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2型糖尿病と低身体活動量が併存する高齢者において認知機能障害が多く、海馬体積が低値であることを報告
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の森亮貴 大学院生、加賀英義 准教授、田村好史 教授、綿田裕孝 主任教授らの研究グループは、文京ヘルススタディ*1に参加した65~84歳の地域在住高齢者1,615名を対象に、2型糖尿病の有無と身体活動量の組み合わせにより4群に分け、認知機能障害および海馬*2体積との関連を解析しました。その結果、認知機能障害に該当した割合は、「糖尿病がなく身体活動量が高い」群では15.6%であったのに対し、「糖尿病があり身体活動量が低い」群では38.1%に達し、4群の中で最も高いことが明らかになりました。さらに頭部MRIを用いて海馬体積を調べたところ、「糖尿病があり身体活動量が低い」群では、糖尿病のない2群と比較して海馬体積が小さいことが確認されました。一方、「糖尿病があっても身体活動量が高い」群では、糖尿病がない群と比較して認知機能障害の有意な増加は認められず、海馬体積においても非糖尿病群との間に有意差は認められませんでした。本研究により、今後糖尿病のある高齢者における身体活動の維持が、認知機能の保持にどのように関わるかを明らかにする研究につながることが期待されます。
本成果は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に2026年8月31日付で公開されました。
本研究成果のポイント
- 約1,600名の地域在住高齢者を対象に、認知機能、海馬体積、遺伝子リスクを包括的に検討しました。
- 「糖尿病があり身体活動が低い」群では、1%が認知機能障害に該当し、「糖尿病がなく身体活動量が高い」群と比べ、様々な因子を調整した後も認知機能障害のオッズが約2.5倍でした。
- 「糖尿病があり身体活動量が低い」群では海馬体積も小さく、糖尿病のある高齢者において身体活動を維持することの重要性を検討するさらなる研究の必要性が示されました。
■背景
我が国では高齢化に伴い、認知症を有する高齢者の増加が大きな社会問題となっています。認知症は要介護となる主要な原因の一つであり、その発症を予防し、認知機能をできるだけ長く維持することは、健康寿命の延伸という観点から極めて重要です。
2型糖尿病を有する人では、認知機能低下が起こりやすいことが知られており、特に記憶に重要な役割を持つ海馬は、糖尿病による代謝異常の影響を受けやすい脳領域の一つと考えられています。
一方、身体活動は、認知機能の維持に関連することが報告されています。しかし、従来の研究では糖尿病と身体活動、海馬体積、遺伝的リスクなどはそれぞれ別々に検討されることが多く、「糖尿病があり、なおかつ身体活動量が低い高齢者では、認知機能や脳の構造にどのような特徴があるのか」について、同じ集団の中で詳細に検討した研究は限られていました。
そこで本研究では、東京都文京区在住の高齢者を対象とした「文京ヘルススタディ」において、糖尿病と身体活動量の組み合わせと、認知機能障害および海馬体積との関連を調査しました。
■内容
本研究では、文京ヘルススタディに参加した65~84歳の地域在住高齢者1,615名を対象としました。75g経口糖負荷検査*3を行い、糖尿病治療薬の使用状況と併せて糖尿病の有無を診断し、身体活動量はInternational Physical Activity Questionnaire(IPAQ)*4を用いて分類しました。両者を組み合わせて、①糖尿病なし・高身体活動量、②糖尿病なし・低身体活動量、③糖尿病あり・高身体活動量、④糖尿病あり・低身体活動量、の4群に分類しました。
認知機能はMoCA-J*5で評価し、22点以下を認知機能障害ありとしました。認知機能障害に該当した割合は、①15.6%、②19.7%、③20.4%、④38.1%で、④の「糖尿病があり身体活動量が低い」群で最も高い結果となりました(図1)。さらに、年齢、性別、BMI、教育歴、喫煙、飲酒、APOE ε4*6などを調整した後も、同群では「糖尿病がなく身体活動量が高い」群と比べて、認知機能障害のオッズが2.51倍(95%信頼区間 1.40~4.49)でした(図2)。
また、MRIで測定した海馬体積についても、「糖尿病があり身体活動量が低い」群では、糖尿病のない2群と比較して有意に小さいことがわかりました。一方、「糖尿病があっても身体活動量が高い」群では、非糖尿病群との間に有意差は認められませんでした(図3)。
図1:認知機能障害に該当した人の割合
糖尿病なし・身体活動量高値群では15.6%であったのに対し、糖尿病あり・身体活動量低値群では38.1%と、4群の中で最も高値であった。

図2:糖尿病の有無と身体活動量別にみた認知機能障害のオッズ比
年齢、性別、BMI、教育歴、喫煙、飲酒、APOE ε4などを調整した結果、糖尿病あり・身体活動量低値群では、糖尿病なし・身体活動量高値群と比較して、認知機能障害に該当するオッズが2.51倍であった。一方、その他の2群では有意な増加は認められなかった。

図3:糖尿病の有無と身体活動量別にみた海馬体積
年齢、性別、BMI、教育歴、喫煙、飲酒、APOE ε4などを調整して比較したところ、糖尿病あり・身体活動量低値群では、糖尿病のない2群と比較して海馬体積が有意に低値であった。一方、糖尿病あり・身体活動量高値群では、非糖尿病群との間に有意差は認められなかった。
■今後の展開
本研究により、糖尿病のある高齢者の中でも、身体活動量が低い人では認知機能障害が多く、海馬体積も小さいという特徴が明らかになりました。
身体活動は、年齢や遺伝的背景とは異なり、生活の中で変えることのできる因子です。そのため、本研究の結果は、糖尿病を有する高齢者の健康を考える際に、血糖値やHbA1c*7を管理するだけでなく、「日常生活の中でどれだけ体を動かしているか」にも目を向けることが重要である可能性を示しています。
一方、本研究は一時点の状態を調べた横断研究であるため、身体活動量が低いことが認知機能に影響したのか、認知機能の低下によって身体活動量が減少したのかを区別することはできません。今後、文京ヘルススタディの追跡データを用いて、身体活動量の違いがその後の認知機能低下や認知症発症とどのように関連するのかを縦断的に検討するとともに、運動や身体活動を増やすことで糖尿病を有する高齢者の認知機能低下を抑えられるかを検証する介入研究へ発展させる予定です。
これらの研究を通して、糖尿病のある高齢者が認知機能を保ちながら健康に生活できる期間、すなわち健康寿命を延ばすための具体的な生活習慣の提案につなげることを目指します。
■用語解説
*1 文京ヘルススタディ: 順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンターで行われている、東京都文京区在住の1,629名の高齢者を対象として、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるか、などを明らかにする研究。(参照:https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/)
*2 海馬: 脳の側頭葉内側に位置し、記憶の形成や学習に重要な役割を担う脳領域。加齢やアルツハイマー病などに伴い体積が減少することが知られている領域。
*3 75g経口糖負荷検査: 75gのブドウ糖液を飲んだ後の血糖値やインスリンの変動を測り、糖尿病や耐糖能異常を精密に診断する検査。
*4 IPAQ(International Physical Activity Questionnaire): 歩行や中等度・高強度の身体活動など、日常生活における身体活動量を質問票で評価する国際的な評価法。
*5 MoCA-J(Montreal Cognitive Assessment日本語版): 記憶、注意、言語、視空間認知など複数の認知機能を評価する30点満点の検査。比較的軽度の認知機能低下を捉えるために広く用いられている。
*6 APOE ε4: アルツハイマー病の発症リスクとの関連がよく知られている遺伝的因子の一つ。
*7 HbA1c: 赤血球の中にあるタンパク質「ヘモグロビン」に血液中のブドウ糖が結合したものの割合をパーセント(%)で表した指標。6.5%以上で糖尿病が疑われる。
研究者のコメント
日本は世界でも類を見ない超高齢社会を迎えており、認知症の予防は重要な社会課題です。糖尿病は認知症のリスク因子として知られていますが、そのリスクを十分に抑える方法はまだ確立されていません。今回、身体活動という日常生活で改善可能な因子との関連が示されたことは重要な知見です。今後さらに研究を進め、認知症予防と健康寿命の延伸につなげていきたいと考えています。
■原著論文
本研究はThe Journal of Clinical Endocrinology & Metabolismのオンライン版で2026年8月31日付で公開されました。
タイトル: Associations of diabetes status and physical activity with cognitive impairment and hippocampal volume in older adults
タイトル(日本語訳): 高齢者における糖尿病の有無および身体活動量と認知機能障害・海馬体積との関連
著者: Ryoki Mori,1) Hideyoshi Kaga,1) Yuki Someya,2) Hitoshi Naito,1) Hiroki Tabata,2) Eri Takagi,1) Toshiki Kogai,1) Shota Sakamoto,2) Saori Kakehi,2) Yuya Nishida,1) Ryuzo Kawamori,1),2) Hirotaka Watada,1),2) and Yoshifumi Tamura1,2)
著者(日本語表記): 森亮貴、加賀英義、染谷由希、内藤仁嗣、田端宏樹、髙木恵理、小貝俊樹、坂本翔太、筧佐織、西田友哉、河盛隆造、綿田裕孝、田村好史
著者所属: 1)順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学、2)順天堂大学医学研究科スポートロジーセンター
本研究は、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業/S1411006、JSPS科研費/JP18H03184、ミズノスポーツ振興財団、三井生命厚生財団の研究助成を受け実施しました。
また、本研究に協力頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。