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体罰禁止後も、虐待関連行為の認識にずれ ― 養育者1,098人を対象に27の具体的な虐待関連行為の実態を調査 ―
順天堂大学医学部小児科学講座の中野聡 助教らは、国内の公立小・中学校協力のもと、虐待関連行為*1に関する調査をしました。児童虐待とされる行為やその捉え方は、時代とともに変化し、国や地域によっても異なります。日本では2020年に改正児童福祉法・児童虐待防止法により保護者による体罰*2が禁止され、こども家庭庁も児童虐待の具体例を示していますが、それらが各家庭でどの程度行われ、養育者がどの程度虐待と認識しているのかを示すデータは十分ではありませんでした。そこで、本研究グループは、養育者1,098人を対象に27の虐待関連行為に関する調査を実施しました。その結果、「怒鳴る」「手で叩く」「言葉で脅す」などの行為は多くの養育者に経験があり、虐待としての認識率が低い行為ほど、過去に多くの養育者が行っていたことが認められました。本研究により、体罰禁止後における日本の虐待関連行為の実態と認識のずれについて、その現状の一端が明らかになりました。
本論文はJournal of Epidemiology誌のオンライン版に2026年10月3日付で公開されました。
本研究成果のポイント
- 養育者1,098人に27の虐待関連行為に関する経験と認識を調査
- 「怒鳴る」「手で叩く」「言葉で脅す」は多くの養育者が過去に行った経験がある
- 虐待としての認識率が低い行為ほど、経験率が高いことを確認
■背景
児童虐待は、子どもの心身に長期的な影響を及ぼす重要な社会課題です。日本では児童相談所への虐待相談件数が増加するなか、2020年の改正児童福祉法・児童虐待防止法の施行により保護者や養育者による体罰が禁止されました。行政も児童虐待に該当する具体例を示していますが、これまで「怒鳴る」「手で叩く」「言葉で脅す」などの行為については、一部の養育者に「しつけ」と捉えられてきた経緯があります。体罰禁止が明確に定められた後も、このような虐待関連行為がどの程度行われているのか、またそれらを虐待と認識しているのかを示す客観的データは限られていました。そこで本研究では、27の虐待関連行為について、養育者が過去に行った経験と虐待としての認識を明らかにするとともに、両者の関連を検討することを目的としました。
■内容
本研究では、2023年6~7月に茨城県内の公立小学校14校・中学校8校の協力のもと、虐待関連行為の経験と認識に関する匿名オンライン調査を実施しました。小学4~6年生および中学1~3年生の子どもがいる4,102世帯に各学校を通じて調査を案内し、1,098人の養育者を対象としました。調査では、厚生労働省が示していた児童虐待の具体例(現在は子ども家庭庁「児童虐待防止対策」に掲載)などをもとに、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト*3に関連する27の行為を設定し、それぞれについて「これまで自分の子どもに行ったことがあるか」と、その行為を「しつけ」「虐待」「どちらでもない」のいずれと考えるかを尋ねました(図1)。
調査の結果、27の行為のうち20の行為では、過去に行ったことがあると回答した養育者の割合が10%以下であり、17の行為では90%以上の養育者がその行為を虐待と認識していました。例えば、骨折や熱傷を負わせる行為では、過去に行った経験がある養育者はいずれも0.1%にとどまり、虐待と認識した割合はいずれも99.9%でした。このように、多くの虐待関連行為については、実際に行った経験は少なく、同時に虐待として広く認識されていました。
一方で、一部の行為では異なる傾向がみられました。「怒鳴る」は88.3%、「手で叩く」は59.1%、「言葉で脅す」は47.3%の養育者が過去に行ったことがあると回答し、これらを虐待と認識した割合は、それぞれ19.1%、45.7%、55.0%でした(図2)。このように、実際に行われた経験が多い行為の中には、虐待としての認識が必ずしも高くないものがあることが明らかになりました。
そこで、27の行為全体について、各行為が虐待と認識される割合と、過去にその行為を行ったことがある養育者の割合との関係を調べたところ、虐待としての認識率が低い行為ほど、過去に多くの養育者が実際に行っていたという強い関連が認められました(R²=0.824、p<0.001)。
以上の結果から、多くの虐待関連行為は養育者にも虐待として広く認識されており、実際に行われた経験も少ない一方で、一部の行為では、経験が多く、虐待としての認識が低いという違いがみられることが明らかになりました。本研究は、体罰禁止が法律で定められた後の日本における具体的な虐待関連行為の実態と養育者の認識を同時に調査することで、両者のずれを具体的なデータとして示した点に意義があります。
図1:調査で用いた27の虐待行為(実際にアンケートで使用したイラスト)
本研究では、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクトに関連する27の具体的な行為について調査しました。各行為は、養育者が回答しやすいよう、短い説明文とイラストを添えて提示しました。本図は、その27行為を視覚的に示したものです。

図2:27の虐待関連行為についての養育者の経験と認識
左は、各行為について「これまで自分の子どもに行ったことがある」と回答した養育者の割合を示しています。右は、同じ行為を「しつけ」「どちらでもない」「虐待」のいずれと認識したかを示しています。多くの行為では経験率は低く、虐待認識は高かった一方、「怒鳴る」「手で叩く」「言葉で脅す」などでは経験率が比較的高く、虐待認識が低いことが分かりました。
■今後の展開
本研究により、体罰が法律で禁止された後も、虐待関連行為の実態と養育者の認識には行為ごとに違いがあり、虐待としての認識率が低い行為ほど実際に行われている割合が高いことが示されました。今後の児童虐待予防や子育て支援では、「体罰や虐待をしてはいけない」という一般的なメッセージだけではなく、どのような行為が体罰や虐待に該当し得るのかを具体的に示すことが重要と考えられます。今後は、他の地域や集団でも同様の傾向がみられるかを検証するとともに、具体的な行為についての認識を高め、より適切な子育てを支援する働きかけが、実際の養育行動の変化に加え、更なる子どものウェルビーイングに繋がるかなどを明らかにしていく必要があります。本学ではエビデンスに基づいた子育て支援ワークショップの実施や、自治体の健診事業と連携した子育て支援の導入推進など、研究成果を現場に還元する取り組みをすでに進めており、今後も理論と実践の両面から、子どもと養育者を支える社会の実現に貢献してまいります。
■用語解説
*1 虐待関連行為: 本研究で調査した、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクトに関連する27の具体的な行為。
*2 体罰: しつけを目的としていても、子どもの身体に苦痛や不快感を与える行為。身体的虐待と完全には一致せず、食事を与えないなどの行為も含まれうる。
*3 ネグレクト: 子どもに必要な養育や保護を十分に行わないこと。放置、食事を与えない、学校に行かせないなどが含まれる。
研究者のコメント
臨床の場で、行政が示す虐待の考え方と、家庭で「しつけ」として捉えられている行為との間に隔たりを感じてきました。日本の家庭の実態を示すデータは十分ではなく、その実態を明らかにする必要があると考え、本研究を行いました。虐待をなくすには、理念を示すだけでなく、家庭の実態とのずれを把握し、支援につなげることが重要です。今回の結果が、日本の実情に根差した虐待予防や子育て支援につながることを期待しています。
■原著論文
本研究はJournal of Epidemiology誌のオンライン版に2026年10月3日付で公開されました。
タイトル: Caregiver Recognition and Engagement in 27 Maltreatment-Related Behaviors After Japan’s Corporal Punishment Ban: A Municipal Survey
タイトル(日本語訳): 体罰禁止後の日本における27の虐待関連行為に対する養育者の認識と実施経験:自治体調査
著者: Satoshi Nakano¹˒², Saki Uchiyama³, Risa Yamamoto¹˒⁴, Yasuaki Hachisu¹, Megumi Mito⁵, Akio Nakamura¹, Mitsuyoshi Suzuki¹˒⁶, Mariko Hosozawa⁷, Kyoko Tanaka¹, Hiromichi Shoji¹
著者(日本語表記): 中野 聡¹˒²、内山 沙樹³、山本 里彩¹˒⁴、蜂須 康亮¹、水戸 恵⁵、中村 明雄¹、鈴木 光幸¹˒⁶、細澤 麻里子⁷、田中 恭子¹、東海林 宏道¹
著者所属: 1)順天堂大学医学部 小児科学講座 2)神栖済生会病院 小児科 3)順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床研究・治験センター 臨床研究支援室 4)順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床研修センター 5)千葉科学大学 看護学部 看護学科 6)順天堂大学医学部附属静岡病院 小児科・新生児科 7)国立健康危機管理研究機構 国際医療協力局 グローバルヘルス政策研究センター
DOI: doi.org/10.2188/jea.JE20260276
本研究は、JSPS科研費 JP24K00406の助成を受けたものです。また、調査の実施に多大なご協力をいただいた関係者の皆様に深く感謝いたします。