(MOR;モルヒネ系の鎮痛薬のターゲットとして有名)4を標的とするDNAアプタマーの取得を試みました。その結果、何も化学修飾を施していないにも関わらず、MORに特異的かつ強固に結合し、モルヒネ様の受容体アゴニスト(作動薬)5活性を示すDNAアプタマー「Dapt-μR」の取得に成功しました。さらに、Dapt-μRは、マウス髄腔内投与実験において、機械的痛覚刺激に対して有意な鎮痛効果を示すことを確認しました。

本成果は、既存治療が十分でない難治性疾患に対する新たな核酸医薬の開発に加え、機能解析が十分に進んでいないGPCRを標的とした次世代創薬の基盤技術としての応用が期待されます。

本研究成果は Nature系列誌「Communications Biology」 に 2026 7月7日(火)(日本時間19:00)に掲載されました。

■研究の背景

GPCR創薬の重要性と技術的課題

Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、細胞表面に存在する7回膜貫通型の膜タンパク質であり、ホルモンや神経伝達物質などの細胞外シグナルを細胞内シグナルへと変換する、生体内の重要な「情報伝達スイッチ」として機能しています。GPCRは、脳機能、疼痛制御、代謝調節など、生体の恒常性維持に不可欠なさまざまな生理機能の制御において中心的役割を担っており、神経疼痛、認知症、代謝疾患をはじめとする多くの難治性疾患の発症や病態進行に関与することから極めて重要な創薬標的として位置づけられています。実際に、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration)により承認された医薬品の約3分の1はGPCRを標的としており、創薬研究における重要性が示されています。  

一方で、GPCRは類似性の高い複雑な立体構造を有する不安定な膜タンパク質であることに加え、多くの受容体において生理機能やシグナル伝達機構が十分に解明されていないことから、高い選択性を有する創薬シーズの取得は容易ではなく、新規医薬品開発における大きな技術的課題となってきました。

既存の核酸アプタマー選別技術(Cell-SELEX法等)の課題

抗体に代わる次世代の創薬モダリティとして注目されているのが、標的分子の特定の三次元構造を高い親和性で認識する短鎖の一本鎖DNAまたはRNAである「核酸アプタマー」です。しかし、従来の核酸アプタマー選別技術であるCell-SELEX法などでは、標的分子への結合性を主な選別指標としているため、標的分子以外への非特異的結合が生じやすいことに加え、PCR増幅工程において配列ごとの増幅バイアスが発生しやすいという課題がありました。その結果、医薬品開発に求められる高い標的結合性と選択性を兼ね備えたアプタマーの取得は容易ではありませんでした。

さらに、従来の核酸アプタマー創薬では、RNAアプタマーが主流であり、体内安定性や機能性を高めるための複雑な化学修飾や分子改変工程が必要でした。そのため、開発期間の長期化やコスト増大が実用化に向けた大きな課題となっていました(図1)。

■研究の内容・成果

EV-SELEX法の選別原理

研究グループは、細胞が本来備え持つ生理反応を選別プロセスに組み込む新発想に基づき、以下の3つの選別ステップを経ることにより機能的アプタマーを厳選する「EV-SELEX法」を開発しました。本技術を用いることで標的GPCRの生理的な三次元立体構造を厳密に認識し、かつ生理活性を引き起こす能力を持つDNAアプタマーを効率的に濃縮・選別することができます(図1)。

選別ステップ

①結合と取り込み: GPCR発現細胞に40塩基長の任意配列を含む合成一本鎖DNAライブラリー(約1024個)を曝露し、細胞膜上のGPCRに正しく結合し「アゴニスト(作動薬)」として機能する候補DNAアプタマーを標的GPCRとともに細胞内へと取り込ませます(Step 12)

②輸送と放出: 取り込まれた標的GPCRDNAアプタマーの複合体は、初期エンドソームからマルチベシクル体(MVB)を経て標的GPCRを含んだ細胞外小胞として細胞外へ放出されます(Step 34)

③高純度回収: 放出された細胞外小胞を回収することで、単に細胞膜表面へ付着しただけの機能しないDNAアプタマーを物理的に排除し、真に機能するリードDNAアプタマーのみを濃縮・精製します(Step )

     

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図1:EV-SELEX法の特徴

(A)EV-SELEX法の選別原理

本法は標的GPCRへの結合に伴って誘導される「細胞内取り込み(エンドサイトーシス)」および、その後の「細胞外小胞(EV)としての放出」という一連の生理反応を選別機構(フィルター)として利用する。これにより、標的GPCRに結合するだけでなく、実際にGPCRを作動させる「機能的」なDNAアプタマーのみを高精度に濃縮・選別することを可能にする。

(B)既存技術Cell-SELEX法との相違

従来のCell-SELEX法は、標的分子との「結合性」を主な指標とする手法であり、非特異的な結合やPCR増幅バイアスの混入が課題となっている。一方、EV-SELEX法は細胞生理機能そのものを指標とするため、単なる結合を超えた「生理活性」を担保した状態で選別を行うことができる。

(C)創薬開発における利点

細胞に本来備わる生理的応答を選別プロセスに組み込むことで、従来法では不可欠であった複雑な化学修飾や分子改変を行うことなく、天然DNAのままで高い親和性と特異性を持つリード化合物を創出できる。これにより、次世代の創薬シーズを短期間かつ低コストで取得することが可能となり、創薬プロセスの大幅な効率化と変革への貢献が期待される。

   

次世代鎮痛剤「Dapt-µR」の創出

EV-SELEX法の有効性を実証するため、痛みの制御に主要な役割を果たすGPCRとして知られるμ-オピオイド受容体(MOR)を標的としたDNAアプタマーの選別を試み、「Dapt-µR」と名付けた高機能DNAアプタマー(76塩基長)の取得に成功しました(2A)。分子機能解析により、Dapt-µRは以下の優れた特性を有することが明らかとなりました。

①高い標的結合性と標的特異性

Dapt-µRは、塩基配列変更や化学修飾を一切施さない「未修飾状態」において抗体に匹敵する非常に高い標的結合性(解離定数 Kd ≈ 28 nM)を示しました。また、Dapt-µRはμ-オピオイド受容体(MOR)のサブタイプであるδ-,κ-オピオイド受容体には全く結合しないという極めて高い結合選択性を示し、生体組織においてもMORが高密度に発現する脊髄後角※6への選択的な結合が確認されました(図2B・2C)。 

②モルヒネ様の作動薬活性と生理応答

HEK293細胞及びラット線条体初代神経培養細胞を用いたin vitro解析から、Dapt-µRはモルヒネ様のアゴニスト(作動薬)活性を示すことが実証されました。具体的には、細胞内におけるcAMP蓄積の抑制や、電位依存性Ca²⁺チャネルを介したカルシウム流入の減少といった、鎮痛機序に直結する生理応答を引き起こすことを確認しました(図2D)

     

スクリーンショット 2026-07-06 121922図2 次世代鎮痛剤 「Dapt-µR」 の分子特性

(A)二次構造予測: 計算機アルゴリズム(Mfold)に基づいて予測されたDNAアプタマー「Dapt-μR」(76塩基長)の推定二次構造。

(B)標的結合性: 赤色蛍光色素で標識したDapt-µRの組織観察。μ-オピオイド受容体(MOR)が高密度に発現するマウス脊髄後角への選択的な結合が確認された。

(C)標的選択性: 各受容体サブタイプ(μ, δ, κ)を強制発現させたHEK293細胞に対するDapt-µR結合実験。緑色蛍光色で標識したDapt-µRは、μ-オピオイド受容体(MOR)発現細胞にのみ特異的に結合した。

D)薬理作用: μ-オピオイド受容体(MORを発現するラット線条体初代培養ニューロンを用いた薬理機能解析。高カリウム(K⁺-rich)液によって誘発される電位依存性Ca²⁺チャネルを介した細胞内へのカルシウム流入(波形)に対し、Dapt-µR (100 nM)はGi/oタンパク質シグナル伝達経路を介して有意な抑制効果を示した。なお、この抑制効果は塩基配列をランダム化したスクランブル配列(コントロールDNA)では認められなかった。

   

③マウス痛みモデルにおける顕著な鎮痛効果

C57BL6/NCr雄性マウスを用いた行動実験において、Dapt-µR(100 pmol)を髄腔内投与した結果、von Frey7フィラメントによる機械的下肢刺激に対する痛覚反応行動が約1時間にわたって有意に抑制されました。この鎮痛効果は、Dapt-µRの塩基配列をランダムに入れ替えたコントロールDNA(スクランブル配列)では認められず、本アプタマーに特有の薬理作用であることが実証されました(図3)。

以上の結果は、Dapt-µRが化学修飾なしで高い生理活性を示し、副作用リスクを抑えた次世代の治療薬候補として、生体内で極めて有効に機能することを示唆します。

      

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図3 マウス痛みモデルにおけるDapt-µRの鎮痛作用

C57BL6/NCr雄性マウスを用いた行動解析の結果。Dapt-µR(100 pmol)を髄腔内投与すると、von Freyフィラメントを用いた機械的下肢刺激に対する痛覚反応行動(逃避行動)スコアが、投与後1時間にわたって有意に抑制された。この鎮痛効果は、Dapt-µRの塩基配列をランダムに入れ替えたスクランブル配列(コントロールDNA)の投与群では認められず、本アプタマーに特異的な薬理活性であることが確認された。

■今後の展開

①創薬プロセスの変革

EV-SELEX法は、長い開発期間を要していた高機能アプタマーの選別を劇的に効率化し、化学修飾を施さずに高い結合能と生理活性を持つDNAアプタマーの選別が可能となるため、創薬コストの削減と期間短縮が期待されます。

難病治療への道

これまで「創薬不能」とされてきた複雑なGPCRや、機能が解明されていないGPCRを標的とした新薬開発が可能になります。これは、がん、精神疾患、慢性疼痛など、既存薬では効果が不十分だった疾患に対する新たな治療選択肢を提供することに繋がります。

■用語解説

1. 核酸アプタマー 

標的分子の三次元構造を認識し、高い親和性と特異性で結合する短鎖の一本鎖DNAまたはRNAのことです。抗体に代わる次世代の創薬モダリティ(治療手段)として注目されています。

2. エンドサイトーシス

細胞が細胞膜の一部を陥入させることで、細胞外の物質を細胞内へ取り込む機構のことです。特に、細胞膜上の受容体にリガンドが結合することで誘導される受容体介在性エンドサイトーシスは、標的分子を選択的かつ効率的に取り込む仕組みとして知られます。

3. 細胞外小胞(EV

細胞外小胞(Extracellular VesiclesEV))は、細胞から分泌される直径約30150 nm程度の膜小胞の総称であり、エクソソームをはじめとする複数のサブタイプが存在します。エクソソーム内部にはタンパク質や核酸などの生体分子が含まれており、これらの内包物を介して細胞間の情報伝達を担います。また、細胞に発現させたGPCRはエクソソーム膜上に組み込まれ、受容体機能を保持した状態で提示されます。

4. µ-オピオイド受容体(MOR

脳や脊髄に存在し、痛みの制御において中心的役割を担うGPCRです。モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬が作用する主要な標的ですが、副作用の軽減が重要な課題となっています。µ-オピオイド受容体(MOR)のサブタイプとしてδ-オピオイド受容体(DOR)およびκ-オピオイド受容体(KOR)が知られています。

5. アゴニスト(作動薬)

受容体に結合してその機能を活性化し、特定の生理反応を引き起こす物質を指します。本研究で創出された「Dapt-µR」は、µ-オピオイド受容体(MOR)に結合するだけでなく、その活性化を介してモルヒネと同様の鎮痛効果を誘導する機能を有します。

6. 脊髄後角

脊髄の背側に位置し、末梢から伝達される痛覚情報が最初に入力される脳内領域です。この領域はµ-オピオイド受容体(MOR)が高密度に発現し、オピオイド鎮痛薬の重要な作用領域として知られています。

7. von Frey(ボンフレイ)試験

von Freyフィラメントと呼ばれる細い繊維でマウスの下肢を刺激し、機械的痛覚刺激に対するマウスの痛覚反応行動(逃避行動)を評価する試験です。マウス等の疼痛研究において広く用いられており、本研究ではDapt-µRを投与した後の鎮痛効果の強度及び持続時間を定量的に評価するために使用されました。

■論文詳細

論文名:

“Efficient and Specific Selection of High-Affinity DNA Aptamers Targeting μ-Opioid Receptor via Functional Extracellular Vesicles”

著者:

Mitsushi J. Ikemoto*, Yuji Kamikubo*, Daisuke Uta, Kengo Kirinoki, Mari Kiriyama, Takumi Miyajima, Hakushun Sakairi, Masanobu Kano, Takashi Sakurai, and Toshihide Tabata*     * Corresponding authors 

掲載誌:

Communications Biology  

DOI:https://doi.org/10.1038/s42003-026-10525-0

   

リリース原文:生きた細胞をプラットホームにした未来の医薬DNAアプタマーの創製技術「EV-SELEX法」