2019年3月18日
教員・学生・卒業生の活躍

【Interview】スポーツ健康科学部 鷹見 由紀子 先生 ~世界の頂点に立った女性剣士が、指導者となった今、目指すもの~

鷹見由紀子先生

生涯にわたり長く続けられる剣道を――
世界の頂点に立った女性剣士が、指導者となった今、目指すもの。

古武道から発展した剣道は、勝敗を競うスポーツである一方、礼節を重んじる人間形成の場でもあります。順天堂大学スポーツ健康科学部助教の鷹見由紀子先生は、2009年世界剣道選手権大会で女子個人優勝。2012年同大会で女子団体優勝、2015年同大会女子個人3位という輝かしい経歴を持つ女性剣士です。現在、順天堂大学剣道部を指導する鷹見先生に競技者、そして、指導者としての思いを伺いました。

剣道の極意は、自分のスタイルを崩さないこと

―剣道を始めたきっかけを教えてください。

私が生まれ育ったのは剣道が盛んな福岡県。小学1年生のとき、ピアノのお稽古へ行く途中に剣道場があり、そこに優勝旗がズラリと飾られているのが気になっていました。そのことを親に話すと、「じゃあ、この道場に行ってみる?」と言われて通うことに。実はそこは福岡県下でも有名な道場で、今思えば運命的な出会いでした。

鷹見由紀子先生

鷹見先生「私の場合、『相手よりも絶対に多く練習してきた!』という自信を持てるまで練習を積み重ねることが基本でした」
―小学校時代から全国大会の常連で、阿蘇高等学校(現・阿蘇中央高等学校)でも清和大学でも全国制覇。ずっとトップアスリートであり続けるために、どのような練習を積んでいましたか?

私の場合、「相手よりも絶対に多く練習してきた!」という自信を持てるまで練習を積み重ねることが基本でした。そのため、全体練習の後にどのような個人練習を積むのか、小学生の頃から常に、自分なりに考えて組み立てていたんです。例えば、全国大会出場を控えていた小学生のときは、道場から帰った後も自宅で素振り500本を2か月間毎日続けました。すると大会で優勝することができて。「努力とは報われるものだ」と身をもって体験しました。大学時代には全体練習の後、体がきつくても再度、面をつけて毎日30分間、自主練習をこなしたりもしました。その結果が全国優勝につながったと思っています。
―剣道の試合で勝つための極意は?

もっとも大切なのは「自分のスタイルを崩さない」ことです。剣道の選手は、それぞれ自分のスタイルを持っています。自分のスタイルを崩すと相手に付け入る隙を与え、相手の長所が前面に出てしまいます。反対に自分の長所をどんどん出していくと、相手の短所が引き出されていきます。ですから試合前のシミュレーションでは、相手の研究よりも“自分の良いイメージ”を振り返ることが多いですね。
自分の中に少しでも不安や迷いがあると、長所を出し切れなくなります。不安や迷いを払拭するためには、「相手よりも練習してきた!」という自信が必要です。何かひとつでも、相手よりも頑張ってきたという自信があれば、試合中の不安や迷いはなくなると思っています。

鷹見由紀子先生

鷹見先生「もっとも大切なのは『自分のスタイルを崩さない』こと。相手の研究よりも“自分の良いイメージ”を振り返ることが多いですね」
―競技人生のターニングポイントを教えてください。

大学4年生のとき、全日本剣道連盟の強化訓練講習会に召集されました。世界選手権大会の代表メンバー選出のための合宿だったのですが、前年度の世界大会男子団体戦で日本が優勝を逃したこともあり、厳しい訓練が行われました。そこで、先輩方と自分との間のあまりの実力差に愕然としてしまいました。

鷹見由紀子先生

鷹見先生は、世界剣道選手権大会で2009年に女子個人優勝を果たし、続く2012年大会では女子団体優勝、2015年には女子個人3位入賞を果たした
(写真は2015年大会のもの)

剣道の実力はもちろん、礼儀作法ひとつ、着装ひとつできていない。実力ある先輩は襟元もピシッとして美しく、なんとも言えないオーラがあるのです。一方、私は剣道の知識もなく、感覚だけを頼りにやってきただけ。「なんでこんなに剣道ができていないんだろう」と惨めでたまりませんでした。このとき初めて、「自分はただ勝つためだけの剣道にこだわってきたのだ」という事実に気が付いたんです。
世界大会はその2年後。講習会後も2か月に1回代表候補合宿があり、徐々に選手が絞られていきます。私は技術だけでなく、人間性を磨くことを重視するようになり、先生方のご指導を持ち帰っては、練習し直す日々が続きました。なんとか代表に残り、2009年の世界選手権大会へ。結果は女子個人優勝でした。

コーチングを学ぶため順天堂大学院へ

―その後も世界選手権で2012年に女子団体優勝、2015年に女子個人3位入賞を果たされましたね。競技以外のキャリアはいかがでしたか?

大学を卒業後、母校で事務職員をしながら剣道部の指導をしていました。しかし、いざ学生を指導するとなると、自分が経験したことしか教えることができません。そこで本格的にコーチング科学を学ぼうと、順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科に入学、修士号を取得しました。その後も博士後期課程に進学し、コーチング科学を中心に、剣道に関することや女性とスポーツに関する研究に取り組み、この3月に博士号も取得しています。
競技者としては2016年に自分の中で区切りをつけ、指導に専念することにしました。剣道は他の競技と異なり、年齢を重ねてもずっと続けることができる競技です。ですから競技を離れる寂しさはあまり感じず、日本代表という肩の荷が下りた気持ちでした。

鷹見由紀子先生

鷹見先生「現在はコーチング科学を中心に、剣道に関することや女性とスポーツに関する研究を行っています」
―現在は順天堂大学剣道部の男子・女子部員を指導されています。剣道は性別に関係なく稽古を行いますが、どんなことを心がけておられますか?

まず男子学生と稽古をする場合、どうしても力やスピードでは勝てません。竹刀を交えたときに力でガッと来られると、思わずひるんで下がりそうになるのですが、敢えて前へ出て対応することを意識しています。また、剣道では技術面に加え、心理面が競技力に大きく影響するため、そのあたりを重点的に教えるように心がけています。
女子学生は「今日の先生は疲れた顔をしているな」など、本当に細かなところまで見ていますね(笑)。だからこそ、自分が観察されていることを意識して、自分が言ったことは必ず実行するようにしています。

順天堂大学剣道部

鷹見由紀子先生

剣道部では、コーチとして学生たちの指導にあたっている

スポーツの現場に女性指導者がいるメリットとは?

―先ほどから先生の稽古を拝見していると、学生にも「〇〇してください」と丁寧な言葉を使い、同じ目線に立って指導しておられることがよくわかります。剣道の現場では、女性指導者も増えてきているのでしょうか。

鷹見由紀子先生

鷹見先生「女子選手の場合、女性ならではの体調の変化や体質に悩みを抱えていることも多いため、
男性に話しづらい内容を私に相談する学生はとても多いです」

剣道は男女が分かれていない特殊な競技で、稽古内容にも指導要領にも昇段審査にも男女差が全くありません。指導者に関しては、圧倒的に男性指導者が多いのですが、最近は女性指導者も増え、女性監督のチームが上位の成績を残しているのも見かけます。
女子選手の場合、女性ならではの体調の変化や体質に悩みを抱えていることも多いため、男性に話しづらい内容を私に相談する学生はとても多いです。公私を問わず日々の悩みも話せますし、フォローもしやすいですね。
剣道界も女性競技者が増えつつありますので、やはり男女両方の指導者がいるのが理想ですね。

男女差なく、生涯に渡って続けられるのが剣道の魅力

―世界大会では海外の選手と対戦するわけですが、世界の剣道事情を教えていただけますか?

これまでの結果から見ると、圧倒的に強いのは日本です。ただし、韓国とは毎回接戦を繰り広げていますし、米国、ヨーロッパなども年々、力をつけてきています。海外の選手と対戦するときは、剣道の違いに戸惑うこともあります。剣道には「絶対」はありません。力の差があっても、必ず勝てるわけではない。そこが剣道の怖さでもあり、面白さでもあります。
ちなみに日本や韓国は子どもの頃から剣道を始める人が多いですが、他の国々は大人になってから武士道に魅せられ、始められる方が多いですね。ですから選手の年代層も20代から40代までバラエティに富んでいます。

鷹見由紀子先生

―国籍はもちろん、性別・年齢に関係なく楽しめるのが、剣道の素晴らしいところですね。年齢とともに剣道も変わりますか?

私自身のことを言えば、大学時代までは足を動かしながら、勢いだけの剣道でした。ところが、20歳を過ぎると徐々に体力は落ちていくため、勢いだけに頼らず全身を使う技術が求められます。30代の今は、技術面や心理面がメインで、まだまだ向上する余地があると感じています。
―学生に期待することは?

剣道は生涯にわたってできる競技なので、学生には今に囚われ過ぎず、30代、40代、50代になっても続けられる剣道を身に付けてほしいです。
剣道の世界には「一眼二足三胆四力」という言葉があります。相手を見て、洞察力を高め、全身を効果的に使うようにすれば、剣道は一生涯、続けられる競技です。順天堂の学生は卒業後に体育の教師となる人が多く、剣道の指導者として模範となる動作を行うことが求められます。そのためにも長く続けられる剣道を指導し、この素晴らしい競技をますます広めていきたいと思います。

鷹見由紀子先生

鷹見先生「剣道は生涯にわたってできる競技。
学生には今に囚われ過ぎず、30代、40代、50代になっても続けられる剣道を身に付けてほしいです」
(※本記事は、2019年3月時点の内容です)
プロフィール
鷹見 由紀子 YUKIKO TAKAMI
順天堂大学スポーツ健康科学部 助教
剣道部 コーチ

2005年、全日本女子学生剣道選手権大会優勝(個人)、全日本女子学生剣道優勝大会優勝(団体)。2008年、清和大学法学部卒業。2009年、世界剣道選手権大会優勝(個人)。2012年、同大会優勝(団体)。2013年、順天堂大学スポーツ健康科学研究科博士前期課程修了。2019年、同博士後期課程修了、博士(スポーツ健康科学)。
2015年より順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科助教に着任、研究のかたわら剣道部を指導する。同年、世界剣道選手権3位(個人)。
Page Top